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最後のホテル

 さっそくチェックインの手続きを済ませるのかと思うと、違った。荷物をフロントへ預けて一階へ下りた。それではレストランで食事をするのだろうと期待すると、それも違った。


以上、趣味人へ http://smcb.jp/_ps01?post_id=6982857&oid=235598 

小説「インドの旅」ヒンズー教の祭り そしてインドの最後のホテルへ


 時間稼ぎをするという。

 つまり、遅くチェックインをすると、二十四時間後の明日の同じ時間まで留まれる。もし早くチェックインをすれば、明日、早く出なければならず、それではチェンナイ空港での待ち時間が長すぎて困る、ということらしい。

 それで、チェックインを送らせるために、荷物だけを預けて、周辺散策で時間かせぎをすることになった。

 そのホテルの場所は・・・・? チェンナイ市内には入っていると思うのだが、分からない。

 この時、私は使用するカメラをスマホだけにしていた。スマホのカメラはGPS機能が付いていない。従って、写した写真では、全く、緯度経度の情報がなくて、地図に出せないのだ。

 ? と諦めたのだが、もう一度写真を調べ直した。すると、三枚ほどハンディカムで写していた。それに位置情報があった!

 地図に出して見ると・・・・正確さには若干欠けるが、大体、分かった。

 チェンナイ市のアランドゥという駅の近くだ。南西方向にチェンナイ国際空港があった。その方向へ散策した。チェンナイ市内はその反対側だが・・・・


 私は、レストランへ行くものと思って、ステッキ(トレッキングポール)は荷物に差し込んでいた。それを取りに戻ることも出来ない。付いて行かずにレストランで待つことも可能だったが、インドの旅の最後だ。そうそう遠くへ行くこともないだろうと、付いて行くことにした。


 我が足よ、今暫く我慢してくれ。もうすぐインドは終わる。そのあとは、薄情な彼らと別れて、タイへ行くのだ。頑張れ、頑張れ・・・・



 電車の駅は、アランドゥというようだが、その町がアランドゥか否かはわからない。

 夕暮れ迫る中を、ここも同じインドの下町である。ゴミと臭気にはもう慣れた。それでも比較的小綺麗な町だった。簡易ホテルらしい建物も見掛けた。

「もし、さっきよりも安ければ、替わろう。あそこには荷物を預けただけで、まだ何も支払ってはいないのだから」

 と田沼が話していた。しかし、それらしい建物は、一般客用のホテルではなかった。HOTELの文字は見当たらない。多分、マンションか、そうでなければ会社か会員制の専属宿泊所なのだろう。

 もう、余計な歩行は願い下げであった。

 路地から路地を歩いて回っている内に、十字架を屋根に立てている建物を見た。珍しかった。質素な作りであったから、プロテスタント系であろうか。

 インドはイギリスに統治されていた。通常は、植民地には、自国の宗教を移植しようとするものだが、インドではヒンズー教からキリスト教に改宗させることはなかったようだ。

 インド人を自分たち白人と同じ宗教にしてしまいたくなかったのだろうか?

 あるいは、その逆?

 すっかり暗くなったところで、こじんまりとしたヒンズー教寺院に入ることが出来た。

 入口で靴だけを脱いだら、靴下までは取らなくても良いらしいので、私も中へ入った。

 華麗な色彩に覆われた小寺院で、そこここに信者が寛いでいた。

 肉感豊かな女性神像が、祭壇の前に立っていた。男尊女卑が強いはずのインド、その宗教であるのだが、祭神を守るのは女性であった。

 日本の仏教徒とは大違いだ。優劣は判じがたいが、仏教思想に影響されていた日本では、女性は不浄として排斥されていた。


 その面で、白い逸話が、江戸初期に残っている。

 石川丈山、詩仙堂建立で有名な庭園家であり、当代きっての文人である。元は武士だ。

 彼は生涯独身を通して、死の間際に、身辺の世話をする者に言うたとか・・・・

「女に末期を看取られなくて済むのが嬉しい。生涯を一度も女の世話を受けずに通せたのは私の誇りだ」

 その話を知って、私は呆れ驚いた。女性の胸に、膝に、顔を伏せずして何の安らぎが得られるであろうか・・・・と。

以上、アメブロへhttp://ameblo.jp/syosetu-123/entry-12172633251.html

       ヒンズー教七大聖地の一つ カーンチープラム

以上、趣味人へ http://smcb.jp/_ps01?post_id=6991046&oid=235598 

インドの旅 小説 最後のホテル (1)



 その話を知って、私は呆れ驚いた。女性の胸に、膝に、顔を伏せずして何の安らぎが得られるであろうか・・・・と。

  http://smcb.jp/_ps01?post_id=6991046&oid=235598

より続き


 石川丈山は良尚親王(曼殊院住職)への対抗意識で、仏教呪術に負けまいとしていたのだ。比叡山の僧兵は、豊臣を滅亡させた後で、最後に残る徳川への脅威だった。その比叡山は皇族方に組しており、皇族こそ、豊臣亡き後の徳川家の存亡の鍵を握る勢力であった。だから、家康は皇族へ圧力を掛け続けて、少しでも反抗の態度をとれば・・・・と待っていたのだ。

 皇族達は豊臣家滅亡の顛末を見ていたので、徳川の挑発には屈辱を呑んで凌いでいた。しかし、一朝ことあれば、戦わなければならない。その為には、比叡山を城にして、と準備をしていたのである。後水尾上皇の修学院離宮は、その比叡山の中腹に、今までの庭園とは桁違いのスケールで構築され、さらに、その近く、比叡山の登山道であった雲母坂に、良尚親王の曼殊院が移築され、親王は仏力による天皇家の安泰を祈願し続け、日夜、呪術に明け暮れていた。その良尚親王が妻帯せずに、独身で法力を強めようとしていたので、石川丈山も、負けてなるかと、対抗していたのだ。

 丈山は徳川家擁護の一念で、皇族と比叡山を牽制していた。

 彼らは、本気で女気を避けていたのだ。呪術力を増すためには、女に触れてはならないと・・・・

 その点、ヒンズー教は可愛い。女性に守って貰うのだから。


 田沼も松川も、疲れていたのであろう。その小寺院で時間の過ぎるのを待っていた。

 脇に寄って、淵石に腰を下ろしていると・・・・猛烈な蚊の大群が襲ってきた。

 大きくはない。小さな蚊が、夕闇の中、寺の照明に浮かび出てきた。蚊に刺されると、マラリヤなど、死に到る感染病にかかるかもしれない。食中りの段ではない。

 私は蚊を避けつつ、その小さな寺を見物して回った。


 やがて、他には見るものもないと、一行は予定のホテルに戻った。それでも1時間以上、早いという。では、レストランで食事をすれば、丁度良いはず。と思ったのだが、何故か、食事の注文をしない。田沼がミネラルウオーターを一本買っていた。

 レストランのテーブルに座って、何も注文しないわけにはいくまい、と私はメニュー写真を見に行った。コロッケのような、菓子のような物があった。

 それを指差して、プリーズ、ディスイズワン


(正しくは、I'd like this one.アイライクディスワン)、


と頼んだ。仲間が居るのに、たったの一つで良いのか? という表情であった。

「イエス、オンリーワン、プリーズ」


(正しくはOnly one is all rightオンリーワンイズオールライト)」


 チケットを別の場所で買わなければならなかった。

 すると、一個のコロッケに3種類のタレが別の容器に入れて渡された。

 田沼は、夫婦で水だけを飲んでいる。私の食事に言うのだった。

「それを1時間かけて、ゆっくり食べなさい」

 コロッケは見掛けとは違って、物凄い油気であった。それをフォークで小切りにして、タレに漬けて食べる。どれも、みな辛かった。特別に辛いタレと、比較的軽いタレと・・・・

 ? 松川は何処へ行っているのか、周囲には見掛けなかった。他の場所でワインでも飲んでいるのであろうか? 何も食べようとしない田沼夫婦には、閉口しているのかも・・・・

 田沼は、私の小さなコロッケ一つを、時間稼ぎでゆっくり食べろというほどに、出費を嫌がっているのだ。

 部屋に入れば、自分たち夫婦だけで、食事を摂る積もりなのであろう。

 なぜか会食の楽しみを持とうとはしない不思議な人達だ。

 そして、自分たちの持っている食べ物は、絶対に人へは分けようとしないのである。

 嫌われている私へ奨めないのは分かるとしても、長い付き合いの友人であるはずの松川へ対しても、分け与える、と言うことのない奇妙な人間であった。

 私の感覚では、例えわずかでも同伴者に分け与えて、歓談の時を過ごすのが人間であると、思っているのに。

 かのイエスも、一つのパンを分けていたではないか・・・・。そして、晩餐会を開いた。


 ようやく、チェックインを済ませると、田沼が言った。

「明日は夕方まで、自由時間とする。各自、行きたいところへ行っていい」

 松川と相談して、決めたようだ。


 以上、趣味人へ http://smcb.jp/_ps01?post_id=6991076&oid=235598 

 最後のホテル(2) インドの旅 小説


つづく

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