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ケビンのお腹がようやく落ち着き、スミスさんとマギーさん達は帰っていった。ステアとクレイは何度もお礼を言って彼らを送り返した。
しかし、すぐにお客はやってくる。
「ケビーン、元気になったって?」
「ご飯食べられるようになったって聞いたわ。これも食べて元気になって」
「やっと起きたって?」
スミスさん達から話を聞いた村の人々が、お見舞いにやってくる。尽きかけた家の食料が、また増えた。
ケビンは本当に元気になったようで、笑顔で見舞い客をもてなしていた。
「本当にすっかり元気になったわね」
「茶太郎のいう通りだったな。本当にただの疲労だったのか」
お客さんにお茶を振る舞いながら、メイヤーとタロルがケビンを見ながら言った。
その隣では、ステアとアカーリアがとれたての野菜を見ている。
「これが人参、これは白菜だ。こっちは大根」
「野菜見るの久しぶりです。変な形」
「吸血鬼も野菜育てるの?」
「いいや、小さい頃に血液以外の食材も試してみるのだ。我々吸血鬼は、血液以外を食べようと思えば、食べられるからな。しかし、アレルギーがでると怖いから、幼いうちから、大人になるまでに何度か試すのだ」
「そうなんだ。でも、どうして?」
「かならず生き血を吸えるとは限らないからな。人間の世界で戦争でも起きれば、人間の健康状態が一気に悪くなる。そうなると、血を手にいれるのが難しくなるからだ」
ステアの説明に、ミックたちが「へえ~」なっとくの声をあげる。
「こっちは見たことはあるかな?魚の塩漬けだ。魚は殺すとすぐに腐り始める。腐ってしまうと食べられなくなるから、できるだけ長く保存するためにこうして塩漬けにするのだ」
「塩につけると腐らないんですか?」
「ふふふ、そうなのだ。そもそも、肉が腐るには・・・」
アカーリアの質問がステアの教師魂をくすぐっている。
昼を過ぎる頃には見舞い客も落ち着き、ウォルバートン先生が来て、ケビンとアカーリアを診察してくれた。
「うん、二人とも元気そうだね。ケビンは食べすぎないようにね。今言っても遅いかもしれないけど、胃腸に負担がかかるのはよくなよ。アカーリアちゃんは本当に血をすわなくていいのかい?遠慮しなくてもいいんだよ」
「大丈夫です。ここに来る前に吸ってきたので、まだ、お腹はすいてません。花も持ってきましたし」
「花?もしかして、吸血鬼が食べるってやつ?」
花農家のマーテルが反応した。
「そうよ。念のために持ってきたの」
アカーリアはそう言って、肩から提げていたポシェットから種を取り出した。
「え?種なの?種を食べるってこと?」
「ううん、食べるのは花の蜜よ」
「え?今から育てるってこと?」
マーテル達が首をかしげるのを見て、メーラが口を開く。
「この花は一晩で咲くんだよ。だから種のまま持ち歩けるんだ」
「一晩で!?種を植えて一晩で咲くの!?」
マーテルがびっくり仰天する。
クレイも驚いた。メーラ達の吸っていた花が一晩で咲くなんて思ってもみなかった。
しかし、驚いたのはクレイ達だけではない。
「え?一晩で咲くのって、そんなに不思議?」
アカーリアもまた、クレイ達の反応に驚いていた。
「そんな花、見たことも聞いたこともないわ!」
「あ、花自体は特別じゃないのよ。特別な水を与えて、急いで咲かせるの」
「ってことは、その辺に咲いている花も、その水をあげれば一日で咲くってこと?」
マーテルが興奮気味にアカーリアに詰め寄る。
「うーん・・・どうかしら?」
アカーリアが困ったようにメーラとステアを見る。ステアはタロルを見る。
「その辺りはタロルの専門だな」
「そうだねえ、大体は咲くと思うよ。ただ、その特別な水を作るのが、難しいからねえ」
タロルの言葉に、マーテルはがっかりして、アカーリアは驚いた。
「月の水を作れないんですか?どうして?」
「月の水!」
アカーリアの言葉に、クレイは思わず声をあげた。ベーベクラスの絵本に月の水について描かれているものがあった。
月の水は魔法の水。
植物の成長を助けたり、体にできた傷を癒したり、飲むと薬になったりと、とてもすごい力を持った水だ。
たしか、月が出ている夜にしか作れないもので、一番強い効果が出る月の水は、満月にならないと作れないと描かれていた。
「月の水を作るには、清水と月の光、それにもうひとつ大事なものがあるんだ。知っているかい?」
タロルがクレイとメーラ、アカーリアを見て聞いた。
「ええと、フ、フ・・・」
「フワンフワール、ですね」
アカーリアが答えた。
「そう、それがここには無いんだ」




