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小説の世界に転生しましたが、既に終了しているようなので安心です!?  作者: Debby
第三片/みひら

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46 淡桜の胃痛はアラート、瑠璃の御用はリクエスト


休養明けのルルの周囲は、あの出来事が嘘であったのではと思えるほど静かだった。



「“嵐の前の静けさ”みたいで怖いんですけど……」


ルルはあれから昼休憩と放課後は三華(みはな)サロンで過ごすことにしていた。

もちろん桜の木にも近づいていない。


「物理的に避けているから当然じゃないか? 変に怯えると逆に引き寄せてしまうぞ。ほら、『噂をすれば、なんとやら』だ」


メイベルは慰めているつもりなのだろうが、それはルルにとってフラグでしかない。


入学してから酷かった胃痛は、次第にルルに特殊能力でも目覚めたのかと思うほど、何かしら問題が起こる前に現れるようになった。


そしてここ最近感じなかったその胃痛を、僅かではあるが感じるのだ。

以前ならストレスの一言で片付けていた軽度の胃痛が、ルルの精神を蝕んでいく。




「でもルルの予感は当たっているかもしれないわね」


フェリシティが手にした扇を静かに開いた。


「ルメール公爵令息──彼に下される罰が決まったのよ」


バルトは王族であるルカはもちろん、男爵令嬢であるルルにも接近・接触が禁じられた。


そして卒業後は次期公爵の地位はそのままに、領地での事実上の『蟄居』となる。

現ルメール公爵にその能力を買われているバルトは卒業後、領地でその経営に従事し、王都での社交は准貴族である弟妹の誰かが担うことに決まったらしいのだ。



──但し、それはバルトが卒業まで大人しくしていた場合に限られた、寛大な措置だ。



呼吸を止めてフェリシティの話を聞いていたルルが、大きく息を吐き出した。


「だけど油断は禁物よ。ルル。

あなたの親戚だと公言していたブリジット・ドロワット──彼女も妙な動きをしているわ。


物語自体は既に破綻しているけれど、ここはまだエンディングを迎えていない小説の世界。

これまでにあなたに振りかかった災難(イベント)を防げなかったように、(わたくし)たちがいくら注意を払っていても、手が及ばないことが起こる可能性は十分あるわ。


くれぐれも気を付けなさい──」






──と三華(みはな)サロンで話したのが昼休憩でのこと。


そのことを思い出しながら歩いていたルルは、いつの間にか寮へ向かう道を最短距離──桜の木の横を通る道を歩いていたのだ。


(恐るべし強制力!)


胃に感じていた僅かな痛みが何か警告を発しているように感じ、ルルは急いで桜から離れようと踵を返した。


「やぁ、奇遇だね。パックス男爵令嬢。その後、どうだい?」


しかし遅かった。

振り返るとそこにはルカ・アシュフォード第三王子殿下、その人が立っていたのだ。


「バルトには私と君に対する接近禁止命令が出されているから大丈夫だよ。──とはいえ私はクラスが一緒なんだけどね」


と、冗談なのかよく分からないことを言われつつ、ルルは誘われるがまま、ルカと並んで桜下(おうか)のベンチに腰掛けた。


こんな時に何故って? ──王族の誘いを断れる男爵令嬢などこの世には存在しないからだ……


しかしルカは王族であるにも関わらず、ルルの絶体絶命のピンチでは体を張って助けてくれた。


何を考えているかは分からないけれど、悪い人ではないのだろうと思ったことも、その誘いに乗った理由ではある。


もう少し早く助けてくれたらこんな大事にならなかったんじゃない? ──ということは、考えてはいけない気がしたので休養中に丸めてポイと部屋のごみ箱に入れてきたのだ。


「お礼を──」


「?」


「以前君がブルーベル公爵令息と約束していた時、ルメール公爵令息を引き取ってあげたことと、先日君をルメール公爵令息の魔の手から体を張って守ったことに対する“お礼”を、まだしてもらってないな~と、思ってね」


ルカは仕掛けた悪戯が成功した少年のように笑うとベンチの背凭れにその体を預ける。

そして両手を広げその縁に添わせると、長い足を組み、季節が変わっても散る気配のない桜を見上げた。

触れてはいないが、自然とルルの背中に腕を回した形になり、ルルの心臓が一度だけ、跳ねた。



この世界でのお礼とは、催促するものなのだろうか──



ルルはシエルのことを思い出し、ふふっと小さく笑った。


「わかりました。その代わり、お礼は“消えモノ”でお願いします」


「私といるのに、誰を思い出しているのかな?


──まぁいい。で、“消えモノ”とはなんだい?」


(? あれ? ハンカチ男には通じたのに……)


ルルはその反応に僅かな違和感を覚えつつ、ルカに“消えモノ”の説明をした。



「なるほど……後に残らない物か……だとすると口にするものだな……」


少し考え込んだ後にそう口にしたルカに、シエルのように「時間」などと言われなくて良かったと、ルルは安堵した。


男爵令嬢にあまり高価なものをリクエストされても困るが、マノンに相談すれば、商品自体は準備できるはずだ。




しかし、その安堵はルカの次の言葉で吹き飛んだ。


「一度手作りというモノが食べたかったんだ。──とても温かい味がするのだと、むかし読み物で読んだことがあって、興味があったんだ。

しかし、こんなことを頼める令嬢がいなくてね」




………………明後日の逢瀬が決定した。


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