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小説の世界に転生しましたが、既に終了しているようなので安心です!?  作者: Debby
第二片/ふたひら

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21/66

21 気付かれることのない席と奪われた時間


『お礼』として手に入れた彼女との『時間』。


何故かいつもぽっかり空いている図書館のその席は、桜の木がよく見える特等席だった。


桜の木に誰も気付かないように、この席の存在にも誰も気付いていないかのようだ。


席に誘導してすぐ、彼女は窓の外に見える桜に気付いたようで表情を緩めた。


「好きだろう? 『桜』……君の瞳と同じ色だよね」


彼女に倣い、俺も窓の外へ目を向ける。

あんなにも自分の存在を示しているのに、誰からも気付かれることのない桜は、この世界にとっての異端者である自分のようだと思う。


確かに在るのに、無いもののように消されていく俺の“転生者”である部分。


桜を見つけた彼女は、きっと消された俺をも見つけてくれる唯一の──




「でも何故だろう。君の髪色はブラウンなのに、君から受ける印象は桜色のイメージが強いんだ。そのブラウンという色素が不自然なほどに──」


今なら届きそうな気がして、彼女に手を伸ばす。


彼女を捉えるまであと少し──




「おや、奇遇だね。お二人さん」


そう思った時、邪魔が入った。


ルカ・アシュフォード第三王子殿下だ。

そういえば、昼間も彼女に絡んでいたな。

一体どういうつもりなんだ?


「殿下。ここは図書館です。皆試験に向けて学習中なのです。お喋りを楽しみたいのであれば、サロンへ行かれることをお勧めします。殿下ならばどこのサロンでも歓迎してくれるでしょう」


遠回しに「邪魔だ」と伝えるが、殿下は気にせず「──失礼するよ」と言って、俺の隣の席に着いた。


彼女の向かい側の席だ。


「わざわざ私のような者の隣に座らずとも、殿下の隣で勉強したいというご令嬢は大勢いるでしょう」


「君も可笑しなことを言うね。()()()ここに来たんじゃないか」


不特定多数の令嬢に関わるのなんて御免だと言いたいんだろう。

それに、この込み合った図書館で令嬢の隣になど座れば、あらぬ憶測と混乱を招く。


俺は『ならば一人で座ればいい』と、彼女の隣に座り直す。

自分と彼女の間に、その『憶測』を招く可能性など考えが及ばないほど、苛立っていた。



今の、この『時間』は俺のものなのに……!



彼女をチラリと見る。

熱心に参考書のページを捲るフリをしている……ひきつっている表情が可愛らしかった。




「あら、ルルじゃない。あなたも試験勉強をしに来たの?奇遇ね」


そこへ一人の令嬢がやって来た。


見たことがある。

確か先日、彼女を打とうとしていた令嬢だ。


どういうつもりなのかと観察していると、その令嬢は、そのまま彼女に話しかけながら学習スペースに入ってきた。


そして、俺と殿下の会話に割り込むだけでは飽き足らず、あろうことか殿下の隣の席に座ろうとしたのだ!


非常識にもほどがある!

この女は本当に淑女教育を受けた令嬢なのだろうか!?


「断る──!」


令嬢を視界に入れることなくそう言い放つと、言葉でその令嬢の浅薄な行動を止める。

そして、殿下に告げる。


「殿下もです。今日、彼女と約束していたのは俺なんです」


どいつもこいつも、ふざけるのは大概にして欲しい。

今は、俺が彼女からもらった、貴重な時間なんだ!




「?」


俺が殿下に苦情を言っている隙に、令嬢は何かを彼女の耳元で囁くと、二、三歩退き歪んだ笑みを浮かべた。


彼女の顔色が、一瞬で蒼白になる。


彼女の変化に気を取られ、一瞬反応が遅れた。


しかし令嬢が手に持っていた水筒の蓋に手を掛けた瞬間、すごく嫌な予感がして、考える間もなく上着を脱いでいた。


その予感は的中した。

令嬢は水筒の蓋を開けると、あろうことかよろけたふりをして、彼女に向かって中身をぶちまけたのだ。


バシャッ!


彼女の頭に水が掛かった瞬間、濡れた彼女を隠すように上着を掛けた。


(間に合った……)


一体何が間に合ったのか、それは自分でも分からなかった。

ただ、「とにかく間に合った」のだと強く感じた。




彼女が俺の上着に縋るように引き寄せているのを見て、彼女を守りたい、抱きしめたいという気持ちに支配されそうになるのを必死に耐えた。




「これはただの水。この陽気であればすぐに乾きます。なのでブルーベル様の上着をそのような者のために汚すことはありませんわ。あたくしが洗って後日お屋敷にお返しに上がりますわね」


その言葉で令嬢の浅い考えが透けて見えた。


そして、令嬢が彼女に掛けられた上着を剥ぎ取ろうと手を伸ばしたその時、周囲のざわめきが増し、第三者の声が割って入った。


「それには及びませんわ、ドロワット子爵令嬢。ルルはすでに三華サロンの一員。お借りした上着に関しても(わたくし)が責任を持って手配致します」


三華(みはな)サロンの華の主(はなのあるじ)、フェリシティ・ウォード公爵令嬢だ。






「このお礼は改めて──」


チェリーパフはそう言うと、俺の上着を強く握りしめたまま、いそいそとウォード公爵令嬢の後についていった。


顔が隠れていたためその表情は見えなかったけれど、その姿を見て、俺は彼女を護れたのだと安堵する。


俺は彼女が無事にこのフロアから出ていくのを見届けた後、殿下に一礼してその場を立ち去った。


俺と彼女の時間を奪った分、きちんと働いてくださいね、殿下。


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