正しくなくても前を向く
馬糞男たちについて、のちの調べで分かったことには、やはり十年前の馬糞革靴がきっかけだったという。あれからすっかりヤケになって彼は酒や女に溺れ、賭博にとあまりにも典型すぎる落ち方をした。そして莫大な借金をこさえて首が回らなくなり、そういえば自分の人生がこうなったのはユヒルたちのせいだと恨みを思い出した。
ジャガイモもとい公爵はすでに王家との親戚にしては遠すぎるが、その肩書きで金を募り、不良騎士やら貴族たちのあらゆる賭け事を仲介する金儲けをしていたのだ。しかし、金勘定はそこそこうまいが、この男は下がゆるすぎた。
首に縄が回った馬糞男と、胴元から話がいった金貸しである公爵は、互いの利害をよおく確認した上で、貧乏貴族の令嬢を食い物にしようと共謀したのだという。
だが女を引っ掛けるには女の協力者が要る。そこで、仲介役として下町で占いを生業にしていた婆に金を積んだ。公爵曰く、
「胡散臭い仕事で食べていけるのは信じ込ませる才能があるからだ」と思ったらしい。人を見る目だけはある。
そして第一の標的がカミラだったのは、全くの偶然の重なりであったらしい。
カミラの上司はなんとか研究費を引っ張りたくて積極的に夜会へ顔を出し慣れない社交に勤しんだ結果、引っ掛けやすいカモとして目をつけられた。そして上司の紹介相手がカミラだと知って馬糞男は飛び付いた。
この上司、悪い人間ではないが焦りと不慣れな社交の場で隙だらけだった。うまい話には裏があると疑いもせず、カミラなら条件もいいしと深く考えることなく引き合わせてしまったのだ。彼を擁護できる部分があるとするなら、貴族社会では非公式の顔見せのあと、あらためてカミラの上司と彼女の後見人である祖父母が相手の素性をしっかり調査するものであり、まさかあの場でどうこうなるとは思わなかったのだ。
しかし、そんな貴族の慣例も信用が命だ。部下を紹介しましたが、相手は知りませんでしたでは済まない。ましてや暴行事件にまで発展した。
カミラの上司には当然、重い処分が下った。
カミラにとって十年前の仕返しがこんな報復という形で返ってくるとは思ってもみなかった。
裁判で証言台に立つカミラに、彼の弁護側は呆れたように釘を刺した。
「若気の至りとは言うがね、男のプライドを傷つけたらこうなるのは自業自得でしょうよ」
カミラはしばし沈黙を選んだ。彼らの逮捕直後、彼女の内心はぐちゃぐちゃだった。最初は馬糞男たちに怒っていたのがやっぱりやりすぎたのだと急速に反省し、いやそんなことはない、でも……と、何度も自身のやったことを振り返った。
揺れ動く中で、一つ確かなことに気がついた。十年前、ユヒルを化け物と呼んだ人間に、カミラが仕返しをしないなんてあり得ない。そこに正しさはないのかもしれないし、自分たちの罪なのかもしれないが、もし時間が戻っても、あの男に何かしらやり返した。
「確かに、もっと優しい仕返しもあったのかもしれません。でも、その後、彼が人生を立て直すチャンスはいくらでもあったはずです。その道を選ばなかったのは、彼自身の責任です」
毅然と言い返したカミラに法廷はざわめいた。
その後も面倒なやり取りはあったものの、弁護側の抵抗をやめさせたのは馬糞男の父親だった。嫡男であればこそ息子の不祥事をもみ消してきたが、さすがに王家に露呈した彼を擁護しつづけるのは無理と諦めたようだ。父親が裁判まで何も行動しなかったのは、跡継ぎにする養子を探していたかららしい。裁判途中でその準備が叶ったので、正式に息子を除籍した。また報復を恐れ、父親の強い希望で馬糞男は平民となって裁判を受けることとなり、かなりの重罪となった。




