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小説の世界に転生しましたが、既に終了しているようなので安心です!?  作者: Debby
第三片/みひら

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44 『高貴な静寂』と仄暗い嫉妬


「さすが最終話……なんて冗談を言っている場合ではなくなってきたわね」


「ルルの話では殿下は確実に殴られに行っている。一体何を考えているんだ? それにバルトがそんなキャラだったとは──もっと周到に動くタイプだと思っていたよ」


「彼は平民に簡単に騙された挙句、考え無しに(わたくし)に婚約破棄を告げるような男よ。

その上あんなに愛し合っているなどと言っていたくせに、彼女が貴族ではないと分かった途端切り捨てた屑でもあるの。単なる感情で動く俗物だわ」




あの後、ルカは医務室へ、バルトは教職員棟へと移動した。

そして残されたルルは騒ぎを聞きつけたメイベルに回収され、現在サロンにいる。


三片(みひら)恋標(こいしるべ)の『ルル・パックス編』もなかなかドロドロした感じではあったが、現実のルル・パックス編は“表向きはキラキラしているけど腹の中はドロドロしている”って感じだな──などと言って、メイベルは先程起きた出来事を笑い飛ばしてくれたけれど、ルルはどうしても笑う気にはなれなかった。


「この紅茶は高貴な静寂(ノーブル・シランス)というの。飲めばきっと気持ちが落ち着くわ」


そう言ってマノンがルルに紅茶を出してくれた。とても落ち着く香りだ。


「すみません。……あの席にさえ近付かなければ大丈夫だと軽く考えたばかりに──」


入学当初は両親に迷惑をかけないように、目立たず平穏な学園生活を目指していたのに、蓋を開けてみればこのざまだ。


「あの、今回のことで、男爵家に……両親に迷惑が掛かるなんてことは──」


三華(みはな)サロンの皆にも迷惑をかけるかもしれないが、ルルの一番の心配事はそれだ。


「大丈夫よ。

殿下や高位貴族が関わっているとはいえ、ルルは完全なる被害者。目撃者も多数いるわ。

噂も──まぁ、『殿下とルメール公爵令息がルルを取り合っている』程度であれば、まだ好意的な方だし、ルルを悪く言えば(わたくし)を敵に回すと、皆理解しているでしょうから、滅多なことは無いでしょう。


でも……そうね。ルル、一週間ほど男爵邸で大人しくしていなさい」


男爵への説明と帰省の手配はこちらでしておくわ。そう言うとフェリシティは侍女を呼び、その旨を告げた。


「え? でも……」


「フェリシティ様の言う通りよ。噂は本人がいない方が風化するのが早いの。それに無理して学園に残るより休んだ方が、ルルが完全な被害者で傷付いていることがアピールできるし、フェリシティ様が色々手を回すことで、貴方がその庇護下にいることを改めて周知できるのよ」


戸惑うルルにマノンが説明してくれた。


こうしてルルは暫くの間、男爵邸に戻ることになったのだ。






*--*--*






「殿下とルメール様がルル・パックスを取り合っているですって?」


図書館の騒ぎを聞いたブリジット・ドロワット子爵令嬢は、手入れされた爪をギリリと噛んだ。


ブリジットには在学中に高位貴族と婚約し、卒業と同時に嫁入りするという『計画』があった。

その計画を実行するためには、まず学園で『高位貴族』の令息を捕まえなければならない。


子爵令嬢という貴族社会においては『低位』といわれている家に生まれたブリジットは、幼い頃から高位貴族に嫁ぎ、使用人に傅かれ生活することを夢見ていた。

そして、それは可愛らしいと言われるこの容姿さえあれば実現可能なことであると、信じて疑っていなかった。


しかし蓋を開けてみれば、ブリジットが狙っていた三華サロンに招待され四人目の華となったのは、自分より下の爵位であり元平民のルル・パックスだった。


──腹立たしく思い、年老いた元子爵に愚痴を言ったところ、どうやらその女は自分と血のつながりがあるというではないか──!


それを聞いたブリジットは、ルルを利用し三華サロンのお茶会に参加することを目論んだ。

万が一入会は出来なくとも、そのお茶会に参加したという事実はブリジットのステータスになるはずだ。

ブリジットは早速ルル・パックスに自身を同伴するよう命じたが、その計画は直ぐに頓挫した。


しかもいつの間にか狙っていた婚約者のいない高位貴族──


上手くいけば王子妃。例え第三子であることを理由に将来王籍を離れることになったとしても大公家を立ち上げることになるであろう、ルカ・アシュフォード第三王子。


そして、公爵家の次男であり将来は准貴族として公爵家に残ることになるであろう、シエル・ブルーベル公爵令息。


ブリジットの好みの容姿を持つその二人ともが、ルル・パックスに興味を抱いているようなのだ。


ルルとブリジットは可愛らしいという大きな括りでいえば、似ていないこともない。

ブリジットは、ルルさえ居なくなれば、その位置に自分が収まることが出来るに違いないと考えた。


ブリジットは前子爵にルルとは同級生で仲良くしているのだと話を振り、ルルの弱み──本来の髪色がピンク色であることを聞き出した。


そして、公衆の面前で本来の髪色を暴露し、退学という形で学園から追い出すという計画を閃いたのだ。


しかし、その結果、華の主(はなのあるじ)であるフェリシティ・ウォード公爵令嬢から令嬢としての価値を否定され、学園からは第三王子殿下に不敬を働いたとして自宅謹慎処分を受けてしまった。


そう、ブリジットの未来は閉ざされてしまったのだ。




復学後、フェリシティ・ウォード公爵令嬢の元婚約者であるバルト・ルメール公爵令息が留学先から戻って来たという情報を入手した。


バルト・ルメール公爵令息と言えば、次期公爵でモスグリーンの髪、琥珀色の瞳、がっしりした身体つきの雄々しい美丈夫。

しかも()()()()()()()()()可愛らしい令嬢が好みだというではないか!


しかし、新たなターゲット、バルトとの未来に期待に胸を膨らませるブリジットの耳に、ある『噂』が届いた。


『三華サロンの四人目の華であるルル・パックス男爵令嬢を、ルカ・アシュフォード第三王子とバルト・ルメール公爵令息が奪いあっている。そして──』




そして、どうやら第三王子殿下が勝利したらしい──と。




ブリジットのブラウンの瞳が、仄暗く光った。


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