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16.『晴君』

読む自己。

 私はコピー用紙とにらめっこしながら本を棚に戻していた。

 なぜそんなことをしているかと言えば、詩羽さんが困っていたから。

 この前シフォンケーキを貰って大変美味しかったので、それなら私が! と申しでたのだ。

 カウンターだけでなく机に積まれた大量の本を1冊1冊、棚に戻していくという単純な作業ではある。


「ん~意外と大変だね~」

「毎回こうなんですよね。すみませんっ、手伝ってもらってしまって」

「ううん、なにかしてあげたいって思っていたから!」


 少し返せるならと考えての行動だ。

 それに意外と大変で重いけど楽しいので、良い機会をもらえた気がする。

 ……2時間もかかってしまったのは正直予想外だったけど、彼女が買ってくれたジュースがとても美味しくて、……これでまた借りを作ってしまったとも知らず喜んだ。

 図書室の扉の鍵をきちんと閉めてふたりで職員室へと向かう。

 彼女が鍵を返している間ぼけっと待っていると彼女が戻ってきて下駄箱へ。

 靴を履き替え外に行こうとしたら、今日も雨が降っているため気分が少しだけ沈んだ。


「藤原さんたちとはあまり帰らないんですか?」

「そうだね~最近はあんまり帰らないかも」


 最初の頃は毎日帰ってあの綺麗に触れたいと思ってたな。

 それがいつの間にか一緒に住むことになって甘えるようになってきて、逆に帰ることは減ってしまった。

 私が放課後に残ることがあるので「帰っていいよ」言ってるからなんだけど、……寂しいのはあるかも。

 穂ちゃんは部活動に行くからそもそも帰れないし。


「お、大西さんっ」

「ど、どうしたの?」

「あ、あし、明日! ……一緒に近くの商業施設に行きませんかっ? 弟が行きたいってうるさくて……でもどうせなら大西さんとも……無理なら無理でいいんです!」

「弟がいるんだっ? 私も菫ちゃんも穂ちゃんもひとりっ子だからさー! うん、じゃあ行かせてもらおうかな。何時集合?」

「あの公園にまた10時に集合で……お願いします!」

「分かったっ、じゃあ帰ろっ?」

「は、はい!」


 うーん……でもどうせ行くなら詩羽さんに敬語をやめてほしいと思う。

 いきなり言うと多分余計にひどくなっちゃうだろうしと、歩いて自然に会話をしながら引き出すことに。


「詩羽さん、可愛いねっ」

「えええぇえぇ!?」

「ひゃっ!?」

「あ、ご、ごごごめんなさい! で、でも、どうして急に……」

「え、だって詩羽さんは可愛いよ? だから敬語はやめてほしいな~」


 本当は土面に咲いている白色の花を褒めたつもりだった。

 それでも本人がこうして反応してしまったなら野暮なことは言わない方がいい。

 彼女が可愛いのも本当のことだ、……偉そうだけど私寄りな人で安心できる。


「……ごめんなさい、それはできません」

「あ、そうなの?」

「もしかして……敬語やめないと行ってくれませんか?」

「ううん、行くのは約束だから! あ、私こっちだから、明日よろしくね!」

「はい、よろしくお願いします」


 彼女と別れて少し歩く。

 藤原家にはすぐに着いて家の中に入った。




 私は予定より30分早く公園に着いていた。

 今回はきちんと菫ちゃんにも穂ちゃんにも説明してあるため、堂々と楽しむことができる。

 服装は簡単な薄長袖とスカートで来ていた。

 ……デートってわけじゃないしそんなお洒落しても仕方ないだろう。

 50分を超えた頃、詩羽さんと小さな男の子がやって来た。


「おはようございます、ごめんなさい遅くなって」

「おはよ! ううん、大丈夫だよっ? それよりその子が?」

「はい、弟のはるです!」

「よろしくね?」

「………………杏ちゃん、よ、よろしく」


 なっ!? か、可愛いっ……。

 私は思わずキュン死しつつも晴君の頭を撫でておいた。

 少し複雑そうな顔をしている詩羽さんに「行こっか?」と声をかけ晴君の手を握り歩きだす。

 ここから商業施設は大体10分くらいかかる。

 だからこの時間を利用して晴君のことを知ろうと思ったんだけど……。


「お、お姉ちゃんっ、助けてっ」

「えぇっ……ごめんねぇ……」


 怖がられてしまいすぐに彼女のところに戻ってしまう。

 と、とにかくまだ始まったばかりだ! 悲観することは全然ない!

 少しの悲しみを抱えながらも歩いていたら商業施設に着いた。

 中に入ると早速沢山の人が見えてはぅぇ~と内心で呟く。


「杏ちゃん……手」

「う、うん! 詩羽さん、どうする?」

「晴がすぐ疲れてしまうのでゆっくりと歩きましょうか」

「そうだねっ、晴君が疲れたら私がおぶってあげるし大丈夫だからね?」

「……うん」


 というわけで早速移動を開始すると服屋さんとか小雑貨屋さんとかが見えてくる。


「詩羽さん?」


 さっきから全然元気がない。

 まだ来て見始めたばかりだというのに、どうしたんだろう……。


「あ……少しトイレに行ってきてもいいですか?」

「うん、じゃあそこのソファに座って待ってるね! 行こっか晴君」

「うん……」


 晴君もまだ少しぎこちないし……。

 ソファに晴君を座らせて横に座る。

 その間にも手を離さず、かといって積極的に話しかけるということはしなかった。

 喉乾いてない? とか、人が沢山とかいるね~とかそういうところだけ。


「……杏ちゃん、お姉ちゃんにもやさしくしてあげてほしい」

「詩羽さんに? それはもちろんするつもりだけど」


 ちょうどトイレから彼女が戻ってきて横に座ってくれたので――


「詩羽っ」

「ふぇっ!?」

「いや~晴君が優しくしてあげてって言ってくれたからさ~確かに晴君の相手ばっかりしちゃってたし」

「杏ちゃっ……言っちゃだめっ!」

「あーもう可愛いなあ!!」


 小さい手で必死に私の手を握ってきてくれてるし……正直、晴君がいてくれればこのままソファにいたままでもいいと思った。

 でもそれをするとお姉ちゃんである詩羽はつまらないだろうし、なにより弟を取られるのは嫌だろう。

 だから立ち上がって詩羽の手も握り「行こっ?」と明るく誘う。


「あ、あの……大西さん……」

「杏でいいよ~?」

「杏さん……今日はありがとうございます」

「まだ早いよ~あともうちょっとしたらお昼ご飯食べようね! 晴君はなにが好き?」

「は、ハンバーグ……」

「あははっ、男の子だね! たくさん食べて大きくなって格好良くならないとっ」


 私たちは晴君も興味が持てるであろうホビーショップにいたんだけど。

 ポケットの中に入っている財布、それを握りしめて私は額から汗を流す。

 というのも中には1000円札及び500円すら入っていないのだ。

 でも晴君はハンバーグが食べたいと言う……そういうお店の最安値ってどれくらいだろう。

 お水じゃあ申し訳ないし、ドリンクバーだけなのもふたりに気を使わせてしまうし……。

 だから一旦、詩羽さんに晴君を任せて抜けることに。


「あ、もしもし菫ちゃんっ? うん、あの、お金……」

「だと思ったわ」

「あれ……声が逆の耳から……えぇ!?」


 そこには少し厳しい表情を浮かべた菫ちゃんが立っていた。


「……飯島さんを口説いているんじゃないわよっ」

「ち、違うよ……それよりお金……」

「……帰ってキスしてくれるなら貸してあげる」

「ええ!? な、ならいいかな~」


 それだったらまだドリンクバーで済ませておいた方がいい。 


「分かったわよ、抱きしめてくれるだけでいいわ」

「それなら……って、10000万円も貸されたって返せないよ」

「あげるわ、それより戻りなさい」

「う、うん……菫ちゃんはどうするの?」

「監視――少しウインドーショッピングでもするつもりよ、それじゃあ」


 うぅ、監視……まあいっか。

 ショップに戻るとちょうど詩羽が晴君になにかを買ってあげたあとだった。


「晴君、なに買ってもらったの?」

「……カード」

「そっかっ、男の子ってカードゲーム好きだもんね~あ、それよりもうご飯食べに行こっか! 詩羽もそれでいいでしょ?」

「はい、行きましょうか」




 案内された席に座ってメニューを見ていた。

 単品だけなら400円ぐらいからのもあって借りる必要なかったかなと思ったけど、どうせならご飯も食べたいしドリンクバーも頼みたい。

 とりあえず無難に私はハンバーグセットに決定っ。

 ふたりはまだ悩んでいるようなので、窓の外を眺めることに。

 外と言っても施設内ではあるため沢山の人が歩いていた。

 こうしてお昼から飲食店にいると優越感を感じるのは私だけだろうか。

 ただお客さんの中でカップルを見つけてしまいさっと視線を逸らす。

 ……ああやって仲良く手を繋いで堂々としていられるのは少し羨ましい。


「杏さん? 店員さん来てしまってますけど……」

「あっ!? は、ハンバーグセットをお願いします!」


 細かいことを聞かれたのでそれに答えて、ふたりにあははと照れ笑いを見せる。

 数分して運ばれてきたハンバーグをちまちま食べつつ、またなんとなく窓の外へ視線を向けた。

 私たちがあくまで手を繋げるのは見知った人の前だけだ。

 ああして堂々と歩けるかと問われれば、いいえ、と答えるのが正しいと思う。

 ましてや先程、目の前を通った大人のお姉さんみたいに腕を組んだりは不可能で。

 相手が女の子であったとしてもドキドキするのだから仕方ない。

  

「あっ……こら晴っ」

「ご、ごめんなさい……」


 意識を戻すとどうやらコップを倒してしまったみたいだった。

 ジュースの方は詩羽が拭いてあげているので、私は晴君の頬を拭いてあげることにする。


「ソース、ついちゃってるよ? 好きな女の子に笑われないよう、綺麗に食べないとねっ」

「……あ、ありがと……」

「どういたしましてっ、詩羽大丈夫?」

「はい、大丈夫です。ごめんなさい、でも晴も杏さんといれてきっと嬉しいと思います」

「それだったら嬉しいな~晴君、私のこと好きっ?」

「えっ!? ……わ、分からない……」

「そ、そりゃそうだよね~まだ会ったばっかりだし」


 ごめんねと言って笑ってからハンバーグを食べた。

 考え事をするのはなにもいまじゃなくたっていい。

 美味しいご飯が冷めちゃったらもったいないし、なによりふたりに失礼だ。

 だから適度に会話をしつつ味わって残りを食べることに集中した。




 飲食店を出たあとはペットショップを見に行ったりゲームセンターに行ったんだけど。


「杏ちゃ……眠い」

「あ~詩羽どうする?」

「こうなると寝てしまうので帰りましょうか」

「そっか、でも仕方ないよね。晴君は私がおんぶするから!」


 施設をあとにして道を歩いていく。

 今日は雨じゃなくて本当に良かった。

 さすがに傘をさしつつ背負って帰るのも大変だから。

 そういえば連絡しなかったけど菫ちゃんは帰っただろうか、……いまも見てそう。

 近くの公園まで戻ってきて、晴君を優しく地面に下ろす。


「晴君、帰ってゆっくり寝よっか?」

「……杏ちゃんと離れたくないっ」

「うぅ……私も離れたくないよぉ……」

「杏ちゃん……好き」

「私も好きだよぉ!」


 もうこの可愛い弟を持って帰りたかった。

 それでも始まりがあれば終わりは必ずあるわけで。


「むぅ……」

「ど、どうしたの詩羽?」

「晴ばっかりに優しくて私には全然、だったですよね」

「えぇ~? そ、そうだったかなあ……詩羽も好きだよ?」

「最低ですっ、お世辞で言うのが1番むかつきます!」

「は、晴君助けてぇ……」

「お、お姉ちゃん、杏ちゃんにやさしくしてっ」

「……今日のところは許しますっ」

「ありがと!」


 何度も小さい手でぶんぶんと振ってくれた晴君に手を振り替えして、私も公園をあとにした。

 しかしすぐの場所で案の定、菫ちゃんと遭遇する。


「誰にでも好きって言うのねー」

「あ……す、菫ちゃん、お金返すよ?」

「いいからここで抱きしめなさい、約束でしょう?」

「あのーまだ外なんですけども……はい……分かりました」


 自分より少し大きい彼女を抱きしめた。

 大きくても柔らかい、もっと触れていたくなるくらいの魅力。

 ……なによりちょうど顔が胸より少し上くらいなので、そのロマンあふれる場所に顔を――


「どうしたのよ?」

「い、いえ……もういいですか?」

「……好きって言って、そういえば言われたことないって思い出したのよ」

「菫ちゃんのこと好きですよ」


 すぐ可愛いところ見せてくれるし甘えてくれる。

 クラスの女の子は分からないところを知っているのが、私は嬉しかった。 


「穂より?」

「いえ、あなたはあなたで、穂ちゃんは穂ちゃんですから」

「敬語やめなさい」

「あははっ」


 いますぐ誰かと決めることはできないし、する必要もないと思う。

 特になにもトラブルがなく楽しい時間が過ごせたら嬉しいな。 


「杏……キスしてほしいの」

「もぅ、だめだよー。帰ろ? 手繋いであげるから!」

「馬鹿杏!」


 手を握ったらすぐに彼女は落ち着きました。

あー会話だけで俺の作品って成り立つのはいい。

ただ、読者の人にとっては退屈だろうね。

そもそも、読む人いるのか分からないけど。

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