6 望まぬ脚光と縦ロール
「凄いわ!ルルっ!『三華サロン』からの招待状なんて!」
隣にいるはずのチェルシーの興奮した声が、遠くに聞こえる。
『三華サロン』
三華──フェリシティ・ウォード公爵令嬢を筆頭に、メイベル・クランベリー伯爵令嬢、ルルに招待状を持ってきたマノン・シュクレ子爵令嬢の三名からなる学園で大人気のサロンの名前だ。
しかし、通常の社交クラブと違い、誰にでも門戸が開かれているわけではない。
会員の選定方法は謎なうえ、今年度を最後に解散すると宣言されているため、最後のチャンスだと入会希望の令嬢が後を絶たないらしい。
ただでさえ新入生が入学し「四人目の『華』に誰が選ばれるのか」ということが、学園中の関心を集めているというのに、そのサロンの招待状を入学二日目で貰ってしまうなんて──
『地味で目立たない平穏な学生生活』を目標にしていたはずのルルは、不本意にも一躍有名人になってしまったのだ。
嫉妬による嫌がらせ──これも物語では定番で、ヒロインを庇うヒーローという構図に繋がりやすい。
そのフラグを避けるために、その日からルルは誰かに絡まれないかビクビクして過ごすことになってしまった。
落ち着いていた胃痛も再発してしまい、気分は最悪だ。
そしてそんな中、とうとうその日は来た。
避けて通れるものなら避けたかったが、向こうからやって来て、ルルの目の前に立ちはだかったのだから仕方がない。
「ルル・パックス! 当日はあたくしを伴ってサロンに赴き、あたくしも共に『三華サロン』に入会できるようお三方に進言しなさい!」
定番過ぎる“縦ロール”令嬢の登場である。
その日もルルは目立たないように下校時間をずらし、人通りが少なくなってから寮に向かっていた。
その道中、桜の木の前を通りかかったところでその令嬢は現れた──
確か子爵クラスの令嬢だ。
ブラウンの髪と瞳だが、縦ロールが悪役令嬢っぽいので一応チェックしていたのだ。
しかし立派な縦ロールに高圧的なこの言動。
三下感が半端ないが、やはりルルは物語のヒロインで、彼女が悪役令嬢なのだろうか。
「なぜ私が何の関係もないあなたを?」
招かれていないのにサロンに押しかけるなどマナー的にもあり得ない。
下手すればルルだって叱責されるだろう。
なのになぜルルがそのリスクを冒してまでほぼ初対面の彼女を連れて行かなければならないのだろうか。
そもそもそんな目立つサロンに入る気など、ルルにはさらさらないというのに。
しかし、そんなルルの様子を見た彼女は、馬鹿にしたように微笑むと長い縦ロールを右手で払い、自信ありげに答えた。
「関係ならあるわよ。あたくしと貴女、親戚ですもの」
ブリジット・ドロワット子爵令嬢。
なんと彼女は母の代わりに家督を継ぐことになった、現ドロワット子爵の娘だったのだ。




