61 瑠璃の盤面、嘘と真実の境界線
ルカは今朝、父である国王にそれを知らされ戸惑っていた。
ウォード公爵家は筆頭公爵家。
王族に次ぐ権力を持っており、彼が唯一の娘であるフェリシティを溺愛していることは有名だ。
それは、フェリシティが他家へ嫁入りしたとしても変わらない。
そのフェリシティが立ち上げ、自ら主を務める三華サロン。
そのメンバーであり、フェリシティの庇護下にいることが、『ルル・パックス男爵令嬢』の価値を高め、通常ではあり得ない『王族の男爵家への婿入り』を実現可能な域にまで押し上げた。
ルカの計画は順調に進んでいた。
幼い頃、兄王子の婚約を機に、ルカの好きな人と結婚したいという幼い夢が、「男爵家への婿入り」という歪んだ願望へと変わった。
そんなルカが、三華サロンの一員となったちょうどいい男爵令嬢ルル・パックスに近づいたのは、計画の内だった。
そして、邪魔なバルト・ルメールを排除するついでに、体を張ってルルを助けた王子として皆に印象付ける──ここまでは非常に簡単だった。
問題はシエル・ブルーベルだ。
彼は着実にルルとの信頼関係を結んでいるように見えた。
心を通わせるのも時間の問題だと思ったが、何故かルルはシエルに対し、常に一線を引いているように見えた。
それはルカに対しても同じ。
ルカもシエルも、令嬢には好まれる容姿と肩書を持つという自負があったが、ルルは一向に靡かなかったのだ。
それどころかルカを見た途端に嫌そうな顔をしたり、「げ。」という声を上げたり……
……思えば、本気で彼女に興味を持ったのはその頃からだったか。
ちょうどいい男爵令嬢を手に入れるため、彼女の前からシエルを排除する方法を模索するうちに、好機が訪れた。
*--*--*
久しぶりに足を運んだ学園、ルカがピンクの花弁が美しい大木へ向かうと、ベンチに座るルルの後ろ姿が見えた。
「あーあ」
大きなため息──落ち込んでいる?
一体何故。
「やぁ、パックス男爵令嬢。そんなに大きなため息をついてどうしたんだい。この小さな花弁たちが吹き飛んでしまいそうだ」
その理由が気になって、声を掛けた。
「あの、殿下ならご存じでしょうか。
──フェリシティ様の婚約話……」
なるほど、今学園で一番注目を集めている噂──シエルとフェリシティの噂の真偽が分からず落ち込んでいるという訳か。
三華のメンバーで学園に出て来ているのはシュクレ子爵令嬢のみ。
彼女であれば知っていたとしても、商会経由で入手した情報を話すことなどしないだろう。
しかし、ルカは違う。
「──確かにウォード公爵令嬢がブルーベル公爵家と婚約を結ぶという話は出ていると、私も聞き及んでいるよ」
嘘ではない。
相手はブルーベル公爵家に婿養子に入る予定のレオン・ハイドレンジア伯爵令息ではあるが、フェリシティとブルーベル公爵家との縁談であることは確かだ。
ただ、王族や高位貴族は下位貴族と違って情報を操る側にいるというだけで。
そう、ルカが口にした途端、ルルの瞳から大粒の涙があふれだした。
(──手が届かないと分かってから自覚しても遅いんだよ……)
ルカはこの好機を逃したりしない。
「ルル・パックス男爵令嬢。君の心の中に誰がいようと構わない。──どうか私と婚約してくれないか?」
その申し出をルルが受けた時、ルカの計画は最終局面を迎えたはずだった。




