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バンコクにて 小説「インドへの旅」最終章

 そこには悩ましげな看板が目の前に広がっていた。出迎えてくれたのは中年の男だった。


「いま、女の子、空いています。気持ちいいマッサージ、どうぞ、どうぞ」

 一目で私を日本人と分かったのだろうか?

 それを聞くと「日本人すぐわかります。美人のマッサージです。どうぞ、どうぞ」

 入口の様子を見ながら、値段を聞いてみた。一時間、九百バーツと言っていた。フリーSIMと同じ値段だ。

「その前に、トイレに行かせて」

 トイレは店内であった。店内のトイレを利用すれば、もう、キャンセルは出来ないかも。それでも戻って見ると、その男の姿は見えなかった。これ幸いと外へ出てモノレールの駅へ向かった。


 ナショナルスタジアム(国立競技場)駅は、モノレールの終点であった。すぐに分かるだろうと思ったが、とんでも無いことで、散々に迷い続けた。

 駅を出ると、直ぐだと聞いていたのに分からない。ナショナルスタジアム駅近辺の地図は持っていない。通行の女性に尋ねた。「ミュージアムはこの先、そこを行った所です」

 指差してくれたところは、眼前に広がる円形の大きな建物であった。見るからに展示場らしい。

 教えてくれた女性は少し色が黒かったが目鼻立ちの整った美人であった。

「私の日本語、分かりますか? 分からない、困ったは、電話してください。私の電話教える。書きます」

 親切に電話番号をメモしてくれた。もしかして、独身?

 訊ねてみた。独身ではなかった。

「主人います。子供います。私、向こう行きます。気を付けて下さい」

 異国で言葉が分からずに、途方に暮れているとき、会話が少しでも出来る人と会えれば無性に嬉しい。ましてや女性ならなおのこと。立ち去る彼女を見送って、教えてもらった円形の建物へ入った。


 だが、その建物は、たしかに展示館風ではあったが、私の探すものではなかった。外に有るのかも、と、一旦、外へ出て周囲を見回すと、樹木の生い茂った場所が向かいに有った。あそこに違いない!

 高架歩道を渡って、記憶に残るイメージと重なりそうな場所を探した。一人の守衛のような男に尋ねると、反対の道路へ行って、二筋目を右へ曲がる、と。


 手振り身振りで分かったのだが、再び、高い高架歩道を渡るのには閉口である。

 教えてくれた方へは行かずに、樹木の茂っている所を探し続けた。なぜなら、教えてくれる事が百%信用していいとは限らないからだ。

 それらしい茂みを確認して、此処では無いと納得できたら、また、反対側へ行こう。


 期待したものの、記憶に残る場所には出合わなかった。

 タイの歩道橋は階段が高い。それを見ると、対岸へ行くのにも躊躇された。

 と、そのとき、欧米人の女性が3人、道路際に立ち止まった。そして、流れる車を窺っている。渡るのだ! 一緒に渡ろう!

 私は彼女らの下手に行って、彼女たちが渡るのに合わせて、横断を決行することにした。彼女たちは走るかも知れない。それに遅れないためには、彼女たちの下手である事が必要だ。

 しばらく待って、ようやく車の途切れが出来た。私が一足早く渡ることに成功した。

 三人連れの最後の一人も渡り終えた。それを振り返って見たときに、渡り終えた彼女たちの直ぐ後ろで、バイクが交差点手前の遮蔽壁に衝突して、バイクが横倒れで20メートルほど滑って行った。

 あのバイク、欧米人の女性に見とれていたのだ!


 私に道を教えてくれた守衛のような男が駆け寄り、続いて同じ服装の男達が走ってきた。直ぐさま後続の車を停車させ、バイクの男を歩道へ運んだ。さらに、もう一人。

 その機敏な様子から、単なる守衛では無いと思った。彼らは、軍人だったのだ。樹木の茂った高い塀と頑丈な門は、軍の施設であったのに違いない(と推測)。

 事故の原因となった欧米人女性は? どこにも見掛けなかった。



 再び、感激の場所に来た。真っ黒い肌の豊満な裸の女性が「さあ、いらっしゃい」と腕を自分の胸に引き寄せるポーズを取っているあの印象深い胸像だ。

 観光客が、腕の中に入って記念写真を撮り合っている。ここも、一年前に従弟と来た所である。

 私は所詮、独り者だ。自撮りで記念写真を撮っても、それを見せて面白がってくれる女性ひとはいない。

 それより、J・T社を見つける事が先だ。まず、一筋目を曲がってみた(守衛のような男からは二筋目と言われていたが)。

 日産の販売店兼修理場があった。日産の店なら、日本人がいるかも。いなくても日本語の解る者が居れば助かる。

 それで、店舗内へ入ったのだが、まったく日本語は通じなかった。

以上、趣味人へ http://smcb.jp/_ps01?post_id=7025013&oid=235598

 最終章 9 バンコクにて 小説「インドへの旅」


 さらに奥へ行ってみるか? しかし、さすがに草臥れていた。路の奥を窺うが、解らない。太陽は容赦なく照り付ける。奥まで行ってそこでは無いとすれば、再びこの炎天下を無駄に歩く事になる。

 私は、この時のために準備していた物があった。双眼鏡である。最もコンパクトで且つ倍率の高い物を出発前の購入していた。インドで、そしてバンコクで、交差点の反対側の道路標識を確認するためである。一々、道路を渡って、その道路では無くてまた、戻るという無駄をしないように・・・・

 初めて(そして最後)の双眼鏡の出番だった。よくよく路地の奥を見ると、タクシーが数台、脇に寄せられている。タクシーが居るということは? なにか観光対象があるかもしれない。だが、いくら見ても、それらしい樹木の茂みやJ・T社の看板は確認できなかった。白人の夫婦が戻って来るのが見えた。

 それで、一筋目の路地は引き返した。そして、二筋目を入って行くと・・・・ 見えた!

 紛れもない場所であった。


 彼女は一年前と同じように糸を紡いでいた。そして同じように、ショータイムで踊り出した。

 私が話しかけても、一年前と全く同じ笑顔で、特別に感激した、ビックリした、という風では無かった。観光客への作られた笑顔を、誰にともなく振りまいているのであった。

 曲も踊りも、一年前と同じものを、スマホの動画で写して辞した。

 なにか、物足りない。厳しかった太陽も次第に傾いていた。レストランへ入って・・・・または、タイ古式マッサージを受けてみたい。夜になれば、雰囲気も変わるであろうが、私は再びモノレールに乗って、地下鉄へ乗り換えた。

 途中の駅に「タイランドカルチュアセンター」という名前があった。名前からして、ここにはタイ文化の中心地になるのかも・・・・

 例えばタイ舞踊とか、タイ式キックボクシングの闘技場などが、あるのではなかろうか? そして古式マッサージもあるのでは?

 途中下車した。

 それらしい建物、看板を探して歩き回った。二つほど、それかと思えるビルがあった。

 その一つに入って見ると、テナントのビルであった。日本でいうデパート。

 ビル内を一通り見て回って、サラダの専門店へ立ち寄った。

 写真のメニューと料金で安心したのだが、店員に次々と尋ねられる。

 野菜の指定をしなければならなかった。順番に適当に決めていると、その内にハムやソーセージの指定を要求する。それで値段は表示価格を超えてしまった。ハムをキャンセル。次に、ドレッシングはどれにするのかと。

 こんなに面倒なものと知っていれば寄らなかった。寿司屋か天麩羅屋に寄れば簡単だっただろう(そのテナントには日本料理の店が多かった)。しかし、野菜らしい物がほとんど食べていない。生の野菜を安心して食べられるのなら、まぁ、いいか~~


 サラダを一皿食べて、再び歩き回る元気が回復した。

 日没に近づいていた。野外ステージが準備されていた。椅子が並べられている。座っている見物人に、フリーステージか、チケットがいるのかと訊ねると、フリーだという。

 それで安心していたが、いよいよ、始まる、という時に、鞄を肩に提げた男が近寄ってきた。チケットを買えというのだろう。ステージの演技の内容によっては、と思ったが、どうやら、騒々しいだけの出し物のようであった。日本で〝ライブ〟と呼ばれているロックか何か、拡声器で無茶苦茶な騒音をまき散らすあの不愉快な類いと分かったので、金まで払う意味はないと、逃げ出した。

 そして、地下鉄駅を探すのであるが、訊ねてみると、人によって方向が逆であった。

 同じ所を、またも三回行き来して、やっと着いたところは、地下鉄駅の一つ通り過ぎたところのファイクワンという駅であった。

 一つ駅分だけの料金を払って、ようやく我が宿の駅へ帰り着いた。

 この時も、市場のカオニャオを求めて探したのだが、店は出ていなかった。

 ホテルの近くのマックスバリューに寄って、夕食を仕入れた。




 バンコク滞在の四日目、五日目は、インターネットで調べ物をして過ごした。

 私よりももっと長く滞在すると言うていた澄川氏とは、その後会っていない。彼が言うていたインドの超能力者、それを検索すると、現れたのだ。

 以上、趣味人へ http://smcb.jp/_ps01?post_id=7025068&oid=235598最終章 10 バンコクにて 小説「インドへの旅」

 以上 アメブロ バンコクにて(5) http://ameblo.jp/syosetu-123/entry-12185264542.html


 「インドの霊能者」で検索すると、サティヤ・サイ・ババが現れる。

 10代の時の写真では、愛らしい少年の顔だが、やがて変貌する。

 顔で人間の性格を見る、などという邪な発想は嫌いだが、しかし、霊性の高さ、低くさで人の評価を決めつける日本人の〝高級霊〟の者よりは、赦せるであろうか。


 サイババの壮年期の顔は、はっきり言って悪人顔だ。あの少年期の愛らしさが、いったい、どういう理由でこうも邪悪な表情に変貌するのであろう?

 その経歴を見て納得できるものがあった。

 かれは詐欺師だ。ペテン師だ。手品に長けていた。人々を欺し続けていたのだ。

 彼が説法を聞かせると病が治った? 嘘つきだ。

 病気の者へ「あなたは私の話を信じて聞けば、必ず病は治ります」

 と言うておけば良い。人間の体は自然治癒力を持っている。やがて病が治れば、サイババの言うた通りだった、と信じ込むし、もし一層重篤化すれば、信じていなかった者、として見捨てられる。

 さらに彼は手品をマスターした。世の手品師は、それを魔力とか神の術などとは言わない。仕掛けの種があることを暗黙に了承している。

 ところが、サイババは、その手品を神の奇跡の証拠だと、飛んでも無い騙しを働いた。

 「神の奇跡で精神を物質に替えて見せます」と、手を空へ差し出して掌を人々に見せる。そこには石や砂など、なにかが現れている。

 彼がその手品をインドで行っていたのは、1940年代から後である。その頃のインドはイギリスの植民地で、第二次世界大戦の真っさだ中であった。日本軍が東南アジアのイギリス・フランスを追い払っている頃だ。インドの民度は高くは無い。簡単に手品で騙された。

 神の奇跡を働く者として、絶大な信奉者を獲得したのである。いわゆる新興宗教だ。

 良心に咎められるものがなかったのであろうか?


 人々を騙している、ということは、当人が知っている。その騙しを続けるためには、表情も変わるであろう。

 自称〝高級霊〟と宣う田沼の顔も、実は、変化していたのである。優しい笑みの欠片も無い冷酷な狡賢い表情になっていた。

 田沼の場合は、騙しで言うていたのではない(と思ったが)。霊の存在やその働き、その能力者と彼らの言動を信じ込んでいた。

 そこから生じたのだ。私・久米は霊的にレベルが低い、自分・田沼はレベルが高い。霊のレベルが高い者は、レベルの低い者を打ちのめしてその自己防衛の殻を打ち砕いてやるのが勤めだと・・・・。

 (後日、分かった。田沼は実は私に対して、ある嘘・騙しを行っていた。それをホローするためにも、自分は霊性が高い、久米は低いと、決めつけておかなければならない状況があったのだ)

 ネットで見つけたインドの神の代行者、それを人々に信じ込ませ続けるためには、時として、手段を選ばない非道もあったはず。それが、彼の顔から優しさを消したのでは?

 さらに、興味深い事柄が現れた。

 澄川も言うていたJ・T社の社長の件。サイババが神の奇跡で多くの信者を集めている情報に、スパイの任務も持っていた社長が、調査に乗り出したのだ。

 J・T氏がサイババのそのような話を信じる筈はない。しかし、『1960年代末には海外にもその名が広まり、インド人やインド系の民族を中心に世界各国に数百万人以上の信奉者をもつようになった』状態では、騙しの証拠を掴んでおく必要が生まれる。

 J・T氏は内密にサイババの嘘を暴こうとした。少なくとも、真実の資料は掴んで置こうと・・・・(J・T氏は或いは、アメリカ人の半数は超能力や来世を信じていると言われるように、彼も、もしサイババが噂どおりに本物なら、と期待していたのかも。内密に信者になって接触して居たとしても可笑しくはない。そして騙しを見てしまった)

 それはサイババにとっては一大事である。見抜かれた事を公表されては死活問題だ。奴をポアーせよ!と、神の命令が下る。配下の者が行動する。

 それはオウム真理教の事件を思い出せば分かるであろう。

 または、朝日ジャーナルで韓国の新興宗教の悪質さを暴き続けていたその果てに、朝日新聞の支局が銃撃を受ける事件が発生したことでも分かるように、宗教など、霊的な信奉者は実に危険極まりないのである。

 彼らは自分たちの保身のためには、曝こうとする者へは容赦はしない。それは彼らにとっては、非道でも悪でも無い。正しい行いとして実行される。


 以上、趣味人へ http://smcb.jp/_ps01?post_id=7028887&oid=235598 


つづく


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