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12言葉足らず

カイウスの制止を振り切り、バタンと、音を立てて扉を閉める。


騎士団の中だ。


他の団員に感情の起伏を悟られないように、静かに移動する。今日の仕事は終わっている。


元々、カイウスと話したら帰る予定だった。


荷物を取り、そのまま騎士団を後にする。


普段は騎士寮に帰るのだが、気分的に無理だ。


どこに行こう。



足は、自然と市場に向かっていた。


色とりどりの果物。肉、野菜。服飾。民芸品。雑多に並ぶこの市場に来ると、気が紛れるかと思ったのだが、無理だ。


どうしてだろう。


何か欲しいという訳でもない。


ただ、市場をぶらつく。


小粒の半貴石を扱う露天商。

紅玉のシンプルなピアスを見て、カイウスを思い出す。彼の髪の色と一緒だ。


やだなぁ。


忘れたくて来たのに、やっぱり心はあの人の事ばかりだ。


情けなくて、涙が溢れそうで。グッと我慢する。


雑多な市場を後にし、市場に荷を積み降ろす川まで来てしまった。


「おい。」


肩を掴まれて振り返ると、カイウスがいた。


「っ!!」

あまりの驚きに、つい、声がでそうになるのを堪える。


カイウスからとても強い不機嫌のオーラが漂ってくる。

ああ。怒らせちゃったんだよね。それくらい、私にもわかる。


そのまま、手を引かれて連れて行かれる。無言だ。


私も無言だ。話せないよ。

何を考えてるのかわからないよ。


橋の側に、ラデン侯爵家の馬車が待っている。

「乗れ。」


怒ってる。これ、相当怒ってる。


一緒に仕事してるからわかる。こんなに怒ることあんまりないのに。


私が不甲斐ないから怒られるのかな?

やっぱり、隣に並び立つなんて…


グルグルと余計な考えが回る。


カイウスは終始、しかめっ面で腕を組んで無言だ。


決して小さくない私だけど、馬車の中で小さくなりたい。


向かい合ってて怖い。


馬車は、静かに侯爵家へ到着する。

到着と同時に、カイウスからエスコートされる。


エスコートねぇ。


不釣り合いだわ。


なんだか冷水を浴びたかのように気持ちが冷たくなっていく。


カイウスの部屋に通され、お茶を出される。静かにメイドが下がっていく。

お茶を楽しむ気分では無いのだけど。せっかく淹れていただいたのだからと、口をつける。


カイウスも黙ってお茶を飲む。


沈黙が辛い。


「悪かった。」

ぼそりとカイウスが言う。


どうして謝られるのか、わからない。


「いいえ。お気になさらないで下さい。私が至らないばかりに、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」


「違うだろう!」

怒気をはらんだカイウスの声。ガチャリとカップが置かれて、カイウスが立ち上がる。


苛立ちが伝わってくる。

ああ。私、また怒らせてしまった。どうしたらいいんだろう。

茫然とする私の前にカイウスが来て、手を引かれて立たされる。混乱する中、急に抱きしめられる。


どうして?


「すまない。俺が悪いんだ。俺がお前を社交に出したくなかっただけなんだ。嫌だったんだよ。お前が他の男の目に触れるのは。それに、前みたいに変な女に目ぇつけられて、煩わせたくなかったんだよ。」


「えっ…?」

今、この人何て言ったの?

私、聞き間違えてない?


「俺はあんまり女性と話すのは得意じゃないんだ。だから、無口になる。ああ。先に言っとくが、男色じゃないぞ。家の家系は男も女もアッサリしてて、サバサバしてるからな。他所の令嬢は苦手なんだ。」

何を言ってるんだろう。とても和やかに女性に囲まれて談笑してたじゃないか。


「それは信じられないわ。よく令嬢に囲まれて、話してたじゃない。」

「それはなぁ。こう言われたら、こう返事するって言う、決まりみたいな。定型文があるんだよ。」

「はっ?」

定型文????

何言ってるのこの人。


「あーもう、そんな反応するなよ。だから話すの嫌だったんだよ。昔っから苦手なんだよ。社交で話すの。男はあまり気にならないけど、女は無理なんだよ。子供の時から、こう言われたらこう返しなさいみたいな教育を受けてるんだよ。情けないけどよ、苦手だから前の相手が苦しんでるなんて気がつかなかったし、上手く守れなかったんだよ。」


「じゃあ、私を社交に出したくないって…」

本当に守りたかっただけ??


「だから、言っただろう。前みたいに俺の知らない所で、お前に嫌がらせされんのも嫌だったんだよ。第一、社交ってなったら、お前ドレス着るんだろ?何であんな胸の空いた服着せてお前を見せて回らないといけないんだ?」


「胸の空いた服って…」

この間の、リーン先輩に着せられた服かな?

でも夜会の服では普通じゃないかな?


「お前がこの前、着てたような服だよ。誘ってるようにしか見えないだろ。」


「はい?ちょっと待って。ドレスの形は定番だし、色もダークブラウンなんて、全然派手じゃないのよ?女性同士で飲むから選んだ色であって、あれは普段着に近い色でしょう?」

何言ってるのよ。夜会の女性なんて、皆んな色とりどりじゃないの。


「ん…?」

カイウスの戸惑ったような声。

抱きしめられてるから、顔は見えない。抱きしめる力が強くなる。


ちょっと。流石に苦しいんだけど。馬鹿力っ!!


「苦しい。」

私の言葉に急に力が抜ける。


「すまん。」

そう言うのに、離しては貰えない。私の肩に、カイウスの頭の重みがかかる。


「なぁ。じゃあ。出るか?」

耳元でボソリと言われる。


「社交に?」

「ああ。」


「貴方の奥さんになるなら、出ないといけないわ。」

「…そうだな。」


「私、守ってなんて言ってないわ。」

「そうだな。」


「並び立てと言ったのは、貴方じゃないの?」

「そうだ。」


「信じてもらえないの?」

「そうじゃない。」


「じゃあ。出るわ。」

「そうか。」


「貴方、騎士団正装で出ているのでしょう?」

「ああ。面倒だからな。」


「じゃあ、合わせるわ。」

カイウスが少し離れ、視線がぶつかる。

「私も、貴方に合わせる。」


カイウスは無言だ。


「どっちにしろ、普通のご令嬢では貴女の相手は務まらないのはわかってるわ。私、女性らしさでは負けるもの。じゃあ、貴方と対等に並んでみせるわ。」

そう。私らしく。


令嬢には出来ない、カイウスの隣という位置を絶対的に見せつける。


カイウスに嫌われていないのならば、夜会に出さなかったのが彼の優しさならば、それは違うと強く言いたい。


10歳の時から頑張っていたのは、この人の隣にいたいから。


急に余裕が生まれたのを感じる。

あんなに女性に囲まれていて、話していた言葉が定型文なんて。可笑しくてたまらない。

5歳も年下の私の言動に狼狽える大きな男を見ていると、なんだか可愛く思えてきて。


初めて、私から抱きついた。


「心配しないで。私、上手に貴方の隣に並び立って見せるわ。」

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 回避出来た令嬢は? 後書きにリンク貼れないと気がつきました。
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