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小説の世界に転生しましたが、既に終了しているようなので安心です!?  作者: Debby
第四片/よひら

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55/66

55 瑠璃の手に落ちた淡桜、三華を去る決意


「え?サロンに来ていない?」


「えぇ。三年生であるフェリシティ様とメイベル様が自由登校になってから、サロンもガランとしてしまって……それにルメール公爵令息やドロワット子爵令嬢とのことも一段落しましたでしょう?


最近ルルはクラスメイトと行動を共にしているのですわ。少し寂しくもありますが、折角の学園生活ですもの。嫌なことは忘れて楽しんでくれていると思えば、わたくしも嬉しいですわ」


再び馬車止めで待ち伏せ、偶然を装って話しかけたマノンからそのように言われ、シエルはなんと答えて良いのか分からなかった。


先日、街でウォード公爵令嬢と会う機会があった。

その時に向かいのパティスリー・サロンで友人と過ごすルルを見かけ、何故かえも言われぬ不安に襲われた。


その不安の原因をはっきりさせようと、何度か桜の木まで様子を見に行ったのだが、とうとうルルに会うことは出来なかったのだ。


ルルは寮住まいだ。

サロンに顔を出さず、男子禁制である校舎と女子寮を往復する生活をしているのであれば、偶然出会う可能性などないに等しい。


今日もこれから約束があり、その後しばらく学園に来ることが出来なくなる為、何とかして会っておきたかったが、チラリとも見かけることが出来ないのだ。


(まさか、避けられている?)


だとすれば何故……?




そんなことを考えながらマノンと別れ、自身を迎えに来た馬車に乗り込もうとした時だった。

馬車止めに五人の令嬢たちが姿を現し、その中にルルの姿を見つけた。

寮生が街に出る時や、事情があって馬車の迎えが無いときなどに利用できるよう、放課後になると馬車止めには数台の辻馬車が待機している。

彼女らはそちらの方に向かっているようだ。


シエルのそばを通り抜けるルルと、不意に目が合った。


「あ、お久しぶりです。()()()()()()()()()()、先日は大変ご迷惑をおかけしました」


「え、ああ……」


立ち止まったルルが、そう言ってシエルに頭を下げた。


共に居る友人たちが、ルルのおかげで得た『憧れの公爵令息と言葉を交わせる機会』に便乗する。


「あ、ブルーベル様!ご婚約おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」

「駄目よ。公式発表はまだなのだから、そんなことを言ってはブルーベル様を困らせるだけよ」

「あ、わたしったら……申し訳ありません!」


続けざまに声を掛けられるが、シエルが返事をする気配はない。

その時、タイミングの悪いことに、従者がシエルに声を掛けた。


「ブルーベル公爵令息、ウォード公爵令嬢とのお約束の時間が迫っております」


「「「「きゃー、やっぱり」」」」


と令嬢たちから黄色い歓声が上がる。

何が「やっぱり」なのか理解が出来ずにいると、そこで友人たちの様子を黙って見ていたルルが、そこでペコリと頭を下げた。


「お忙しいのに呼び止めてしまって申し訳ありませんでした。では、失礼します」

「「「「失礼します!」」」」


ブルーベル様とはじめてお話しちゃった。

今日もルルはホールで食べるの?


などと言う令嬢たちの明るい声が遠ざかっていく。


はじめてルルに名乗ってから数か月が過ぎた。


距離はかなり近づいていると自負していたが、故意か偶然か、これまで名を呼ばれたことが無いことにはシエルも気付いていた。


そんなルルが、今日はじめて自分の名を呼んだ。


しかし、それが他人行儀な──“ブルーベル公爵令息様”であるとは。


いや、何もおかしくはない。

婚約者でも、心を通わせた恋人でもないのだ。


これが普通。


しかし、何故かシエルは、しばらくその場で立ち尽くしていた。







シエルは一度三華(みはな)サロンに招かれている。


だから、ただ内密の話があるだけであればサロンに招けばいいのに、数度にわたる学園外での逢瀬。


──否定されることのなかったお祝いの言葉。


そして、従者の言葉……『ブルーベル公爵令息、()()()()()()()()とのお約束の時間が迫っております』──




あぁ、やはり。



その日も、美しいホールケーキはルルの気持ちを満たしてはくれなかった。






「やぁ、パックス男爵令嬢。きっと会えると思っていたよ」


翌日、ベンチで一人、満開の桜を眺めていたルルの元に現れたのはルカだった。


「……」


ルカは空虚な視線を向けるだけで何も答えないルルの前に跪くと、ルルの左手を取り優しい微笑みを浮かべた。


「私とのこと、考えてくれたかい?」


家族が幸せになれるとは思えないから、バルトの手には絶対に落ちたくない。


フェリシティの幸せを願いたいから、シエルのことは考えたくない。


シエルのことを考えたくないから、もう、三華サロンに足を踏み入れることは出来ない。


「──ルル、と呼んでも?」


ルルの左手に今にも口づけを落としそうな距離のルカが、懇願する。

余裕の笑みを浮かべるルカの瑠璃色の瞳と、揺れるルルの淡い桜色の瞳がぶつかった。


「……はい。男爵家を、家族を、守ってくださるのなら──」











「申し訳ありません。私、三華サロンを退会します」


翌日、サロンを訪れたルルはマノンにそう告げた。


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