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小説の世界に転生しましたが、既に終了しているようなので安心です!?  作者: Debby
第五片/いつひら

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64 灰青の自由とおねだりの真意


「お久しぶりです。()()()()()()()()()()、先日は大変ご迷惑をおかけしました」


あの日、はじめてルルに名を呼ばれ、開いてしまった心の距離にショックを受けたシエルは、仕方なくフェリシティとの約束の場所に向かった。




「こちらです」


シエルが店員に通されたのは先日とは違う店の個室だ。


フェリシティと“会う”ことは知られても構わないが、会合の内容が他に知られてはならないと、シエルは既に従者と馬車を帰していた。


シエルは幼い頃から貴族社会になじめず、使用人をそばに置くことも受け入れられなかった。

その為、従者とも信頼関係を築けずにいた。


従者はブルーベル公爵に雇われている。

シエルが彼を信じていないように、シエルに忠誠など誓っているはずもない彼は、このシエルの動きを知れば、包み隠さず雇い主である公爵()に報告するだろう。


シエルは一人扉の前に立つと、ノブに手を掛けた。

ルルの様子がおかしかったことは気になるが、今はこちらが優先だ。

レオンとメイベル、そしてフェリシティ……三人の未来が掛かっている。


「おう!久しぶりだな!シエル。息災だったか?」


ダークブラウンの髪とアッシュブルーの瞳の男が、快活な笑顔を向け、シエルに歩み寄ってきた。

彼はレオン・ハイドレンジア。シエルの従兄弟である。


レオンは顎に手を当てシエルの様子を観察するような素振りを見せると唇を尖らせて言った。


「うーん、どうやら息災というわけではなさそうだな。

何か悩みでもあるのなら聞いてやるぞ。気の利いた言葉など掛けてやれる気はしないが、それをネタにお前を揶揄い、元気づけてやることならできるからな」


さすがにあのメイベルと心を通わせただけのことはある。完全な似たものカップルだ……


「──思いの外早かったな。レオンが帰国したのであれば、共にブルーベル家へ赴き両親の前でクランベリー嬢への愛でも叫ぶか? 喜んで案内するぞ! もちろん見物もさせてもらうがな」


パンッ!


仕返しとばかりにシエルがレオンに問い返したところで、優雅に紅茶を飲んでいたフェリシティの扇が鳴った。


「……後にしていただけます? 殿方同士の言葉遊びに付き合えるほど、(わたくし)、暇ではありませんの」


その一言で、二人の男はすごすごと着席し、今後の対策と意思疎通の会合がはじまった。




今ある婚約話を白紙にしてレオンとメイベルが新たな婚約を結ぶには、メイベルをブルーベル公爵夫人に認めてもらうことと、フェリシティの身の振り方(将来)を心配しているウォード公爵に納得してもらうことが必要となってくる。


メイベルを妻に出来ないのであれば、准貴族の地位など要らぬと言えればいいのだが、メイベルも伯爵令嬢だ。


クランベリー伯爵からメイベルをもらい受けるには、レオンが准貴族の立場になるのが一番スムーズなのである。




解決策の検討は難航し平行線を辿ったが、その後のフェリシティの悪役令嬢宣言により、ウォード公爵攻略のチャンスは突然に、訪れた。






*――*――*






(わたくし)が欲しいものは、金銭で買えるものではありません。

ですが、お父様にしか手に入れられないものですわ。


──そして、本人(第三王子殿下)にも内密でことを進めて頂きたいのです」


フェリシティはあの日、父であるウォード公爵に、第三王子であるルカとの婚約を急ぎまとめて欲しいと“お願い”した。


二人の婚約話はフェリシティがまだ幼い頃に一度話が出たが、愛娘が嫌がっているという理由でウォード公爵が断ったのだ。


その後、バルト()との婚約が締結されて十数年。その婚約は突如破棄された。


高位貴族の婚約は幼い頃に決まることが多い。

卒業目前のこの時期、爵位が見合い、更にウォード公爵の眼鏡に適う男など売れ残っているはずもなかった。


公爵がフェリシティの嫁ぎ先に頭を悩まされていた時、ブルーベル公爵家から「この度、甥を養子に迎え、准貴族へと指名することになった。その甥とフェリシティの婚約はどうだろうか」という打診が来たのだ。


ウォード公爵は准貴族でも仕方がないかと、その話を受けることにした。


その甥とやらが親友メイベルの恋人だと散々言い募って来たフェリシティだったが、たとえ友人の恋人であろうが親としては子の未来の方が大切。

ウォード公爵はフェリシティの言い分を断固認めなかった。


そこでフェリシティが言い出したのが今回の“お願い”だ。


一度断った話だが、現在第三王子は男爵家に婿に入ると言っているらしい。

公爵家の権力など使わなくとも、美しく優秀なフェリシティを息子の妃にしたがっていた陛下ならば、二つ返事で了承するだろう。




──しかし、その第三王子の相手であるルル・パックス男爵令嬢も、『三華サロン』──フェリシティの庇護下にいるはずだ。


メイベルならば駄目で、ルルであれば良い──

フェリシティ(愛娘)がそんな浅慮なことをするはずはない。

きっと考えがあるのだ。


准貴族の妻と第三王子の大公妃。

どちらがフェリシティに相応しいかなど言うまでもない。


「──いいだろう。お前がそれでいいのなら。私に任せておきなさい」


「では、よろしくお願いいたしますわ」


ウォード公爵は、納得のいく娘の未来に笑みを浮かべた。






「後はメイベル。あなたの腕の見せ所よ」


「任せろフィズ──()()()()三華(みはな)サロンの華の一人。公爵夫人の()()()()()、立派に欺いてみせますわ」


「少し、心配ですわね……」



こうしてメイベルは、レオン・()()()()()()()()()の婚約者に決まった。


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