12
その夜、クレイ達は満月の光を受けながら、湖へと向かった。冷たい風が吹いている。
クレイはマフラーに鼻まで埋めながら、先を行くケビン達を追った。
「お前ら、大丈夫か?寒いなら戻ってもいいんだぞ」
ケビンが子供達を振り向き、心配そうにそう言った。
クレイの隣にはミック、ローワン、ジャックがいる。後ろにはメーラとアカーリア、そしてさらにマーテルとジェナも。いつものメンバーが揃っているわけだが、このメンバーはいつもなら家にいて、暖かい暖炉を囲いながらお茶を飲んでいる時間だ。
「大丈夫!毛糸のパンツはいてきたから」
「平気よ。それより、私も月の水作り見たいもん」
マーテルとジェナが白い息をはきながらそう言った。
今夜、クレイ達は月の水を作りに来たのだ。
フワンフワールというものが無いというタロルの話を聞いて、ケビンが「あるよ」と答えたからだ。
「あのフワフワした雲みたいなやつだろう?魔界でも何度か見たから知ってる。この村のにも出るよ」
ケビンがそう言うと、タロルとメイヤー、そしてステアは驚きの声を上げた。
「本当か!?」
「そんな!私たちもさんざん探したのよ!」
「おまえ、霧か何かと勘違いしていないか?」
ステアに疑いの目を向けられ、ケビンはちょっと自信を無くしたようだが、「多分あってると思うんだけどなあ・・・こう、ふわんふわんした奴だろう?満月の日に一番でかくなる。ちょっと土っぽい匂いがする」と言うと、ステアは目を丸くした。
「その通りだ。そんな馬鹿な。見落としたのか?私が?」
ステアはそう言って、額に手を当てて首をふった。
そこで、今夜は満月なので行ってみようということになったわけだ。マーテル達も一緒に行きたいと言い出し、家族に許可を貰って、夜に集まり出発した。
ケビンがフワンフワールを見つけるのは、村の近くにある湖の周りだった。
湖の周りには風を遮ってくれる木立がなく、冷たい風がピュウピュウと吹いていた。風に当てられ、クレイ達が震え上がる。
「みんな、こっちに来なさい。壁を作るから」
ステアがそう言って、魔法を使う。
とたんに、風が止んだ。ステアの周りに魔法の壁ができたのだ。
クレイ達はくっつくようにして、ステアの後ろを歩く。
ケビンは先頭できょろきょろと辺りを見回しながら歩いている。
「ううむ・・・機械にはなんの反応もないが・・・」
タロルが金色の懐中時計のようなものを手のひらにのせて、それを睨みながら唸る。
それは土地の魔力を測る魔法道具らしく、フワンフワールが出る場所では、強く反応するものらしい。タロルやステア、メイヤーは月の水を作るために、この機械を手にパッパース村中を歩き回ったようだ。しかし、機械は反応しなかった。
だから、三人は無いと言ったのだ。
「絶対あるって。オレは子供の頃から見てるんだ。大人になって酒に酔ってても見つけた。だから絶対・・・ほら、あった!」
そう言って、ケビンが指を指し示す。
子供達は一斉にそちらを見る。
ケビンは湖の縁を指差しているように見えた。しかし、そこには何もない。雪が少しだけ溶け残っているものがあるだけだ。
「どこ?」
「何もないよ」
「お前達には見えないんじゃないか?でも、ステア達には見えるだろう?クレイも」
ケビンがそう言って振り返るが、クレイには見えなかった。メーラを見ると、メーラも目を細めて辺りを凝視している。見えているようには見えない。アカーリアも困った顔で首をかしげる。
ステアとタロルとメイヤーを見ると、彼らもまた怪訝そうな顔をしていた。
「ええ!?見えるだろう?あれだよ!ほら、ふわふわしてる!」
ケビンは指をぶんぶん降りながら言うが、何も見えない。
「・・・冗談じゃなく、ちゃんと見えているんだな?」
ステアが真剣な声で聞いた。
ケビンもまた大真面目な顔で頷いた。
「よし、それじゃあ、フワンフールが立ち昇っている場所を指差せ。私たちにわかるように」
ケビンは湖岸に近づき、水際から少し離れた場所を指差す。
「ここだ。これくらいにふわふわしてる」
ケビンが両手で何もない空間を示して見せる。クレイの太ももくらいの高さまで、何かがあるらしい。
「よし、ちょっと待ってくれ」
タロルが金色の機械を、ケビンが示した場所に近づける。メイヤーがバックの中からメガネのようなものを取り出した。
「私も見てみるわ」
メイヤーはそう言って、メガネをかける。普通のメガネとは違って、ガラスの部分がとても小さい。両目に当てる部分と、耳にかける部分のほとんどが金色の金属でできている。
「うん、たしかに、ここだけ他の場所よりは値が高い」
タロルが驚いたように言った。
「どうやらここは魔力のホットスポットのようだね。フワンフールができてもおかしくない。ただ・・・視認できるようになるには、もう少し時間がかかるはずだ。メイヤー、どうだ?」
「ちょっと待って、これ、扱いが難しくて・・・うーん・・・」
メイヤーはうんうんと唸りながら、メガネの端につているダイアルのようなものを回している。
「他には?フワンフールが出ているのはここだけか?」
「ええと、そうだな・・・あ、あそこにもある」
ケビンが湖の中にぽつんと突き出ている小島を指差して言った。そこにも何も見えない。
「あそこのは、ここよりでかい」
「そうか、ちょっと行ってみる」
タロルが比翼を広げ、飛び上がった。メーラも続く。
「あ!いいなあ!」
「そういえば、メーラは空飛べるのよね」
「アカーリアも飛べるの?」
「うん、ほら」
アカーリアが背中に比翼を広げて見せる。
「でも、ここだとうまく飛べないの。魔力が薄い土地のせいみたい。メーラは慣れてるのね」
「魔力が薄いとどうして飛べないの?それって自前の翼でしょう?」
マーテルが首をかしげる。
クレイも同じ疑問を持っていたので、アカーリアを見る。
「そう、これは私の肉体の一部。でも、本来はコウモリの姿の時のものなの。それを人型の時に出すのは魔法の力を借りないとできないの。飛ぶときもそう。人型でこの比翼を使うなら、魔法が必要になるの」
「そうなんだ。ってことは、コウモリの姿になれば、魔法はいらないの?」
「そうよ。でも、コウモリの姿になるのも魔法を使うの。変身の魔法ね。飛ぶ魔法より難しいの、変身って・・・」
「そうか!それでここまで歩いてきたんだね!」
クレイが言うと、アカーリアは恥ずかしそうに「そうなの・・・」と頷いた。
アカーリアのそんな様子に、マーテル達は不思議そうにクレイを見る。
「アカーリアは、その・・・魔法がちょっと・・・」
「下手なの、私・・・」
そう言って、顔を赤くするアカーリアを見て、マーテル達は目を丸くする。
「なんだ、そんなこと?恥ずかしがらなくてもいいじゃない。魔法なんて使えなくても別に困らないんだから」
「そうだよ、オレたちなんてなんにもできないんだよ」
ジェナとローワンの言葉に、ミック達が「そうそう」と笑う。
クレイはちょっと困った。
魔法を上達させたい身としては、笑えない。
「困らない?」
アカーリアがポツリと呟く。
「そうだよ。ここは魔力が薄い土地だし、魔法を使える人はいない。使う必要もない。まあ、今は農業で使ってるところもあるけど・・・」
「使えなくったって平気よ。死にやしないわ。下手だからって恥ずかしがることでもない。誰も笑わない」
マーテル達の言葉に、アカーリアは大きな目をますます大きくしている。
すごく驚いた顔だ。
「なんの話だ?」
メーラが空から戻ってきた。
クレイ達が騒いでいるのが気になったようだ。
アカーリアの顔をみて、首をかしげ、クレイを見る。
その時、メイヤーが大声をあげた。
「ああ!わかった!わかったわ!」
金色のメガネを外し、ケビンに詰め寄り、グッと顔を近づける。
まるで強引にキスをしそうに見えて、驚いた。
メイヤーの目的はケビンの唇ではなく、その瞳だった。
「あなたは魔眼の持ち主!だから、ここのフワンフールが見えるんだわ!」
メイヤーの興奮した声が、湖岸に響き渡った。




