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25.『理由』

読む自己。

 終業式。

 先生たちの長い話を聞いて教室に戻ってきた。

 今月最後のHRも似たような内容ですぐに終わりを迎えた。

 それで席を立って菫と帰ろうとしたとき、久しぶりに穂ちゃんがやって来て言った。


「ちょっと菫抜きで話したいんだけどいい?」

「あ、分かった、菫ーちょっと穂ちゃんと話してくるねー」


 こくりと頷いてくれたので教室を後にする。

 廊下だと人がいるので彼女の望みから場所は体育館裏に決まった。

 それでやって来た私は壁に背を預けて穂ちゃんが話すのを待つ。


「至さんのことなんだけどさ」

「うん」

「……保留にしたこと聞いたでしょ?」

「聞いたよ? 保留にしたということは悪くないってことだよね?」


 少し顔を赤くして彼女はひとつ頷く。


「お兄ちゃんはずっと好きだったって言ってたけど、穂ちゃんはどうだったの?」

「至さんがまだ高校1年生だった頃にお出かけしたとき、怖い人達から守ってくれて……」

「好きになったんだ? 自分の気持ちに素直にならなくちゃだめだよ?」

「でも……杏が……」

「ううん、大丈夫、これは菫がいるからとかじゃなくてね、私も強くなれたから! 親友に好きな人ができたのなら、応援するだけだよ!」


 相手がお友達でも同じこと。

 その子に好きな人ができたのなら、自分の好きな子であったとしても応援する。


「うぅ……でも恥ずかしくて……杏に甘えるのとは違うって言うか……それに杏のことを好きとか言っておきながらこれって……キスも……」

「あーそれはごめんね私も。お兄ちゃんはね、ベタベタ触ると多分拒むから、ファッションとかで……違うか! そもそも穂ちゃんが向き合うかどうかだよねもう」

「こ、告白されたしね……」

「だったらこうガバっと抱きついて! 好きとは言わずに少しずつ信頼しているアピールをすればいいんじゃない?」


 私みたいに、なんて。

 いや、菫のことを特別な意味で好きではないけど、ちょっとずつ甘えていってるつもりだ。


「それで気分が盛り上がったら、優しく微笑みつつ好きって言えばいいんだよ。好きなんだよね?」

「うん……」

「そっか~まさかお兄ちゃんが好きなんて思わなかったな~お兄ちゃんもずっと好きだったとか言うし、本当に無職にならなければ上手くいってたのにね」


 こんな可愛い子が好いてくれるくらい魅力的な兄ということか。

 菫にとっても私がそうならいいと思う。

 

「わ、私は……無職でも愛せたけど……働いてくれていたほうが堂々とデートできるかなって」

「ぶっ……あははっ、だったらダイレクトに言わないとね? 今日せっかく早く終わったし、お兄ちゃんもバイト休みだって言ってたからさ、お出かけしたらどうかな?」

「も、元々この後……」

「やってらんね~それで保留とかやってらんね~」

「ひどいよっ……言う義務があると思ったんだよ、だから言えてスッキリした! ありがとね杏」

「うん、それじゃあ別々で帰ろうか。菫も絶対待ってるしね」

「うわ~やってらんね~……幸せになれよ杏っ」

「そっちこそ、幸せになれよ穂ちゃんっ」


 穂ちゃんが「ばいばい!」と去っていって待っていると菫が現れた。


「ふぅ、これで強大なライバルが消えたわね」

「あはは、そんなこと気にするんだ」

「当たり前じゃない、ご主人さまの配下は私だけでいいのよ」

「じゃあ、荷物持ちなさい」

「嫌です、ご主人さまももっと頑張ってください」


 石ころを軽く蹴って空を見上げた。

 青くて雲ひとつない綺麗な空だ。

 暑いのにそこから動こうとはしなくて、相方である菫はなにも言わない。

 頑張る、素直になる、向き合う、中々難しい。


「……穂ちゃんみたいに素直にならないとなー」

「そうね、それが一番よ」

「私が素直になったらこの好意はどこへ向くの?」

「さあ、それは杏次第だから」

「自分じゃなくていいんだ?」

「杏次第よ」

「……つまらない、私に向けてって言ってくれればいいのに」


 また石を蹴って唇を尖らせる。

 もしいまきちんと言ってくれていれば雰囲気的にもできたのに。


「好きな人ができたのよ」

「あ……」


 これがあのとき瀧澤さんが言っていたことかと思った。

 そうか、それなら仕方がない、応援するしかできない。


「応援するよ、誰なの?」

「そうね、身長は私より小さいわね。胸も小さいし、器も小さいし、妙なところで強がるし、寂しがり屋だし、甘えん坊だし、名字は確か、えっと、大西だったかしら」

「お兄ちゃんってこと?」

「あとはお馬鹿さんで鈍感、天然、アホね」

「……紛らわしい言い方しないでよ、……もう終わったって思った」


 咄嗟に上向いて良かった、そうしないと流れる涙に気づかれてしまっていたから。


「全然知らないお兄さんを好きになるくらいなら、あなたを好きになるわ」

「……消去法?」

「あと全部吐かせたがる最悪な子ね」

「答えてよ……」

「……そんなわけないでしょうお馬鹿さん、あなたじゃないと駄目なのよ。これでいい?」


 ここまで言わせてれて、なにも感じななんて有りえない。

 あの電話をしたときにそもそも気づいてたことだ。

 人に素直になれって言った、じゃあその言った人間もそうであるべきではないだろうか。


「菫……」

「なに?」

「かき氷食べに行こ?」

「駄目よ、ここまで言わせておいて撤退は許さない」

「冗談だよ……抱きしめて」

「かしこまりました」


 なんかこういう意味で抱きしめられたのは凄い久しぶりな気がする。


「菫……」

「なによ?」

「どうすればいいのっ?」

「あなたが穂に言ったように、素直になればいいのよ」

「好きなのかな私……」


 雰囲気に流されて告白するのは、……大丈夫だろうか。

 すぐに別れるとかっていう結果になったら立ち直れない。


「もうこのまま折ろうかしらー」

「嘘だよ……好き、かも」

「まだ弱い」

「好き……」


 でもどこか彼女ならそんなことしないって期待している自分がいる。

 だから好きとだけぶつけてしまっていた。


「杏、キスしましょうか」

「いーい、かき氷食べに――……はぁ……もぅ……」


 駄目なんだよ、甘さを求めていた心が落ち着いてしまうから。

 駄目なんだよ、あのときみたいに更にほしくなっちゃうから。


「……行きましょうか」

「うん……」


 もう正直どうでも良かった。

 ずっと抱きしめられていたかった。


「菫、かき氷は今度で」

「いいの?」

「こうして引っ付いていたい」


 キスは依存してしまいそうなので抱きしめてくれていればそれでいい。


「じゃあ夕方頃までこうしておく?」

「ううん、適度、だよ」

「はいはい」


 疲れさすのは本望ではないので、適度なところでやめて帰るとしよう。




「やっとあいつも藤原からの告白を受け入れたのか」


 数十分前、ふたりが背を預けていた壁に背を預け呟いた。

 あのふたり、主に大西を追っていた理由は特にない。

 トイレで騒がしくしてて出てみたら絶望! といった表情だったからなんとなくかわっただけで。

 面白いのは確かだったから監視――見れるようにと行動していた。

 でも見れば見るほど、喋れば喋るほど大西がアホだということが分かってどうしようもなくなった。

 萩原はともかく藤原があからさまに好意を示しているのに、それに気づかず喧嘩して別れての繰り返し。

 キスまで受け入れたくせに変に意固地で自分のことを頑なに好きだと認めなかった。


「よっ、火蓮」

「なんだよ」

「そう怖い顔しないでよ~大西さんは?」

「もう監視する必要がなくなったよ」

「なんだ~火蓮の好意に気づいてくれなかったんだね~」


 好意なんてものが果たしてあっただろうか。

 いまでもあの少女のイメージはアホで鈍感で天然でう○ちやろうというところだ。

 藤原はなんか悟っていたようだけど、あたしは一回もそういうのを表にはださなかった。


「相手はどっち?」

「藤原」

「なるほどね~綺麗系に弱いと」


 意外とちょろそうでちょろくない。

 綺麗だという要素は少しだけしか影響を与えていない気がする。

 あ、いや、あいつは胸好きだな、絶対に。


「ここでさっきまであいつらが抱き合ってたんだ、おまけにキスもね」

「女の子同士でキスね~私達もする?」

「しない」


 べつに恋愛の形はどうでもいい。

 表立っていちゃいちゃする奴らじゃないし、誰にも迷惑かけていないのだから。


「火蓮が帰らない理由は?」

「帰っても暇だから」


 夏は嫌いじゃないし、……家にはどうせ誰もいない。

 だったら少しでも“暖かい”場所にいられた方がいい。

 人のそういう部分に触れていないと瀧澤火蓮という女は消えてしまうから。

 大して知らない少女は「それじゃあ私も残ろうかな」と言って呑気な笑みを浮かべた。


「空綺麗ね」

「まーね、汚れのない世界で羨ましいよ」


 べつに虐待をされているわけでも両親が完全に帰ってこないというわけではない。

 ゴミ屋敷というわけでも、特別汚れているというわけでもないので無意な発言だ。

 それでもあいつらの光を見ていると自分が薄暗く汚れているように感じるのは何故だろうか。


「せめて告白くらいすれば良かったのに」

「振られるくらいならしない方がマシ」


 というかあたしはこの少女に吐露したつもりはないんだけどな。

 私が大西達にしていたように、この少女にもされていたということか。

 覗いているとき覗かれている。相手は鏡というのを正にいま見せつけられたのかもしれない。


「ちゅー」

「ん!? ……ばっ、汚いっ!」

「はっ!? し、失礼だなあ」


 唇をゴシゴシと拭く。

 でもそれで少しだけ馬鹿らしいやという気持ちになれたので一応感謝をしておいた。


「ふむ、女の子同士のキスも悪くないな~」

「……二度とするな」

「はーい、今日だけは守るよ~」


 近くに設置された自動販売機にお金を入れてジュースを買う。


「炭酸好きなんだ?」

「まーね、あんたはなににする?」

「え、買ってくれるの? ならカル○スで!」


 みんな好きだな~カル○ス。

 投入口から取り出して放り投げた。


「わっ……優しさないな~」

「無理やりキスする奴に優しくする必要はないでしょ」

「嫌みたいじゃん」

「……好きじゃない女にされても嬉しくないよ」

「ごめん、大西さんにしてほしかったよね」

「……まあ終わったことだから」


 コー○を一気に飲み干して缶をグシャグシャに潰した。

 それだけで気が楽になるのだから、缶には申し訳ないけどありがたかった。

俺が登場させるサブキャラって意味なく終わっちゃうな。

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