13.『欺瞞』
読む自己。
私は部活を見に来ない? と嘘をついて藤原家から杏を連れ出した。
勿論、日曜日まで部活動があるわけじゃないので、学校に行ったところでやっているわけじゃない。
それでも学校に行ってあれ? とあくまで間違えた体を作り、たまにはと自分の部屋に彼女を誘う。
そうしてふたりきりになれた瞬間――
「杏っ」
「あっ……」
その柔らかい体を独り占めするのだ。
最近また藤原家に杏が戻ってきてからふたりの仲が進展しすぎてしまっていて。
どうしても部活動があるし好きだからと休めない内にどんどんとふたりが……。
昨日だって抱き合って菫は顔を赤くしていて距離も近くて羨ましくて。
でも杏の様子を見て分かった、いつの間にか自分が彼女にとって1番ではなくなったことを。
悔しかった、自分がいないときに自由にされてしまうことが。
寂しかった、杏にとってはもう私がいなくても大してダメージがないことに。
「杏……私もっ」
「もぅ……」
呆れたような声をだしつつも彼女は頭を撫でてくれた。
だけど私がいない間にまたされてしまうと考えたら涙がでて。
彼女は菫の赤面した顔が綺麗でギュッと痛くなったと言っていた、けど。
私は? ……どうなのかな。
「杏……」
「すぐに泣いちゃだめ……こっちも悲しくなるじゃん……」
悲しくなるだけなの……綺麗って思ってくれないの。
綺麗じゃないから駄目なのだかな、可愛いって周りの子が言ってくれても勝てないのかな。
「私ね……昨日、菫ちゃんにどっちが大切かって聞かれたとき……即答できなかったの」
追い打ち……なんでそんなこといま言うんだろう。
菫が言っていたみたいに、私といるときくらいは私だけを見てほしかったのに。
「謝ったの、ごめん、分からない、分からなくなっちゃったって」
「ねえ」
「それで菫ちゃんの赤い顔と泣いているの見たら痛く――」
「もうやめてよ!!」
杏から離れてベットにうつ伏せになる。
だってそれはもう好きって言ってるみたいなものじゃん。
……でもそりゃそうだよね、嘘をついて無理やり部屋に連れ込んで好き勝手やる女だもん。
家事だってできるわけじゃない、杏が1番好きな食べ物だって美味しく作ってあげられない。
その点、菫は完璧だ、なにより綺麗だ。
長く一緒にいても終わりはこんなものかって悲しくなった。
「穂ちゃん?」
「……ごめん杏、怒られるのが怖かったんだよね」
「いや……私もあれだし……」
あれってなんだろうね。
はっきりしてくれれば……いや、多分それでも泣いちゃうけど。
「ごめんね寝転んで」
顔をベットに押し付けてから体を起こす。
これで大丈夫、更に泣いていたことを杏には気づかれない。
彼女はそこまで鋭い人間ではないから安心していたんだけど――
「隠してもだめ、穂ちゃんのこと分からないと思っているの?」
な、なんでと困惑する。
昔はもっと臆病でふにゃふにゃしていたのに私を見るその顔は真剣でなにより、菫よりもよっぽど綺麗に見えた、私より大人だってそう感じていたんだ。
「私がああいうこと言ったから不安になっちゃったんだよね?」
「やめてっ……」
「やめないっ」
彼女の両頬を手で挟まれ強制的に綺麗な顔を直視させられる。
駄目だよこんなの……綺麗な顔とか云々の前に好きな子にこんな距離で見られていたら終わってしまう。
「穂ちゃん、ううん、穂が笑ってくれる触れるのはやめない!」
「そもそも杏があんなこと言わなければこうならなかったのにっ」
「だからだよっ、どうすれば笑ってくれるかな!?」
どうすれば……杏が離れてくれて楽しい話でもすればすぐに笑えると思うけど。
けれどこの子は笑うまで離さないって言う。私は触れられたままでは笑えないと思う。
そこでふと彼女のキュッと閉じられた唇が目に入る。
いや……これは色鮮やかなところを無意識にロックオンしただけ! 他意はない。
「私の顔になにかついてた?」
「あっ、いや、唇……はっ!?」
ごほんごほんとわざと咳き込みごまかしていると――
「……キスすれば、笑って、くれるの?」
そんなことを言われてしまい今度は本当に咳き込んでしまう。
「ないないないない! そ、そんなことしたら一生顔見られなくなっちゃうよ!」
「……そうかな? 昔、冗談で穂がしてきたことあったけど、見れているよ?」
「な、なに? し、したいの?」
「そうじゃな……どうかな、分からないや」
そこで悩まれると私が困る。
え、キス拒まないのっ? やったー! とか言っていられる余裕は私にはない。
というか本当に彼女は私よりも強くなってしまったようだ。
これは……菫と関わっていたから? それとも……私を支えられるように、かな?
「あはは、すごい慌ててる」
彼女はそう言って穏やかな笑みを浮かべた。
単にいつもどおりの笑顔だというのに、私には綺麗すぎてしまい目を閉じて意識を逸らす。
でもそうすると彼女の手に意識が敏感になって、触れられていることに顔が熱くなった。
どうすればいいんだろう。どうすれば彼女の拘束から逃れられるかな。
もう1回、もう1回だけ彼女に離れてと、目を開けて言おうとしたとき――
「んっ……」
されてしまってから私が誘ってしまったのではないかとハッとする。
顔が熱くなったということは真っ赤で、そういう話題がでているときに目を閉じたらどうなるか。
終始慌てていたのはこちらだ、けれど彼女はずっと冷静でこちらに一生懸命だった。
そして彼女は優しいし雰囲気に敏感となれば……。
「……ね、したよ? 笑ってよ」
「こんなことしちゃだめだよ!」
自分のためを思ってしてくれたかもしれない。
彼女はいつまでも優しいだけなのかもしれない。
それでも私も菫と同じように考えていた。
本当に好きな人といてほしいって、こういうことをしてほしいって。
だというのに彼女はしてしまった。
もしかしたら本当に好きな人ができたときに、チラついて素直になれなくなるかもしれない。
好きだけど、本当は私を見てもらいたいけど、それが叶わなかった際に重荷にはなりたくない。
「どれだけ馬鹿なことをしたか分かってるの!?」
「え……で、でも、そもそも穂が……」
「私はないよって言ったよね!?」
「……ごめん」
責めたいわけではないっ。……これは自己満足で欺瞞と言う他なくて。
せっかく好きな子がしてくれたのに喜べなくて。
重荷なる可能性が高くなったことに恐怖を抱いて。
「結局……笑わせられなかったね」
「そりゃそうだよ……キスしてどうやって笑わせられるのさ」
「いや、ほら、えへへって笑ってくれるかなって」
それは本当に好き同士だったらそうなったよっ。
「残ったのは、あなたの悲しそうな顔と……もやもや感だけだった」
「だって私はっ、本当に好きな人とあなたにはしてほしかった。私が泣いていてもどうでもいい、あなたが傷つくのが1番嫌なんだよ私はっ」
菫だったらこんなとき顔を赤くしながらも笑うのかな。
杏も安心できて気持ちが増して、いつかは友達としてではなく特別な相手として、変わるかも。
対する私は怒っていまは悲しそうな顔をしているのかな? そんな感じで。
嬉しいと、してもらえて良かった! とか言っていたら、ひょっとしたらこっちにも……。
……とにかく、難しすぎてどうにかなりそうだ。
「穂ちゃん答えてくれる?」
「うん……なに?」
彼女は自分の横髪を少しいじってから1度深呼吸をする。
何故かそれに私も反応してしまい、同じようにしてしまった。
「えっとっ、キス嫌だったっ!?」
「え? あははっ! ふぅ……、嫌なわけないでしょ!」
菫と関わってなくて私だけを見ていてくれたなら、もっとベットにぼふんぼふんと跳ねて喜びを行動で伝えていたはずだ。
だけどどうしても菫が気になってしまい怒ってしまっただけで、……嫌なわけないよ。
「良かったっ」
「あ~どうして杏が泣くのさ~」
泣くくらいならするなっ。
だって杏が体験したみたいに痛いんだよ泣き顔見ると。
ここで無責任にも「大丈夫だよ」なんて言えたら楽なんだろうけど。
駄目なんだよ、怖いんだよ、そういうつもりじゃないって言われたら絶対に立ち直れない。
べつにフェアな勝負をしようと言い合ったわけではないから問題はないけど。
ここで泣いている彼女の唇の自由を奪うのは簡単だけど。
恐らくまだ向こうはキスできていないだろうから1歩進めた気がするけど。
彼女が“優しい”だけで動いていないと分からない以上は、私にはできない。
だからいつも甘える側の私にできる精一杯のことをするだけ。
彼女を抱きしめた。
これくらいなら女の子同士なら日常茶飯事のことで。
他意はない、ただただ傷ついてほしくないだけで。
私のこれにどれだけ落ち着かせる効果があるのかは分からない。
それでも少しぐらいはと動くのが泣かせてしまった者の義務ではないだろうか。
「……嫌じゃなくて良かったっ」
……逆効果になってしまいより泣かせてしまっても、私は抱きしめることをやめなかった。
小説ではねえな。
日記? ま。自由にするだけだね。




