43 瑠璃と琥珀、計算された献身
──やはり、図書館には足を踏み入れるべきではなかったのだ……
「騒がしいぞ。バルト・ルメール」
ルカがバルトを一喝する。
しかしバルトは気にした様子もなく、ルルの腕を掴んできた。
「ほら、殿下もこうおっしゃっている。ルル・パックス、ここでは話も出来ない。ちょっと付き合ってもらおうか」
(え? なんなのこの展開。
こんな誘い、ついて行ったが最後、私の平穏を目指す物語がバッドエンドを迎える流れに急展開じゃない!)
「や、止めてください!」
ルルは必死に抵抗するが、バルトの力には敵うはずがない。
騒ぎを聞きつけた図書委員が「何を騒いでいるんだ!」と注意してくれる。
しかし、王族にすら敬意を表さないバルトが、図書委員ごときの言うことを聞くはずがない。
「ここで騒げないから、別の場所に行こうとしているんだろうよ!! お前、俺様に文句でもあるのか!?」
「ル、ルメール公爵令息……っ!?」
しかも相手は皆の模範になるべき高位貴族、しかも第三王子も同席しているのだ。
全く動く気配のないルカに、図書委員はルカの意に沿い見逃すべきか、ルルを助けるべきか躊躇っているようだった。
ここにいる生徒の中で公爵令息であるバルトを止められるのは王族であるルカのみ。
しかし先程のことをまだ根に持っているのか、前回同様ルカにルルを助ける気はないらしい。
全体重をかけて抵抗するが、少しずつ学習スペースから引きずり出されていく。
不意にこの学習スペース──桜の影響下から出されたら、何かが終わる、そんな気がした。
ダメだ、これまでのように避けているだけでは。
──このままでは戻れなくなってしまうっ!
目立ったって良い。
婿の来手が無くなったって、きっと何とかなるはずだ!
ルルは腹に力を入れると、バルトに掴まれていない方の手で椅子を掴み大声で叫んだ。
「い、嫌──っ! 絶対に行かないっ!!!」
ルルの絶叫と椅子を引きずる音がフロアに響き渡る。
「おいっ! 俺が優しくしているうちに、大人しく着いて来い」
これまで大人しかったルルが抵抗したことに、バルトは少し苛立ちを見せた。
「無理矢理連れ出そうとしているくせに、どこが優しいって言うのよ! 掴んでいる腕を離して! 私は勉強がしたいの、邪魔しないで!!」
「貴様っ!」
ルルの抵抗が、余程頭にきたらしい。
バルトはルルの腕を掴んだ手はそのままに、逆の手を振り上げた。
「お前には教育が必要みたいだなっ」
殴られる──
こんな目に遭うのは何度目だろう。
ここで大人しく殴られれば、顔の造形が変わってバルトの執着にも似た興味をきれいさっぱり失うことが出来るだろうか。
(ならば甘んじて受ける──怖いけど、彼に捕まるより何倍もマシだ──!)
ルルがそう心に決めてバルトに向き直った時、ルカが動いた。
ギャラリーたちと違い、その表情に必死さや焦りはない。
どちらかと言えば、不敵な笑み──
ガッ!
直前でルカの動きを察したバルトが拳の勢いを殺すが、完全にそれを止めることは出来なかったらしい。
「キャーーー!!」
幾人かの令嬢の悲鳴が響く中に見た、悔しそうな表情のバルトと、口の中を切ったらしく片手で血を拭うルカの笑みが印象的だった。
「王子殿下っ!」
「誰かっ!教師を呼べ!」
「殿下を医務室にお連れしろ!」
その後の図書館の騒ぎは前回の比ではなかった。
こうして三華サロンの四人目の華であるルル・パックス男爵令嬢は、ルカ・アシュフォード第三王子とバルト・ルメール公爵令息が奪い合う令嬢として時の人となったのである。




