18侯爵夫人とリハビリ
どうして、こう大げさな事になってしまったのだろう。
翌朝、目がさめると、日は高く昇っていて、ギョッとした。
カイウスは騎士団に出仕したらしく、メイドにつきっきりでお世話される。
腕を動かすと痛む程度で、そんなに大げさなことではないのに。朝と昼を兼ねた食事をとり、カウチで室内にあった本を読んでいると、ラデン侯爵夫人、つまりはカイウスの母が会いたいと言っていると伝えられる。
返答はもちろん、是である。
食事のみならず、ドレスまですべて用意されていて、私が持ち込んだものが無い。何だか、とても肩身の狭い思いがするが。私も挨拶はしておきたかったし、お礼も言いたかった。
「こんにちは、マルルちゃん。体調はいかがかしら?」
相変わらず、お美しい。素直にそう思う。私より小柄だけれど、スッと背筋がのびて、品のいい奥様。
ドレスから小物使いから髪型まで、自分に似合うものを知り尽くしていらっしゃる装いだ。
「ありがとうございます。痛みはほとんどございません。ご心配とご迷惑をおかけいたしました。」
軽く頭を下げる。
「いいえ。あの子が悪いのよ。婚約者に怪我をさせるなんて。本当にごめんなさい。」
逆に謝られてしまう。
どうやら、侯爵夫人は本当にカイウスに怒っているようで、その後も息子カイウスへの愚痴が続く。要約すると、前回の婚約者のみならず、新しい婚約者となった私も守れていないとご立腹の様子。
怒ってらしても、かわいらしい侯爵夫人。
侯爵夫人の話を聞きながら相槌を返す。小さい時から、カイウスはやんちゃで、とか、こういういたずらをされて、とか。たわいもない話を聞く。私が知らないカイウスの一面。
元々、ラデンの家自体が家風的にサッパリしていて、裏表の無い方が多い。
このまま、本当にカイウスと結婚したら、この方をお義母さまと呼ぶのかと考えると不思議な気がする。でも、侯爵夫人と話すのは楽しく感じられるし、義務的な政略結婚でもないため私は幸せな方なのだろう。
そんなことを考えていると、侯爵夫人に
「次の夜会の出席はまだ無理ね。でも秋夜会には間に合うわ。ねえ。新しいドレスを作りましょう。うんと大人っぽいドレス。カイウスの髪と同じ色合いの、緋色に近い綺麗な布を先日見せてもらったの。実は、キープしているのよ。きっとマルルちゃんに似合うわ。もちろん、お針子さんたちにもここに採寸に来てもらって無理しないようにするから。ねっ。いいでしょう?」
「はい。ありがとうございます。」
「うふふ。嬉しいわ。日に当たると、カイウスの髪は赤より緋色に近く見えるの。秋夜会は、秋の夕暮れを見るために夕方から始まるから、きっと注目の的よっ。普段、騎士団で仕事をしているから、なかなか肌や髪の手入れができないでしょう。このお休みの間に、一緒にお手入れ頑張りましょうね。」
ニコニコと笑う侯爵夫人。
うん。私に拒否権なんてあるはずがない。でも、ドレス??似合わないと思うのに、不安しかないな。
確かに、カイウスの髪は日に当たるとキラキラ輝いて、赤というより、緋色、朱に金が混じる色合いだ。
侯爵夫人のご機嫌は良く、流されるように、私の美化計画?がメイドと共に練られていくのを横で見ていた。
それから侯爵夫人が決めた私の復帰までの計画だが。
朝から侯爵家つきの治癒師の診察を受ける。午前中はその日の体調に合わせて、右腕を動かすリハビリを行う。
午後からはメイドさんたちに肌や髪のお手入れをしてもらったら、夕食まで自由時間。
夕食は普通にラデン家の食卓に着き、カイウスが帰って来たらカイウスの話し相手をする。
私、まだ婚約者なんですが。結婚していないんですがと、何度心の中で思った事だろう。
まるで、もう嫁いだみたいな扱いではありませんか。
騎士団から帰宅したカイウスが、侯爵夫人から喜々としてこの方針を伝えられると、大きくため息をついていた。
すみません。私には止めることなど出来ません。
どうやらカイウスは、私の体調が落ち着き次第、騎士団の事務仕事をしてもらいたかったらしい。
だが、私が騎士団に早期復帰してから事務仕事を行うという流れは侯爵夫人の猛反対に会い、却下された。
カイウスが叱られている。
夫人に同調して、カイウスの妹2人からも、休ませないなんて酷いと散々な言われようだ。
それに、秋夜会の話も勝手に進んでいて、カイウスが頭を抱えていてちょっと笑ってしまった。
女は強い。
因みに、ラデン侯爵様、侯爵夫人が怒ってる間は見事に空気になっていた。
侯爵様、上手い。




