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23.『期待』

読む自己。

「お母さんごめん、食欲ないや」


 翌日のお昼、私は用意してくれたご飯を全然食べれず箸をおいた。

 やっぱりまだ体調が微妙のようだと分かる。


「木曜日からずっとまともに食べていないのよね? 駄目よそれじゃあ」

「うん……そういえばお兄ちゃんは?」

「穂ちゃんと食べに行ったみたいよ」

「あははっ、欲求に逆らえなかったんだ」


 穂ちゃんも積極的に誘っていたみたいだし、好きな子が求めれば行きたくもなるよね。

 なんで菫も一生懸命にならないんだろう。

 先輩はああして頑張って菫を誘っているというのに、これじゃああんまりだ。

 分かっているからこそもどかしい、どうにかしてあげたいって思うんだ。

 私は自室に戻って先輩に電話を掛けることにした。


「あ、古川先輩、いま大丈夫ですか?」

「大西さんこそ大丈夫ですか? 木曜日と金曜日お休みしたって聞きましたけど」

「あ、はい、もう大丈夫です! それより菫ちゃんのことなんですけど」

「あ……あと一歩が上手くいかなくて……」

「そうみたいですね……本当に菫ちゃんは難しいです。ひとつだけ分かってることがあるんですけど、こう少し離れようとすると追ってくるタイプなので、押して駄目なら引いてみるというのをしてみたらどうですか?」


 きっとグイグイこられることが嫌なんだと憶測していた。

 だからいまのままだと先輩の頑張りが無駄になる可能性があるので、そう提案してみたんだけど。


「でも……少し離れたらきっとあの子の心は……」

「大丈夫ですよ、何回も喧嘩しましたけど何回も近づいてくれましたから」


 優しいことを知っている。

 あまり時間を共にしていない先輩が不安になるのは仕方ないけど、あまり不安を感じてほしくない。

 だってそれは大切な菫を否定されているようなものだから。


「それで適度な距離間を作るんです、決して離れ離れにならない絶妙な距離間を。そうすれば会いたいという気持ちがお互いに強まると思いますよ」


 実際に体験したことだから胸を張って言える。


「大丈夫です、きちんと協力しますから」

「大西さん」

「はい」

「素直になってください」

「え? いや、私は古川先輩に協力するって言いましたよね? それを守ろうとしているだけですけど」


 お互い綺麗でお似合いカップル。

 私の中に彼女への恋心があるならともかくとして、現在は寂しさしか感じないんだ。


「本当はあの子が、菫ちゃんが好きなんですよね?」

「いえ、お友達としては好きですけど、先輩が不安になるような気持ちは抱いていませんよ」

「その割には寂しくなって菫ちゃんに電話を掛けてきたじゃないですか。それにあの子だって昨日は大西さんを優先したいと言って断ってきましたし」


 菫、なにやってるのっ!? ……空気読めない……。


「家に帰ってこなくて寂しかった、そうではないですか?」

「それはそうですよ、だってお友達なのに、自分の家なのに帰ってこなかったんですよ? それに私は木曜日から寝込んでいましたからね、家事とかできなくて困ってましたから」


 あれで今度から穂ちゃんにも家事を覚えてもらおうと思えたからいい。

 それに、家主が帰ってこなくて寂しいと感じるのは悪くないはずだ。


「古川先輩こそ素直になってください、他人のことなんかどうでもいいじゃないですか! 先輩が頑張らなくちゃいけないのは菫ちゃんに、ですよね? 私の説得じゃない。あと一歩が難しくて困っているなら、こういう時間に考えて考え尽くすしか方法はないんですよ」

「……分かったんです私」

「なにがですか?」

「このまま頑張ってもあの子の心はこちらには向かないと」

「マイナス思考になったらだめですよ! 無意味じゃないですかそんなの!」


 なんでなの……私にはない綺麗さをもっていてなんで不安になるのこの人は。

 私じゃ全然力にならないからこういう発言がでてくるのだろうか。


「……だからお願いします、あの子に一生懸命になってあげてください」

「ふざけないでくださいよ! まだ分からないのに勝手に諦めてそれでお願いってっ、自分勝手じゃないですかそれは! だったら最初から家になんか泊めてなけ……れ……ば」

「ふふ、やっぱり気にしてたんじゃないですか。大西さん、いいえ、杏さん、素直になるのが1番ですよ」

「ち、ちが……先輩こそ……素直に……」


 駄目だよ、このまま想いを強くして私が菫を取っちゃったら、……とんだ最悪やろうだ。

 協力するって言ったのに邪魔してどうするんだよ……。


「お願いします先輩っ、あなたこそ素直になってください!」


 私のために、あの子のためにっ。


「私はもう決めたんです、ただのお友達として関わってもらうと。これは菫ちゃんにも言いました、菫ちゃんも「分かったわ」と言ってくれましたから」

「なん……で、好きって思ってた気持ちはその程度だったんですかっ?」

「……よくあなたがそんなこと言えましたねっ、あなたがいなければ…………いいえ、ごめんなさい」


 気まずくなったのかそこで通話が切られた。

 勝手に諦めておいて私がいなければなんて勝手が過ぎる。

 ……だったら先輩が無理なら、私が菫を説得すればいい。

 電話を掛ける。

 幸いすぐにでてくれた。


「寂しかったの?」

「違う、ねえ菫ちゃん、古川先輩のこといまから考え直してくれないかな」

「……好きになれってこと?」

「察しが良くて助かるよ。そう、あの勝手に諦めて傷ついている先輩に協力するって言ったからさ、これは私の責任なんだよ。あの人のため、私のために、お願い」


 私のせいなんて言われて落ち着いていられるわけがない。

 勝手に諦めたくせして人のせいにするなんて最悪だ。

 だって私が諦めろなんて一言も発したわけじゃないのにだ。

 好きだと気持ちを吐露したわけでもないのにだ。

 

「悪いけれど、それは無理ね」

「なんで……先輩と一緒にいたじゃん! だったらいてあげなかったら良かったんだよ、思わせぶりな行動してあなたは先輩を傷つけた! 少しくらいは責任を取ろうとするのが普通なんじゃないの?」

「あなたにそのままお返しするわ、あなたが1番思わせぶりな行動をしていたのよ」


 違う、私から甘えたことなんて片手で足りるくらいの数でしかない。

 甘えてきたのは、キスを求めてきたのはそっちじゃないか。


「あなたこそ残酷なことを先輩にしたのよ? あなたへと気持ちが向いていると分かっていたのに、協力しますなんて無責任なこと言ってね」

「だからこうして動いてるっ、あなたと違ってちゃんと先輩のために……」

「逆効果なのよ、なんでそれが分からないのあなた」

「だったらなんで家に帰ってこなかったのっ?」

「……あなたに私がいなくてもいいって言われたからよ。悲しいじゃない……拒絶じゃないそれは」


 違う、あれは拒絶ではなく菫と先輩のためを思っての言葉だ。

 寂しくないわけがない、温もりが恋しくて何回も泣いたくらいだ。

 でも、先輩の彼女への想いを聞いて邪魔ができなかった。

 私は好きじゃなかったからああいう言い回しになった。


「先輩の気持ちを事前に聞いていたからああ言ったんだよ、菫も楽しそうにしていたし綺麗同士仲良くなれると考えていた。私は確かに寂しかった、菫が甘えてくれなくなるんだなってね。だけどそれを勝手に覆されたら困るんだよ、特に先輩みたいに深く考えて諦められちゃ困るんだよ」


 彼女への気持ちに気づいたときには遅いかもしれない。

 そのタイミングで彼女が他の子を好きになるかもしれない。

 それがどれだけ辛いことなのか、想像でしかないけど分かっているつもりだ。

 だからその前に希望をなくしておくんだ、それは目の前のこの子の協力がなければ成り立たない。


「というか……はははっ」


 つまりこれはもう彼女しか見ていないってことじゃないか。

 いつの間にか穂ちゃんよりも大切に思っていたということじゃないか。

 それでも、私のために、先輩のために、なにより菫のために、しなければいけないことだこれは。


「お願いします、先輩に一生懸命になってあげてください」


 なにも意味はないけど頭を下げる。

 これで認めてくれないなら土下座だってするつもりだ。


「無理よ」

「お願いします、いま土下座をしていますから!」


 期待を裏切らない。

 この頑固さがあれば先輩に向いたとき一生懸命になってくれる。

 そうすれば先輩と気まずくならずに済むのだから。


「そんなことをされても私は変えないわ、だって私が好きなのはあなただもの。好きな人といてほしい、一生懸命になってほしい、そう言ったのはあなたじゃない」

「あーもうっ、頑固やろう!」


 こういうところは嫌いだ。

 私が好きなら私が望んだように動いてほしいものだ。


「ふふ、いいじゃない、あなたみたいな鈍感さんを振り向かせるにはこれくらいじゃないと無理よ」

「鈍感じゃないし、それはあなただし」

「じゃあお馬鹿さん」

「お馬鹿さんもあなただし、あんな綺麗な人から好きになられてこっち向くとか……馬鹿やろう!」


 誰がどう見てもお似合いカップル。

 奥ゆかしい感じの先輩と、引っ張っていける菫の関係は魅力的なのに。


「似合わないわねー私の後ろ姿見て泣くような子が強がったって」

「か、監視やろう!」


 ばれていることが恥ずかしい。

 指を切ったことまで分かられていたらいますぐ通話切って布団の中にこもりたい。


「そうねーだっていまあなたの部屋の前にいるものねー」

「はっ!? ないな……い……」


 扉がゆっくりと開く。

 しかし、そこには誰も立っていなかった。

 お兄ちゃんたちが帰ってきたわけではないし、幽霊かと怯えていたら――


「ほら、いるでしょう?」


 目の前に姿を現したというのに、わざわざ電話越しに話しかけてくる菫ががが……。


「ストーカー?」

「違うわよ、電話切りましょうか」

「う、うん……って、さり気なくベットに座るなぁ!」


 なんだこいつはっ、あ、昨日ぶつかられたことを根に持っているのかもしれないっ。


「昨日はごめん! でもあれは菫が急に前に立ったから」

「そんなことどうでもいいのよ、ほら、早く好きだと言いなさい」

「い、言わないよ、だってそういう意味でまだ好きになれ……好きじゃないから!」


 うん、だけど直接顔を見て話すほうがやっぱり好きだ。


「菫、食欲ないんだけど菫のご飯が食べたい」

「えーでもあなたはこうして帰ってしまったじゃない、そんな人にご飯作る必要あるかしらー」

「むっ、……食べたいの、多分、菫が作ってくれたご飯なら全部食べれる」

「……なら帰りましょう、あなたの家はここだけど……あなたの気持ち的にはそうじゃない」


 自惚れてくれちゃってんじゃないのこの人……。

 もやもやするのは本当で、こうして落ち着いて彼女と話せるのが嬉しいのは本当で。

 確かにここが実家だけど物足りないのも本当だ。


「ん……」

「手?」


 私は手を差しだす。


「連れてってよ……そうしたら仕方ないでしょ?」

「ふふ、素直じゃないわね。そんなあなたがよく先輩に「素直になってください!」とか言えたものね」

「……いいんだよ、連れてけ」

「可愛気がないわね……一旦帰ったらうどんでも買ってくるわ、だから大人しく待っているのよ?」

「ん……」


 子ども扱いをされるのは不服だけど、多分歩き回るような元気はないし嬉しい提案だった。

キスとか気軽にさせないほうが書きやすい。

でも、俺の作品ってワンパターンね。

距離を作ろうと喧嘩したほうが書きやすいのが悪いんだ。

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