表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はただ話を聞いているだけなのに、なぜか学園の女神たちが放っておいてくれない  作者: 玉響すばる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/27

短編 神代沙夜は、壊れる前に線を引く

 ――また、増えてる。


 校門の外から中を見た瞬間、神代沙夜はそう思った。


 視線。


 空気。


 人の流れ。


 全部が、あいつの周りに寄っている。


「……相変わらずね」


 小さく吐き捨てる。


 自覚がないくせに、勝手に人を引き寄せる。


 厄介な性質だ。


 昔から変わらない。


 変わっていないのに――規模だけが大きくなっている。


     ◇


 初めて気づいたのは、まだ家に来て間もない頃だった。


 義理の弟になったばかりの少年は、やけに静かで、やけに周りを見ていた。


 空気を読む。


 先回りする。


 余計なことを言わない。


 それだけなら、ただの気の利く子供だ。


 でも。


 それだけじゃなかった。


 気づけば、家の中の空気があいつ中心に回り始めていた。


 父も。


 母も。


 知らないうちに、あいつに合わせている。


「……面倒な子、来たな」


 最初の感想は、それだった。


     ◇


 きっかけは些細なことだった。


 母が、少しだけ疲れていた日。


 何も言っていないのに、あいつは夕飯の準備を手伝った。


 特別なことじゃない。


 ただ、タイミングが正確すぎた。


 “必要なときに、必要なことをする”。


 それを、あいつは無意識でやる。


「……それ、続けるつもり?」


 聞いたことがある。


 あいつは、きょとんとした顔をした。


「何が?」


 そこで、分かった。


 ――自覚がない。


 だから、止めることもできない。


     ◇


「アンタさ」


 当時の自分は、わざときつく言った。


「それ、やりすぎるとどうなるか分かってる?」


「……?」


「依存されるのよ」


 あいつは、少しだけ考えてから答えた。


「別に、困らないけど」


 その返事で、確信した。


 ――こいつ、危ない。


 悪い意味じゃない。


 でも、壊れる側じゃなくて、壊す側だ。


 しかも、自覚なしで。


     ◇


 それからは、距離を取った。


 近づきすぎない。


 甘やかさない。


 評価もしない。


 代わりに、線を引く。


「それ、余計」


「そこまでやる必要ない」


「やりすぎ」


 全部、否定する言葉。


 でも。


 止めるためには、それしかなかった。


     ◇


 ある日。


 あいつが、少しだけ疲れた顔をしていた。


 珍しかった。


「どうしたの」


「別に」


 いつも通りの返事。


 でも、分かる。


 分かってしまう。


 ああ、これは。


 誰かの分まで背負った顔だ。


「……バカ」


 小さく吐き捨てる。


 本当は。


 “やめなさい”って言いたかった。


 でも、それを言ったら。


 あいつはやめる。


 やめてしまう。


 それは、それで違う。


「勝手にやって、勝手に疲れてるだけでしょ」


 だから、そう言った。


 突き放す形で。


 距離を保つ形で。


     ◇


 その夜。


 あいつは、少しだけ早く寝た。


 珍しく、何もせずに。


 その寝顔を見て。


「……本当に面倒」


 小さく呟いた。


 でも、手は伸ばさない。


 触れない。


 触れたら、多分――壊れるのは、あいつじゃない。


 周りだ。


     ◇


 今。


 校門の内側で、あいつはまた誰かと話している。


 笑っている。


 自然に。


 いつも通りに。


「……ほんと、変わらない」


 ため息をつく。


 そして、歩き出す。


 止めるつもりはない。


 止まらないのは分かっている。


 だから。


 せめて。


 壊れない範囲に収めるだけだ。


     ◇


「アンタさ」


 声をかける。


 振り向く顔は、やっぱり無防備だ。


「……また来たのかよ」


 第一声がそれ。


 失礼なやつ。


「来るって言ったでしょ」


「本当に来るとは思わなかった」


「アンタの想定なんて当てにならないわよ」


 軽く返してから。


 周囲を見る。


 ひとり。


 ふたり。


 ……多い。


「……増えてるわね」


「何が」


「自覚ないの?」


 呆れる。


 でも、それがこいつだ。


「まあいいわ」


 一歩、距離を詰める。


 でも、触れない。


 触れない距離で止まる。


「アンタ」


 少しだけ声を落とす。


「ちゃんと見なさいよ」


「何を」


「自分の周り」


 それだけ言って、顔を上げる。


 視線が合う。


 分かってない顔。


 やっぱり分かってない。


「……本当に、面倒」


 でも。


 それでいい。


 分かってしまったら、多分――


 今のままではいられない。


     ◇


 だから、線を引く。


 近づかない。


 甘やかさない。


 否定する。


 全部、計算。


 全部、意図的。


 全部――


「壊さないため」


 誰にも聞こえない声で呟いて、背を向けた。


 振り返らない。


 振り返れば、多分。


 少しだけ、手を伸ばしてしまうから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ