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俺はただ話を聞いているだけなのに、なぜか学園の女神たちが放っておいてくれない  作者: 玉響すばる


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第7話 重なる距離、交差する視線

 昼休み直前。


 教室の空気は、朝から妙に落ち着かなかった。


 理由ははっきりしている。


 神代悠真の机を中心に、視線が集まっているからだ。


「今日どうなるんだろうな……」


「昨日は九条と中庭だろ?」


「で、今日は栗原と約束してるって話だし……」


 噂は、もはや前提になっている。


 悠真は机に頬杖をつきながら、小さく息を吐いた。


 ――完全にイベント扱いされてるな。


 当事者としては、全くありがたくない。


「悠真くん」


 声がかかる。


 ひよりだ。


 今日は昨日よりも早く、席の横に立っていた。


「今日、覚えてるよね?」


「昼の話?」


「うん」


 にこっと笑う。


「一緒に食べるって」


「覚えてる」


「よかった」


 そのまま、自然に椅子を引く。


 完全に定位置だ。


 周囲の視線がさらに強くなる。


 だが、そのとき。


「神代くん」


 もう一つの声が重なった。


 振り向かなくても分かる。


 九条麗華だ。


「本日も、ご一緒いただけますわよね?」


 逃げ場がない。


 完全に同時に来た。


 教室の空気が、ぴたりと止まる。


「……えっと」


 珍しく言葉に詰まる。


 ひよりと麗華。


 二人とも、こちらを見ている。


 視線の温度が違う。


 だが、どちらも引く気はない。


「悠真くん?」


 ひよりが、少しだけ首を傾げる。


「どうするの?」


 問いは軽い。


 だが、その意味は軽くない。


「神代くん」


 麗華も一歩前に出る。


「昨日の約束、忘れていませんわよね?」


「忘れてないけど……」


 どうする。


 どちらかを選べば、もう一方は確実に面倒になる。


 かといって、どちらも断るのも不自然だ。


 数秒の沈黙。


 そして。


「……三人で食べるってのはダメ?」


 悠真は、そう言った。


     ◇


 中庭。


 昨日と同じベンチ。


 だが、座っている人数が違う。


 三人。


 空気は、明らかに静かではない。


「……なるほど」


 麗華が小さく呟く。


「そういう選択をしますのね」


「いや、その方が丸く収まるかなって」


「丸く、ね」


 言葉の端が少しだけ尖る。


 一方で。


「別にいいよ」


 ひよりはあっさりと言った。


「悠真くんがそうしたいなら」


 その一言で、空気がわずかに変わる。


 麗華の視線がひよりに向く。


「……随分と余裕ですのね」


「そう見える?」


「ええ」


 ひよりは少しだけ考えてから、笑った。


「だって、一緒にいられるならそれでいいし」


 昨日と同じ言葉。


 だが、今日は意味が違う。


「……」


 麗華は何も言わない。


 ただ、その言葉を受け止める。


 そして。


「……そうですの」


 静かに返した。


 そのまま、弁当を開く。


 動きは優雅で、乱れがない。


「では、いただきましょうか」


「いただきます」


 悠真も弁当を開く。


 ひよりもそれに続く。


 三人での食事。


 だが。


 会話は、すぐには生まれなかった。


     ◇


「……神代くん」


 先に口を開いたのは、麗華だった。


「あなた、なぜその選択を?」


「どの選択?」


「三人で、という提案ですわ」


「二人にすると揉めそうだったから」


「正直ですわね」


「隠す理由もないし」


 その返答に、麗華は一瞬だけ言葉を失う。


 打算がない。


 本当に、それだけで動いている。


「……普通は、どちらかを選びますわ」


「そうなのか?」


「ええ」


 はっきりと頷く。


「そうすることで、関係が明確になる」


「別に明確にする必要なくない?」


 悠真は首を傾げる。


「そのままでいいと思うけど」


 その言葉に。


 ひよりが、少しだけ視線を落とした。


「……そのまま、ね」


 小さく呟く。


 麗華はそれを見逃さない。


「それができるのは、あなたが当事者でないからですわ」


「当事者じゃないって?」


「自覚がないという意味です」


 鋭い指摘。


 だが。


「そうかもしれないけど」


 悠真はあっさり認める。


「無理に変える必要もないだろ」


「……」


 また、言葉に詰まる。


 論理としては弱い。


 だが、不思議と否定しきれない。


     ◇


「ねえ、悠真くん」


 今度はひよりが口を開く。


「昨日の子、どうなったの?」


「普通に話せたって言ってた」


「そっか」


 少しだけ安心したように笑う。


「よかったね」


「うん」


 短いやり取り。


 だが、その内容に。


 麗華の視線がわずかに動く。


「……やはり」


 小さく呟く。


「何か問題でも?」


 悠真が聞く。


「問題というより、確認ですわ」


 麗華はゆっくりと視線を向ける。


「あなた、そうやって関わった相手のこと、覚えているんですのね」


「普通じゃないか?」


「いいえ」


 きっぱりと否定する。


「普通は、そこまで気に留めませんわ」


 その言葉に、悠真は少しだけ考える。


「そうか?」


「ええ」


 麗華は静かに頷く。


「だからこそ、厄介なのですわ」


     ◇


 そのとき。


 少し離れた場所で、数人の生徒がこちらを見ていた。


「見たか……」


「三人で食ってるぞ……」


「完全に囲ってるだろあれ……」


「いや、逆に囲われてるんじゃね?」


 声は小さい。


 だが、確実に広がる。


     ◇


「……面白いですわね」


 麗華がぽつりと呟く。


「何が?」


「この状況ですわ」


 視線をひよりに向ける。


「普通なら、成立しませんもの」


「そうかな?」


「ええ」


 はっきりと断言する。


「ですが」


 少しだけ口元が緩む。


「悪くありませんわ」


 その言葉に。


 ひよりは少しだけ驚いた顔をした。


「……そういうこと言うんだ」


「意外ですの?」


「うん、ちょっと」


 素直な感想だった。


 麗華は一瞬だけ黙り、それから小さく息を吐く。


「……自分でもそう思いますわ」


 その言葉に、空気が少しだけ緩む。


     ◇


 昼休みが終わる頃。


 三人はベンチから立ち上がった。


「では、また」


 麗華が言う。


「ええ」


「うん」


 短い会話。


 だが、その距離は確実に変わっていた。


     ◇


 教室に戻ると。


 空気が爆発していた。


「三人で食ってたってマジかよ……」


「意味分からん……」


「どういう関係なんだあれ……」


 もはや収拾がつかない。


 悠真は席に座り、机に突っ伏した。


「……もういいや」


 諦めた。


     ◇


 一方で。


 ひよりは、自分の席で小さく息を吐いた。


「……負けてない」


 誰に聞かせるでもない声。


 だが、その表情はどこか楽しそうだった。


     ◇


 九条麗華は、窓の外を見ながら静かに考えていた。


「……なるほど」


 新しい形が見え始めている。


 単純な競争ではない。


 だが。


「……面白いですわ」


 その一言には、確かな熱があった。

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