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俺はただ話を聞いているだけなのに、なぜか学園の女神たちが放っておいてくれない  作者: 玉響すばる


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第3話 逃げ場は、最初からなかった

 昼休み。


 神代悠真は、できるだけ目立たないように席で弁当を開こうとして――失敗した。


「悠真くん、ここで食べよ」


 ひよりが当たり前のように椅子を引いて隣に座る。


「もう少し距離ってものを――」


「今さらでしょ?」


 にこっと笑われる。


 完全に周囲の視線を理解した上でやっている顔だ。


 逃げ場がない。


「……好きにしてくれ」


「うん、そうする」


 軽い会話のはずなのに、周囲の空気は重い。


 明らかに“見られている”。しかも、ただの観察ではない。


 意味を付けられている。


 そのときだった。


「神代くん」


 教室の入口から、静かな声が響く。


 反射的に視線が集まる。


 そこに立っていたのは――篠宮凛。


 生徒会副会長。


 今日だけで二度目の呼び出しだ。


「……またですか」


「ええ、また」


 あっさりと肯定される。


 断る選択肢は最初から存在しないらしい。


「今度は何ですか」


「会長が呼んでる」


 それは一番面倒なやつだ。


 悠真は弁当を閉じる。


「……昼休み終わりますけど」


「終わる前に終わらせる」


「雑だな」


「時間は有効に使うべきでしょ」


 正論で押し切られると弱い。


 悠真は立ち上がる。


「ひより、先食べてて」


「うん。ちゃんと帰ってきてね」


「帰ってくるわ」


 そんなやり取りすら、周囲には違う意味で伝わっている気がした。


「……完全に囲い込まれてるだろ」


「終わったなあいつ」


「生徒会直通って何だよ……」


 聞こえている。


 だが、今さら否定しても無意味だ。


     ◇


 生徒会室。


 重厚な扉の前で、悠真は一度だけ深呼吸した。


「入って」


 篠宮に促され、扉を開ける。


 中は広く、整然としていた。書類、棚、机。その全てが無駄なく配置されている。


 そして、その中心に――


「来てくれてありがとう、神代くん」


 天城セレスティアがいた。


 柔らかく微笑むその姿は、昨日と同じはずなのに、場所が変わるだけで印象が違う。ここは彼女の“領域”だと、空気が告げている。


「呼ばれたので」


「素直ね」


「断れない雰囲気だったので」


「それも素直」


 楽しそうに笑う。


 からかわれているのか、評価されているのか分からない。


「単刀直入に言うわ」


 セレスティアは椅子に座ったまま、軽く指を組む。


「生徒会に入る気はある?」


「ありません」


 即答だった。


 自分でも驚くほど迷いがなかった。


 だが、その返答に動じる様子はない。


「理由を聞いてもいいかしら」


「面倒そうなので」


「正直ね」


 また笑う。


 だが今度は、少しだけ意味が違う気がした。


「じゃあ質問を変えるわ」


「はい」


「どうして面倒だと思うの?」


「責任が増えるからです。あと人と関わる量も」


「嫌い?」


「嫌いではないですけど、少ない方が楽です」


 沈黙が落ちる。


 セレスティアはじっと悠真を見つめていた。


 その視線は柔らかいのに、どこか逃がしてくれない。


「……やっぱり、面白いわね」


「何がですか」


「あなた、自分で自分を過小評価してる」


「普通だと思ってますけど」


「それが問題なのよ」


 小さく息を吐く。


「ねえ神代くん。あなた、自分がどれだけ人に影響を与えてるか、考えたことある?」


「ないです」


「でしょうね」


 篠宮が横から口を挟む。


「昨日と今日で、すでに学年内での認識が変わってる」


「そうなんですか」


「自覚なさすぎ」


 軽く呆れられる。


「少なくとも今、あなたは“無視できない存在”になってる」


「望んでないんですけど」


「知ってる」


 篠宮は淡々と答えた。


 その言葉の後。


 セレスティアが、ゆっくりと立ち上がる。


 距離が縮まる。


「だからこそ、よ」


「何がですか」


「放っておけないの」


 その言葉は、どこか静かで、しかし確信に満ちていた。


「あなたを野放しにしておくと、必ず何かが起きる」


「何もしてないですけど」


「“何もしてない”のが問題」


 意味が分からない。


 だが、二人とも本気だ。


「強制するつもりですか」


「いいえ」


 セレスティアは首を振る。


「でも、関わることはやめない」


「それってほぼ強制では」


「違うわ」


 微笑む。


「あなたが断っても、周りが勝手に巻き込むから」


 それは――否定できない。


 悠真は黙った。


「とりあえず今日はこれだけ」


 セレスティアは元の位置に戻る。


「でも覚えておいて」


「何をですか」


「あなたはもう、普通には戻れない」


 軽く言われたその一言が、妙に重かった。


     ◇


 教室に戻る途中。


 廊下の角で、悠真は足を止めた。


「……またアンタですの」


 そこにいたのは、九条麗華だった。


 腕を組み、完全に待ち構えていた顔だ。


「偶然ですか?」


「偶然でここにいると思います?」


「思わないです」


「結構」


 麗華は一歩近づく。


「生徒会に呼ばれたそうですわね」


「ええ、まあ」


「断った?」


「断りました」


 その瞬間、ほんのわずかに彼女の表情が変わった。


「……そう」


 予想外だったのかもしれない。


「意外ですわね」


「そうですか」


「ええ。てっきり、尻尾を振ってついていくタイプかと」


「どんな評価ですかそれ」


「周囲がそう見ているという話ですわ」


 つまり、自分の評価はすでに固まっている。


「まあいいですわ」


 麗華は視線を逸らす。


「少なくとも、簡単に流される人間ではないということは分かりました」


「ありがとうございます?」


「褒めてませんわ」


 即否定。


 だが、さっきまでの露骨な敵意は少しだけ薄れている。


「ただし」


 再びこちらを見る。


「中途半端な立ち位置にいる人間が一番危険ですわ」


「どういう意味ですか」


「どこにも属さないのに、どこにでも影響を与える」


 その言葉は、妙に的確だった。


「そういう人間は、いずれ誰かに引きずり込まれる」


「……誰にですか」


「決まってますわ」


 麗華は小さく笑う。


「一番強いところに」


 その答えは、考えるまでもない。


     ◇


 放課後。


「ねえ悠真くん」


 帰り支度をしていると、ひよりが声をかけてきた。


「今日、生徒会で何話したの?」


「入らないかって」


「で?」


「断った」


 ひよりは一瞬きょとんとしたあと、ふっと笑った。


「そっか」


「何その反応」


「悠真くんらしいなって」


 安心したような声だった。


「でもね」


「うん?」


「多分、終わらないよ」


「何が」


「それで終わるくらいなら、最初から呼ばれてないと思う」


 ……それは、確かにそうかもしれない。


     ◇


 その頃、生徒会室。


「断られたわ」


 セレスティアは楽しそうに言った。


「予想通りです」


 篠宮は冷静に答える。


「でも問題ない」


「ええ」


 二人の認識は一致していた。


「むしろ、これでいい」


 セレスティアは窓の外を見る。


「自分から来ないなら、周りから寄ってくる」


「すでにそうなってます」


「でしょう?」


 くすりと笑う。


「だから大丈夫」


 その声には、確信があった。


「逃げ場は、最初からないもの」

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