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その夜、クレイ達は満月の光を受けながら、湖へと向かった。冷たい風が吹いている。

 クレイはマフラーに鼻まで埋めながら、先を行くケビン達を追った。

 「お前ら、大丈夫か?寒いなら戻ってもいいんだぞ」

 ケビンが子供達を振り向き、心配そうにそう言った。

 クレイの隣にはミック、ローワン、ジャックがいる。後ろにはメーラとアカーリア、そしてさらにマーテルとジェナも。いつものメンバーが揃っているわけだが、このメンバーはいつもなら家にいて、暖かい暖炉を囲いながらお茶を飲んでいる時間だ。

 「大丈夫!毛糸のパンツはいてきたから」

 「平気よ。それより、私も月の水作り見たいもん」

 マーテルとジェナが白い息をはきながらそう言った。

 今夜、クレイ達は月の水を作りに来たのだ。

 フワンフワールというものが無いというタロルの話を聞いて、ケビンが「あるよ」と答えたからだ。

 「あのフワフワした雲みたいなやつだろう?魔界でも何度か見たから知ってる。この村のにも出るよ」

 ケビンがそう言うと、タロルとメイヤー、そしてステアは驚きの声を上げた。

 「本当か!?」

 「そんな!私たちもさんざん探したのよ!」

 「おまえ、霧か何かと勘違いしていないか?」

 ステアに疑いの目を向けられ、ケビンはちょっと自信を無くしたようだが、「多分あってると思うんだけどなあ・・・こう、ふわんふわんした奴だろう?満月の日に一番でかくなる。ちょっと土っぽい匂いがする」と言うと、ステアは目を丸くした。

 「その通りだ。そんな馬鹿な。見落としたのか?私が?」

 ステアはそう言って、額に手を当てて首をふった。

 そこで、今夜は満月なので行ってみようということになったわけだ。マーテル達も一緒に行きたいと言い出し、家族に許可を貰って、夜に集まり出発した。

 ケビンがフワンフワールを見つけるのは、村の近くにある湖の周りだった。

 湖の周りには風を遮ってくれる木立がなく、冷たい風がピュウピュウと吹いていた。風に当てられ、クレイ達が震え上がる。

 「みんな、こっちに来なさい。壁を作るから」

 ステアがそう言って、魔法を使う。

 とたんに、風が止んだ。ステアの周りに魔法の壁ができたのだ。

 クレイ達はくっつくようにして、ステアの後ろを歩く。

 ケビンは先頭できょろきょろと辺りを見回しながら歩いている。

 「ううむ・・・機械にはなんの反応もないが・・・」

 タロルが金色の懐中時計のようなものを手のひらにのせて、それを睨みながら唸る。

 それは土地の魔力を測る魔法道具らしく、フワンフワールが出る場所では、強く反応するものらしい。タロルやステア、メイヤーは月の水を作るために、この機械を手にパッパース村中を歩き回ったようだ。しかし、機械は反応しなかった。

 だから、三人は無いと言ったのだ。

 「絶対あるって。オレは子供の頃から見てるんだ。大人になって酒に酔ってても見つけた。だから絶対・・・ほら、あった!」

 そう言って、ケビンが指を指し示す。

 子供達は一斉にそちらを見る。

 ケビンは湖の縁を指差しているように見えた。しかし、そこには何もない。雪が少しだけ溶け残っているものがあるだけだ。

 「どこ?」

 「何もないよ」

 「お前達には見えないんじゃないか?でも、ステア達には見えるだろう?クレイも」

 ケビンがそう言って振り返るが、クレイには見えなかった。メーラを見ると、メーラも目を細めて辺りを凝視している。見えているようには見えない。アカーリアも困った顔で首をかしげる。

 ステアとタロルとメイヤーを見ると、彼らもまた怪訝そうな顔をしていた。

 「ええ!?見えるだろう?あれだよ!ほら、ふわふわしてる!」 

 ケビンは指をぶんぶん降りながら言うが、何も見えない。

 「・・・冗談じゃなく、ちゃんと見えているんだな?」

 ステアが真剣な声で聞いた。

 ケビンもまた大真面目な顔で頷いた。

 「よし、それじゃあ、フワンフールが立ち昇っている場所を指差せ。私たちにわかるように」

 ケビンは湖岸に近づき、水際から少し離れた場所を指差す。

 「ここだ。これくらいにふわふわしてる」

 ケビンが両手で何もない空間を示して見せる。クレイの太ももくらいの高さまで、何かがあるらしい。

 「よし、ちょっと待ってくれ」

 タロルが金色の機械を、ケビンが示した場所に近づける。メイヤーがバックの中からメガネのようなものを取り出した。

 「私も見てみるわ」

 メイヤーはそう言って、メガネをかける。普通のメガネとは違って、ガラスの部分がとても小さい。両目に当てる部分と、耳にかける部分のほとんどが金色の金属でできている。

 「うん、たしかに、ここだけ他の場所よりは値が高い」

 タロルが驚いたように言った。

 「どうやらここは魔力のホットスポットのようだね。フワンフールができてもおかしくない。ただ・・・視認できるようになるには、もう少し時間がかかるはずだ。メイヤー、どうだ?」

 「ちょっと待って、これ、扱いが難しくて・・・うーん・・・」

 メイヤーはうんうんと唸りながら、メガネの端につているダイアルのようなものを回している。

 「他には?フワンフールが出ているのはここだけか?」

 「ええと、そうだな・・・あ、あそこにもある」

 ケビンが湖の中にぽつんと突き出ている小島を指差して言った。そこにも何も見えない。

 「あそこのは、ここよりでかい」

 「そうか、ちょっと行ってみる」

 タロルが比翼を広げ、飛び上がった。メーラも続く。

 「あ!いいなあ!」 

 「そういえば、メーラは空飛べるのよね」

 「アカーリアも飛べるの?」

 「うん、ほら」

 アカーリアが背中に比翼を広げて見せる。

 「でも、ここだとうまく飛べないの。魔力が薄い土地のせいみたい。メーラは慣れてるのね」

 「魔力が薄いとどうして飛べないの?それって自前の翼でしょう?」

 マーテルが首をかしげる。

 クレイも同じ疑問を持っていたので、アカーリアを見る。

 「そう、これは私の肉体の一部。でも、本来はコウモリの姿の時のものなの。それを人型の時に出すのは魔法の力を借りないとできないの。飛ぶときもそう。人型でこの比翼を使うなら、魔法が必要になるの」

 「そうなんだ。ってことは、コウモリの姿になれば、魔法はいらないの?」

 「そうよ。でも、コウモリの姿になるのも魔法を使うの。変身の魔法ね。飛ぶ魔法より難しいの、変身って・・・」

 「そうか!それでここまで歩いてきたんだね!」

 クレイが言うと、アカーリアは恥ずかしそうに「そうなの・・・」と頷いた。

 アカーリアのそんな様子に、マーテル達は不思議そうにクレイを見る。

 「アカーリアは、その・・・魔法がちょっと・・・」

 「下手なの、私・・・」

 そう言って、顔を赤くするアカーリアを見て、マーテル達は目を丸くする。

 「なんだ、そんなこと?恥ずかしがらなくてもいいじゃない。魔法なんて使えなくても別に困らないんだから」

 「そうだよ、オレたちなんてなんにもできないんだよ」

 ジェナとローワンの言葉に、ミック達が「そうそう」と笑う。

 クレイはちょっと困った。

 魔法を上達させたい身としては、笑えない。

 「困らない?」

 アカーリアがポツリと呟く。

 「そうだよ。ここは魔力が薄い土地だし、魔法を使える人はいない。使う必要もない。まあ、今は農業で使ってるところもあるけど・・・」

 「使えなくったって平気よ。死にやしないわ。下手だからって恥ずかしがることでもない。誰も笑わない」

 マーテル達の言葉に、アカーリアは大きな目をますます大きくしている。

 すごく驚いた顔だ。

 「なんの話だ?」

 メーラが空から戻ってきた。

 クレイ達が騒いでいるのが気になったようだ。

 アカーリアの顔をみて、首をかしげ、クレイを見る。

 その時、メイヤーが大声をあげた。

 「ああ!わかった!わかったわ!」

 金色のメガネを外し、ケビンに詰め寄り、グッと顔を近づける。

 まるで強引にキスをしそうに見えて、驚いた。

 メイヤーの目的はケビンの唇ではなく、その瞳だった。

 「あなたは魔眼の持ち主!だから、ここのフワンフールが見えるんだわ!」

 メイヤーの興奮した声が、湖岸に響き渡った。



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