11不器用な愛
翌日、騎士団への出仕まで、カイウスと同行となった。
皆の注目する視線が痛い。
でも、下を向くのは違う気がして、前を向く。
全然自信が無いのに、精一杯、強い女を演じる。
横に並び立てと言われた。
ならば、1番美しく見えるように立ってやる。
カイウスに守ってもらわなくていい。
お互い、背中を預けられるような存在になれればカッコイイと思うのよね。
守られるだけの令嬢なんて、きっと、カイウスには負担だ。だから。私は私で並び立つ。
「おはよう、マルル。」
ルルーに声をかけられる。
「おはよう、ルルー。昨日は急に休んでごめんなさい。」
「いいのよー。ちょっと驚いたけどね。いつからそんな事になってたのよ?」
「一昨日、急に。」
「はっ?」
ルルーの驚きっぷりが面白くて笑ってしまう。
嫌もう、ほんと。えっ?って感じよね。
私にも実感が無いもの。
しっかりしなきゃと思うけれど、フワフワしてる。どこか浮ついた自分。何かミスしそうで恐ろしい。
気を引き締めなくては。
「朝礼が始まるから、また、ゆっくり話しましょう。」
「了解。」
ふふっとルルーが笑う。
騎士団長の元、朝礼が始まる。
「皆、ほとんどの者が知っているだろうが、この度、副団長、カイウス・ラデンは、マルル・ヤドーと婚約した。が、体制に変更は無い。階級も変更無い。皆もそのつもりで。」
「ハッ。」
と、返事が返る。
「急な事でな。皆、変な遠慮はしてくれるなよ。」
カイウスの言葉に、是と、皆が笑いながら私とカイウスを見ている。
リーン先輩とか、めちゃくちゃ笑顔だ。
まあ、とにかく、私がカイウスと婚約した事は周知の事実となった。
元々貴族も多い1団では、特に何も変わらず、皆、温かく見守ってくれるようだった。
事の顛末を聞いたルルーには、大いに呆れられた。
普段の仕事。
普段通りの業務の手順。
その時は、まだ、自分がカイウスに手厚く守られているとは思っていなかった。
その事に気がついたのは、婚約して1ヶ月ほどしてから。
カイウスが夜会に出ていないと姉達から聞いてからだ。
今迄は、主要夜会には出席し、くだんの令嬢もエスコートしていたとの事。
だが。カイウスが急に夜会に出なくなった。
初めは忙しいとの言い訳も通るが、流石に1ヶ月もすると、意図的に欠席していると目立ってくる。
私は子爵家から騎士団へ通うと移動に時間が取られて忙しくなるため、最近は騎士寮に泊まり込んでいた。姉達は、私を心配してわざわざ騎士団まで会いに来てくれたのだ。
カイウスは、騎士団副団長であり、次期侯爵。今後、社交に出ないなど、あり得ない。
私はそんなに頼りなかっただろうか。
連れて回るのは嫌だったのだろうか。
騎士団寮にいて、令嬢らしい事をしていない。社交に出るドレスなど、流行を追うものは持たないに等しい。誘われないのも無理は無いが。カイウスが、出ない理由が無い。
どうして、という思いがグルグル回る。
カイウスに尋ねるしか無いだろう。勝手に想像しても、悪い方ばかりに考える。
姉達が帰った後に、カイウスの副団長室を訪ねる。
仕事が終わったら、私的に尋ねたい事があると簡潔に伝える。
わかった、とだけ返事をして仕事に戻るカイウス。
夕刻、カイウスが私を呼んでいるとの事で、副団長室に行く。
「話って何だ?」
と、カイウス。
「姉達が会いに来てくれたの。それで、貴方が社交に出ないのが噂になっていると。」
「それで?」
「私のせい?」
「いや、俺が出なかっただけだ。」
「どうして?」
「理由がいるか?」
「ええ。聞きたくて来たの。」
「…考えてる通りだよ。社交は煩わしいだろう。特に、マルルは騎士になる前からほとんど出ていないだろう。そんな所に連れて行くのもな。」
「貴方、社交に出さない事で私を守っていたの?」
「俺が出したくなかっただけだ。」
「それは、私が貴方の横に立てる程の女性では無いと判断されたんですね。」
「違う。」
「違わないわ。」
「夜会に出たかったのかよ?」
「…いいえ。でも、私のせいで貴方の評判が落ちるなら、婚約は解消してください。」
「マルルっ!!」
「貴方は次期侯爵様でしょう?社交が出来ない妻では駄目だわ。」
「どうして、そんな極端に考えるんだ。」
「私には、わからないもの。前の婚約者は連れて歩けて、私が駄目な理由を聞かせて。」
「…お前、酔うとガードが甘くなるからだ。」
「は?」
「だから、お前が、酒に酔って他所の男に連れてかれたら困るだろうが。」
思わぬカイウスの発言に絶句した。
「ちょっ。ちょっと待って。私、確かにあの日は酔いつぶれたけど、あんな事になったのは初めてなんですよ?それに、どうして私が他所の男に連れて行かれる前提なんです?」
さすがに、それはないでしょ!
「…お前、俺に着いてきたじゃないか。」
「あのですねっ。全然記憶ないですけど、流石にどうでもいい人について行ったりするわけないでしょう?」
ああ。言ってて、自分で恥ずかしくなるよ。
「…じゃあ、マルル、お前、俺の事好きだったわけ?」
ああああ。もう、ドツボにはまった。
「好きでしたよ、ずっと。」
「本当に?」
カイウスに覗き込まれる。
嫌だもう。見ないでよ。
「もう。だから、貴方が好きなのは、前の婚約者みたいな方だと思ってましたから、私は仕事で一緒に居られるだけで良かったんです。なのに、急に婚約とか、私、まだ受け入れるにも、現実味が無くて…だから、大丈夫です。社交に出られないでは侯爵夫人失格ですから、他の方を探して下さいっ。」
混乱した私は、一方的に言い切って、副団長室を飛び出した。




