65 三華なきあとの嘆息と絶望の手紙
三年生を無事に送り出したルルたち在校生は、少し寂しい時を過ごしていた。
春季休暇明けにはルルも二年生となる。
そうすれば新入生が入ってくるから、それまでの辛抱なのかもしれない。
学園が休みの日、ルルは時々桜下のベンチでひとり、こうして物語のエンディングで散ってしまった桜を眺めていた。
三年間ヒロインたちを見守ってくれていた木は、まるで静かに春を待つ冬の桜のようにひっそりと佇んでいる。
三華サロンを解散した後、フェリシティに続きメイベルの婚約も決まったと聞いた。
マノンは卒業したら外国に仕入れの旅に出るのだと、夢に向かって本格的な語学の勉強に取り組んでいる。
皆、前に進んでいる。
ルルだって男爵家を継ぐための勉強を頑張っているし、三華のメンバーとの交流も変わらず続いている。
たまに友人とケーキを食べに街に出て、新しいお店の開拓だってしている。
だけど、なんだかルルだけが足踏みをしているような、現実世界から取り残されているような、そんな気がしていた。
“胸にぽっかり穴が開いているような感じ”って言うのは、こういう気持ちのことを言うのだろうか。
(ううん、大丈夫。私だって前に、進めているはず! ……大、丈……?)
「……って、大丈夫じゃない!!!!!!!」
ルルは絶叫と共に勢いよく立ち上がった。
天啓、というヤツだろうか。
ルルは突然、ルカがここでプロポーズをした際に、一緒に告げられた言葉を思い出したのだ。
『君を狙う最大の敵、バルトは除籍をされたわけではない。彼はもう失うものはないというところまできている。
もし、ルメール公爵家から婚約を打診されれば、パックス男爵家は断れないだろう』
護ってくれていた三華サロンはもうない。
護ってくれると言った人もいない。
──ルルは再びベンチにへなへなと座り込み、頭を抱えた。
「こんなことをしている場合じゃない。まずは“情報収集”だ」
シュクレ商会に行けばマノンがいるはずだ。
ルルは、またすぐに立ち上がると、急いで寮に戻り外出届を出す。
ルルはバルトの行く末を要らぬ情報だと考えたことを後悔していた。
シュクレ商会に行くのだと言えば、ルルが三華サロンの一員であったことを知る寮母さんは快く許可をくれた。
「あ、そういえば先ほどパックスさんにご実家から手紙が届きましたよ」
「え? 手紙……?」
困惑するルルの様子に気付かず、寮母さんは届いたばかりの手紙を差し出した。
何の変哲もない封筒なのに、届いたタイミングが今だという──ただ、それだけの理由で、受け取る手が震える。
なんだか、胃に違和感が……
(大丈夫……でも、万が一……だったら、どうしよう……)
学園に入学したとき、ルルはひとりだった。
ひとりでも、大丈夫だった。
でもこの一年でいろんな出会いがあり、支えられて過ごしてきた。
それだけで、今、ひとりであることがこんなに心細いなんて……
部屋でひとり、手紙を開封する勇気が持てなくて、寮母さんにペーパーナイフを借り、その場で読むことにする。
深呼吸をして、封筒の中から四つ折りの便箋を取り出すと、ルルは恐る恐る──広げた。
『公爵家から婿入りでの婚約打診があったため、受けることにした』
ダニエルは以前、ルルの婚約に関しては本人の意思を尊重すると言ってくれていた。
ルルが好きになった人であれば、嫁入りしても構わないとまで言ってくれていたのだ。
そのダニエルがルルに断りもなく受けた縁談。
きっと強引に持ち込まれ、断ることが出来なかったに違いない。
思わず手に力が入り、手紙がクシャリと音を立てた。
「気分が悪いので外出はやめて、今日は部屋で休みます……」
ルルがヒロインである物語は終わった。
しかし、ルルの人生は続いている。
そのことを今、ルルは痛感していた……




