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15.『距離』

読む自己。

 5時限目も6時限目も彼女は教室に戻ってこなかった。

 掃除当番の週になっていたので私は放課後にひとり掃除をして。

 終わったため、鞄を持って下駄箱へ向かうと瀧澤さんがそこにいた。

 「そこのベンチで座って話さない?」と言われ了承をする。


「いつものふたりはどうしたの?」

「先に帰ってもらったよ」


 少なくとも菫ちゃんには。


「ふぅん、そういえばあの子は大丈夫なの? 傘もささないで……」

「あ……多分、ね」


 早退したとは聞いてないし、少なくとも風邪というわけではないだろう。

 教室に戻ってこれなかったのは私のせいだ。

 これが単なる自惚れ、自意識過剰であったなら、どれだけ楽だろうか。


「ふふふ、やっぱり瀧澤さんはふたりのことが気になるんだね」


 ほら、私と友達になったのだってそういう理由があったからだよ。


「はーそりゃまあ学年の有名人だからねー」

「だねっ」


 はぁと内心で溜め息をつく。

 その有名人ふたりを自由にしてしまったことに。

 いや、どうしてあのふたりが私を気に入ってくれるのかは分かっていないし、私があのふたりに気に入ってもらえるようなことをできたというわけではなかったけど。


「ねーどうしてあんたはあのふたりと一緒にいられてるの?」

「本当にそうだね、私が1番思うよそれは」


 善意からいてくれてるのに傷つけて悲しませて泣かせて、ね。


「だから一緒に付き合ってあげるよ?」


 あのふたりにもっと友達ができれば、あんなことは起こらずに済むから。

 少し前に戻ってひとりでいる生活に戻ればいいんだよ。


「そっか、じゃあ今日藤原の家に行かせてもらおうかな」

「それがいいよ! 行こっ?」


 藤原家に到着。

 ……リビングの端に座っている穂ちゃんはスルーして、菫ちゃんにまた同じ話をした。


「藤原……さん、あたしとも友達になってほしいんだ」

「いいわよ、前は悪かったわね」

「いや……で、そっちの大丈夫なの?」

「……多分大丈夫よ」


 今回は秒で私服に着替えてスマホだけを待ち瀧澤さんを置いて部屋から飛びだす。

 役目を果たした、今回は菫ちゃんも疑わず友達になるって言ったし、……彼女のためにも私がいないほうがいいと思ったからだ。

 時々、路傍に咲いた花を見たり、電柱をジッと眺めたりして時間をつぶしていく。

 上を見上げればお昼の穂ちゃんみたいに涙を流す灰色の世界様がそこにある。

 彼女の悲しみが増していくのに連動したのか、雨足が一層強くなった。

 彼女の涙ならと思いきって傘を閉じた。

 こんなことをしても罪滅ぼしにはならないのに、自分が平静でいられるようにと、必要だと割りきって。

 わざとゆっくりと歩いて味わっていく。

 そこで「……なに馬鹿なことしてるの」と後ろから声がかけられた。

 私は振り向かず「たまにはこういうのもいいでしょ」と答える。

 ……振り向く必要はない。


「言っておくけどっ、……私の方が傷ついたんだからっ」

「なに言ってるの? 私はべつに傷ついてないよ」

「だ、だったらなんでそんなことっ」

「だから言ったでしょ、たまにはいいよねって、それだけだよ」


 あくまで普通に……いや、少しいまの自分は冷たい声音をしているのかもしれない。


「言い訳しなかったのって、もう菫しか見ていないからってこと?」

「ううん、させてくれないなら関係を終わらせるって言われたからさせただけ」

「他意はないってこと?」

「他意……大切だから関係を終わらせたくなかったというのならあるよ」


 関係を終わらすとか極端なことを言ってこなかったなら、させていなかったと私は思う。

 それともあれかな、穂ちゃんにとってはホイホイとする、させる女と感じているのかな。

 実際にそのとおりかもしれない。

 でも、何度も言うけど、私が悪く言われても全然構わなかった。


「それより大丈夫だったの? 5時限目も6時限目も来なかったけど」

「……いけるわけないじゃん」

「そっか、ならどうしていまはこうして私と喋ってるの? 顔を見たくなかったんだよね?」

「だって瀧澤さんもいるのに、あなたが逃げるように出ていったから……」

「同じことをしているだけだって思わなかったの?」


 一応それなりに彼女たちのことを考えて動いているつもりだけど。

 私は逃げなかった、実家に帰るのは容易なのにきちんとふたりの前に顔をだした。

 もちろん、ある程度気分が落ち着いたら藤原家に帰ろうと考えている。

 なのに、彼女のために動いたのに、彼女が来てしまったら意味がない。


「こっち向いてよっ」


 彼女の希望ならと振り向いたら彼女も同じく傘をさしていなかった。

 ふたりとも馬鹿でアホで間抜けで、本当にどうしようもない。


「それで濡れてまで追ってきた理由は?」

「……杏とぎこちなくなりたくない!」

「いや、きちんと戻ってきてくれればならなかったよっ」

「だって菫とキスしないでって言ったのにしたから悪いんでしょ!」

「だからあれはっ……ごめんもありがとうも言えないじゃん、なんて言ったらいいの!?」

「知らないよっ!!」


 道の真ん中でなにをやっているんだろう。

 それに浮気した、されたカップル同士の喧嘩みたい。


「だからかわりに……上書きのキスしてよ!」

「は、はいぃ? で、できるわけないでしょ!」

「どうして!」

「……もう帰ろ? 一緒にお風呂入ってそれから床に転びたい……今日は疲れちゃった」


 ……藤原家に帰ったら菫ちゃんと瀧澤さんに怒られちゃったけど。

 すぐにためてくれたお風呂にふたりに入る。


「温かいね、ちょっと体冷えちゃってたから」

「杏の馬鹿っ、6月でも冷えるに決まってるじゃん」

「穂ちゃんだって……まあいいけど」


 お風呂から出て床に寝転ぶ。

 少し肌寒いので毛布も借りて猫みたいに丸まって。


「あ、瀧澤さんはいつまで残るの?」

「もう帰るけど」

「あ、ごめんね、連れてきたのに外に出ちゃって」

「……ま、いいよ、じゃーね」


 微妙な顔のままだったな……改めて明日謝罪しよう。

 それから数十分して菫ちゃんが作ってくれた美味しいご飯を食べて。

 満腹の私は満足して再び床へと背中を預ける。

 ……ぶつかりあった穂ちゃんはともかく、菫ちゃんとはなんとなく顔を合わせづらい。

 後悔していなければいいけど……。


「杏、膝枕」

「ふふ、やっぱり穂ちゃんは甘えん坊さんだね」


 体を起こして正座をするとそこに彼女が頭を預けてきた。

 温かくて暖かくて、疲れもあって少し眠たくなる。


「穂……ちょっとどいて」


 上半身を倒して普通に足を伸ばす。


「太ももに乗っけていいからね、ちょっと眠たいからお昼寝、お晩寝をしようかと」


 そのとき菫ちゃんが近づいてきて「杏、寝るならベットで寝なさい」と言ってきた。


「う、ううん……ほら、穂も膝枕してほしいって言ってるし」

「……お風呂行ってくるわ」

「い、行ってらっしゃいっ」


 一応眩しくないようにと彼女が豆電球にしてくれたことを感謝しつつ目を閉じる。

 

「杏、菫としたときどうだった?」

「えっ? そ、そうだねえ……柔らかかったけど」

「そのあとの顔にドキドキしなかった?」

「……逃げるようにその場をあとにしちゃったからね」


 今回はギュッて痛くなるようなことはなかった。

 それは単純にこの子が後悔していないかなと不安だったからだろうか。

 とにかく感じたのは柔らかかった、それだけ。


「……私としたときは?」

「言ったと思うけど、もやもや感が残っただけだった。私が頑張ってしたけど笑ってもらえないんだって、嫌だったのかな、気持ち悪かったかなって不安だった。でも、嫌なわけないよ! って言ってくれたとき、本当に嬉しかったんだ!」

「そ、うなんだ?」

「うん、でもホイホイキスする女ですからっ」


 だから本当は傷つけないために距離を置くべきなのかもしれない。

 だというのに私はこうしてのうのうと藤原家リビングにて寝っ転がっているわけだ。

 ひとりは怖い、それは誰だって感じることだろう。

 もう知ってしまったのだ、彼女や菫ちゃん、詩羽さんや瀧澤さんがいる甘い生活を。

 だったらこれから上手くやって今度こそ傷つけないよう生活を心がければいい。

 完全に傷つけないというのは不可能だけど、逃げで関係を絶つよりは褒めてくれる気がする神様が!


「うーん、確かに嫌な子だけど……べつに私だけにしてくれれば……」

「もぅ、甘やかしちゃだめだよ私を! 調子に乗っちゃうからね」


 もうしないっ、関係がひとつ上がるまではどれだけ甘えられても耐えきってみせる。


「杏、少しいいかしら」

「あ、うん……」


 彼女は穂とは逆の足に頭を乗っけて言った。


「キスしたあとに逃げたくても……いいと思うのだけれど」

「あはは……ごめんね」

「ちょっと菫っ、私もいるけどっ?」

「だって隠すようなことでもないでしょう、寧ろ牽制になるわっ」

「むぅ……」


 だけど知ってる、この子たちが仲良いことを私は分かっているから。

 だから止めることはせずに心地良くゆったりとしている時間を味わっていた。


「菫、どんな気分だったの?」

「そう……ね、ドキドキして杏の顔が見れないくらい……だったかしら」

「ふふんっ、でも私は杏からしてもらったからねー!」

「私は逆に奪ってあげたわよ?」

「あっ……な、なんか奪う方がいい気がする……」


 いや、そんなことはない。

 奪うのも奪われるのもどちらもドキドキするのは変わらない。

 ましてや相手が『綺麗』や『可愛い』だったら尚更のこと。

 今回も自分を卑下するわけじゃないけど、私が? と思うのは常のことだ。


「ねえ穂、もし杏が私を選んだらどうするの?」

「ねえ菫、もし杏が私を選んだらどうするの?」

「質問に質問で返すのは駄目よ」

「菫だってちゃんと答えてない」

「そもそも……私達だけではないわよね」

「そうそう! 杏を好きな人は沢山いるからね!」

「飯島さんとか火蓮さんとかね」

「あとクラスの子とかもだよ」


 それは違うよ。

 逆にこのふたりを好きな子が沢山いるんだよ。

 クラスにも他クラス、学年にもね。

 だからおかしくて信じられなくて、混乱する毎日だということを知らないんだろうな。


「火蓮さんが1番友達になりたいのは杏だというのにこの子ときたら……」

「自己評価が低いんだよね~杏は」

「自信を持ってほしいけれど、そうしたらそうしたで不安になるのよねー」

「……菫、さっきの質問の答えだけど、その場合は悔しくても祝福するよ?」

「ふふ、強いのねあなたは。私は嫉妬から恐らく発狂するでしょうね」

「しないよ、だって菫も強いし、なにより杏のことをちゃんと考えてあげられているから」

「信用してくれているのね」

「だから……抱きついても許してあげるっ、キスはホイホイしたら駄目だけど!」

「まるで杏があなたのじゃない、それでも……ありがとう、あなたのことも私は好きよ」

「え、じゃあ付き合う?」

「いいえ?」

「酷いよー!」


 ……そういう話は裏でしてもらいたいけどふたりが仲良いならそれでいいや。

 足が痛くなったので体を起こして「離れて?」と声をかける。

 起きているとは思わなかったのか驚いていたものの、ふたりは離れてくれた。

 勝手にベットに寝転んで占領をする。

 だって恥ずかしかったのだっ、私の足に頭を預けてするような話じゃない!


「今日のベットは私の物っ、ふたりは下で寝てください!」

「はぁ……穂、この子を挟んで寝ましょうか」

「そうだねっ、寝よー!」


 ……逆効果になったのは言うまでもないだろうまる

あ~早く好きにならせすぎた。

か、書きにくい……。

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