4 絶望の淡桜と苦肉のカラーチェンジ
目覚めた瞬間、絶望が私を襲った。
──淡い桜色の髪と瞳、市井出身で母の死を転機に男爵家に迎えられた女の子。
しかも数か月後には学園への入学が決まっている転生者ときたら──何かしらの物語のヒロインと決まっている。
男爵令嬢『ルル・パックス』
自身の名前にも、学園名や国名にも全く心当たりはなかったけれど、ライトノベルが大好きだった私はその手の本ばかり読んでいたからわかる。
(──定番……詰んだ)
自分の未来が見えた気がして恐怖に震える。
予想が正しければ待っているのは避けたい未来。
前世でも恋愛経験は数えるほどしかなかったから、一時であればキャッキャウフフも楽しいかもしれないけれど、ここは現実。
物語に描かれるような波乱万丈な人生は御免こうむりたい。
王子サマや高位貴族と想いが通じたとしても、「めでたしめでたし」で人生が終わるわけではないのだ。
平民上がりの男爵令嬢が、付け焼刃の知識とマナーでやっていけるほど、貴族社会──それも、上流階級は甘くはないはず。
何が男爵家を壊すだ!
私を探し出して不安の沼から救い出してくれた父も、婚約前の出来事とはいえ 隠し子的な位置づけの私を迎え入れてくれた義母も、凄くいい人じゃないか!
私がやるべきことは恋愛を楽しむことでも見当違いの復讐でもない。
男爵夫妻には子供がいない為、男爵家の嫡子は私ということになる。
二人には権力欲はなく、私に高位貴族をたらし込めなどとは一切言わなかったけれど、両親や私にその気がなくても強制力というものがあるかもしれない。
私がハッピーエンドを迎えれば、いるかもしれない『悪役令嬢』を、そしてバッドエンドを迎えたなら優しい『家族』を不幸にしてしまう。
そう、私がやるべき事は両親への感謝であり、恩返し。
物語に関係していそうなものを全て避け、勉学に励み、立派に男爵家を継いで、両親を安心させるのだ。
貴族の血を引くとはいえ、生まれた時から平民社会で育ってきた。
だけど、前世の記憶と共に蘇った受験で培った集中力、そして危ないと言われた志望校合格をつかみ取った執念で、貴族社会の勉強にもついていってみせる!
「ルル、そんなに無理をしなくても……」
「そうよ、ルルちゃん。そんなに根を詰めなくてもいいと思うわ」
そう決心した私は、入学式が近付くにつれて酷くなる胃痛に耐え、両親の心配する中 不眠不休で最低限のマナーと貴族の常識を頭と体に叩き込んだ。
私が読んでいた物語では、ヒロインの相手のほとんどが高位貴族で、皆そこにいるだけで視線を集めるほどの美形だった。
そしてモブとの差別化を図るために髪と瞳の色は戦隊モノを彷彿とさせるような色をしていた。
さらに必ず王太子や宰相の息子、騎士団長の息子などという「肩書付」。
確か「側近」や「生徒会役員」という立場の男性も危ないはずだ。
合言葉は「高位貴族で眉目秀麗、カラフルな髪と瞳に肩書付、絶対ダメ」だ。
彼らを避け、人前で転けない。
迷子にならない。
花壇の花に水をやったりしない。
怪我した小鳥を助けたりもしないし、木に登ったまま降りられなくなった猫の相手もしない──
まず目指すのは『地味で目立たない平穏な学生生活を送り、無事に卒業する』ことだ。
それは必ず両親への恩返しに繋がるはず。
私は、とりあえず物語に巻き込まれないため、迷子対策として学園内の地図を覚え、鳥や猫への情を棄てた。
そして、モブに紛れるために、淡い桜色を茶色に染めることを思い付いた。
この計画は両親に心配をかけないためにも、寮に入ってから、秘密裏に実行に移すことにした──




