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24.『意味』

読む自己。

「あぁ……違うんだぁ……」


 私は藤原家のお風呂場にて嘆いていた。

 これじゃあまんまと菫の作戦にハマってしまったことに。

 実際、彼女が作ってくれた優しい味のうどんは全部食べられたし、そこからも楽しく過ごせたのは本当のことだけど、なんというか癪というか嫌というかアホというか恥ずかしいというか、複雑な気持ちだった。

 “まだ”って要はこれからは変わるかもしれないってことじゃないか。

 しかもこういうときに限って彼女は優しくしてきやがるっ、……嬉しいけど嬉しくない。


「なにが違うの?」

「ううん……ご飯美味しかったよ。でもほら、お母さんの味じゃなくて、お友達の味を求めるのっておかしいかなって」

「確かにそうかもしれないわね、お母さんまた出ていくって聞いて寂しそうな顔をしていたわけだし」

「うん……」


 もう住む理由もなくなって、なのに私はこうして彼女とふたり藤原家にいる、と。

 ちなみに、お兄ちゃんが流れで告白したみたいだけど、保留、にされたみたい。

 即お断りしなかったということは、穂ちゃんにとってもそれなりに大切な存在なんだろうなって。


「そろそろ出なさい、長時間はよくないわ」

「うん、出るね」


 渡してくれたタオルをお礼を言って受け取り髪や体を拭いた。

 綺麗な私服を着てリビングに。


「あ、ねえ菫、ふ、布団洗ったよね?」

「え? ……ええ」

「ん? 汗臭かったでしょっ?」

「……いいえ?」

「いまから洗おう!」


 ほぼベットが占める寝室に行って布団やシースを剥ごうとする。


「駄目よ、余計なことしなくていいの」


 ……後ろから抱きしめられて私の手が止まった。


「あ、そうだ、テストってもう返ってきた?」


 休んでいたためまるで分かっていない。


「全てではないけれどね、とりあえずいまのところは90点以上をキープしているわ」

「すごいっ、今回は私も頑張ったから多分大丈夫だと思う。離して?」

「ええ」


 リビングに戻って床に寝転がる。


「ここで穂ちゃんと寝てたら風邪引いちゃって」

「お馬鹿さんね、3日目の朝から体調悪かったのでしょう?」

「う、うん……」


 それでも1ヶ月前から頑張っていたからテンパらずに済んだ。

 努力では無駄ではないって思えたんだよね。

 だから先輩のそれにも意味があるって考えていたのに、先輩は諦めてしまった。

 私を言い訳にして諦めるのは勿体ない。

 仮に菫が私のことを好きでも、私がまだ好きではないんだからやりようがあると思うけど。


「杏、私から提案しておいてアイスを買わなかった理由、分かるかしら?」

「え、お金がなかったからじゃないの? ほら、私に前10000円も渡しちゃったから」

「ぶっぶーね」


 言い方は可愛い……。


「あなたから貰うつもりだったのよ、先輩がしてくれたみたいに」

「なるほどっ、だったら言ってくれればいいのに」

「先輩にするよう指示したのはあなたでしょう?」

「だって菫が注文しに行ってくれている間に気持ち聞いちゃったからさ」


 協力するって言っちゃったんだよね、なのに結果がこれって……。


「ここで言っておくけれど、泊まっている間に抱きしめたりキスしたりはしていないわよ?」

「さすがにそこは信用してるけど」

「ふふふふふ、やっぱり独占したいんじゃない」

「それは勘違いですから自惚れなく」


 勝手に豆電球にして天井を見上げる。

 またなんとなく手を伸ばして、穂ちゃんみたいに彼女が掴んできた。


「なにか掴み取りたかったの?」

「ううん、こうしてまた菫の家にいるって不思議だなっと。毎回毎回家に帰って戻ってきてたけどさ、いまはふたりでしょ? ふたりだと最初を思いだしてさ」


 まだ敬語だった頃、お兄ちゃんに叩かれて泣いて逃げ込んだのが始まり。

 いや、それより前のことを言えば詩羽に泣かされていたときに助けてくれてから、だけど。


「そういえば髪の毛伸びたわね」

「あ、そっか、ぱっつんだったんだよね! 美少女ってわけじゃないから、クラスの子の反応は変わらなかったけど」

「……まあいいわよ、私はあなたの魅力に気づいているから」

「口説かないでください」


 いま思えば髪の毛を切ったのが良かったのだろう。

 それで彼女の顔もきちんと見られるようになって、大好きな本も気持ち良く読めるようになった。

 前髪を上げたときになにを感じたのかは分からないけど、感謝を伝えておかなければならない。


「菫、ありがとう」

「ええ」

「あのね? ……本当は風邪で寝込んでるとき寂しくて泣いたの。菫はあのときどんな気持ちだった?」

「私は悲しかったわ、好きな女の子からいてくれなくていいなんて言われたら辛いわよ」

「だったらなんで帰ってきてくれなかったの?」

「また拒絶……されると思ったから」

「……それなら私を追い出せば良かったのに」


 強く言われて耐えられるようにはできていないのだから。


「明日……学校早く終わるしアイス食べに行きましょう」

「どれだけアイスが好きなのさ」

「本当はアイスなんかどうでもいい……あなたといられればそれでいいのよ」

「……仕方ないなあ。その前にバックとか持ってこないとね」


 なんで私も仕方ないとか言って受け入れているんだか。

 先輩が諦めたことを知った途端にこれなんてね。


「そういえばどうして持ってこなかったのでしょうね、2度手間ねこれじゃ」

「私がワガママ言ったからだよ、もう寝よ?」


 どこか気恥ずかしさを隠すように手を離して体の下に。

 それでも妙な温もりを感じて顔を熱くさせた。


「お風呂入ってないわよ私は」

「……いいよ、菫はいい匂いだし」

「嫌よ、夏なのよいま」

「じゃあさっさと行ってこいよ! ここで寝てるからっ」


 もう同じように風邪は引かない。

 恐らく菫が帰ってこないという不安から熱がでただけだから。 

 菫もなにも言わない。

 かわりに私の頭を1回だけ撫でてお風呂へと向かっていった。




 翌日の放課後、私たちはまたあのフードコートにいた。

 バニラ大好き少女なのでまた同じのを頼んでスプーンで突っついて食べていく。

 今回はさすがに食べたかったのか彼女もアイスを注文していて、同じようにしていた。


「冷たくて美味しいっ、夏休みになったらかき氷食べに行こ!」

「夏休みにならなくてもそこら辺でもう食べられるわよ?」

「いーのっ、こういうのはね雰囲気というかそういう期間だからこそ美味しく感じるの!」


 お雑煮とかがそうかな、お正月に食べるからこそ一際美味しく感じるわけで。

 ただの氷があそこまで魅力的になるなんて、凄い話だし可能性を感じてワクワクするんだ。

 自分も化けられるかもしれない。頑張るのは無駄ではないと、なんてことはない要素から感じたりね。


「杏、はい」

「ありがとーあむっ……バニラだね、うん」

「一緒だもの」

「なんでわざわざ同じのを頼んだの?」


 友達同士で来たなら違う味を注文してあげっこをするのが普通ではないだろうか。


「私の好みはチョコアイスだけど、あなたの好きな味を好きになりたいからよ」

「ねえ、そうやっていちいち口説かないといられないの?」

「そういう風にプログラムされているのよ」

「き、機械だったんだ~」

「ええ、だからこういうことも平気でできるわ」


 うむ、私にはない強さを彼女はやはり持っている。


「杏、私にもちょうだい」

「機械が食べたら壊れちゃうよ、……私は壊れてほしくないなー」

「壊れないわ、寧ろ食べさせてくれれば、ふむ、そうね……ご主人様にキスしちゃうかも」

「だめです、もういいから食べて」


 ウインク攻撃を華麗に躱して、掬ってから差しだした。


「ええ……ん……バニラね」

「一緒だもの」

「真似するんじゃないわよ」

「えへへっ。仕方ないから配下にはきちっと返していかないとね」

「ふふ、そうね、見返りなしでは続けられないわ」


 なにかゆっくりと返していきたい。

 私にできる彼女が喜ぶことってなんだろうか。

地の文書けね……。

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