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俺はただ話を聞いているだけなのに、なぜか学園の女神たちが放っておいてくれない  作者: 玉響すばる


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第10話 最初に踏み込むのは

 翌日、昼休み。


 中庭のベンチには、すでに人が揃っていた。


 栗原ひより。


 九条麗華。


 篠宮凛。


 そして、天城セレスティア。


 神代悠真が遅れて現れる。


「遅いですわね」


 麗華が言う。


「すみません」


 反射的に謝る。


「気にしなくていいわ」


 セレスティアが柔らかく言う。


「時間通りだもの」


 その一言で、場の空気が少し緩む。


 だが、それだけだ。


 今日の空気は、昨日とは違う。


 静かで、張り詰めている。


「……なんか、いつもと違くない?」


 悠真が呟く。


「そう?」


 ひよりが首を傾げる。


 だが、その笑顔はどこか固い。


「少しだけ」


 篠宮が淡々と答える。


「変化が出始めてる」


「変化?」


「ええ」


 短く頷く。


 そして。


「関係が曖昧なままだと、持たない」


 はっきりと言った。


 その言葉に、誰もすぐには返さない。


     ◇


「……確かに」


 最初に口を開いたのは、麗華だった。


「このままでは、いずれ歪みますわね」


「歪む?」


 悠真が聞く。


「ええ」


 麗華はまっすぐ見る。


「距離が近いのに、定義がない」


 その言葉は、正確だった。


「それって必要なのか?」


「必要ですわ」


 即答。


「少なくとも、ここにいる人間は全員、そういう世界で生きていますもの」


 学園のヒエラルキー。


 関係の明確化。


 曖昧さは、許されない。


「……なるほどね」


 ひよりが小さく呟く。


「つまり、“どういう関係か決めろ”ってこと?」


「そういうことですわ」


 麗華は頷く。


     ◇


「神代くん」


 セレスティアが呼ぶ。


「はい」


「あなたはどう思う?」


「どうって……」


 考える。


 だが、答えはすぐに出る。


「別に、今のままでいいと思いますけど」


 正直な答えだった。


 だが。


「それは通らない」


 篠宮が即座に否定する。


「……なんで?」


「一番影響を受けてるのはあなた以外だから」


 淡々とした指摘。


「あなたが曖昧でも、周りはそうじゃない」


 言い返せない。


     ◇


「……なら」


 ひよりが、静かに口を開いた。


 今までより、少しだけ真剣な声。


「分かりやすくすればいいんだよね?」


 視線が集まる。


「どういう意味?」


 悠真が聞く。


 ひよりは、一瞬だけ目を閉じて、それから開いた。


「私ね」


 まっすぐ悠真を見る。


「悠真くんのこと、好きだよ」


 時間が、止まった。


     ◇


 誰も動かない。


 風の音だけが、静かに通り抜ける。


「……は?」


 悠真が、ようやく声を出す。


 理解が追いつかない。


「だから」


 ひよりは少しだけ笑う。


「好きってこと」


 繰り返す。


 逃げ道を残さない言い方。


     ◇


 九条麗華は、目を細めた。


 予想していなかったわけではない。


 だが。


「……なるほど」


 小さく呟く。


「そう来ますのね」


 納得と、わずかな悔しさ。


     ◇


 篠宮凛は、静かにその様子を見ていた。


 表情は変わらない。


 だが、視線だけがわずかに鋭くなる。


「……早い」


 小さく呟く。


     ◇


 天城セレスティアは。


 楽しそうに、笑っていた。


「いいわね」


 その一言に、全員の視線が集まる。


「一番分かりやすい形」


 拍手でもしそうな軽さだった。


「これで、“関係”が一つ定義された」


     ◇


「……いや、ちょっと待て」


 悠真がようやく口を開く。


「急すぎるだろ」


「そうかな?」


 ひよりは首を傾げる。


「昨日から考えてたよ?」


「そういう問題じゃなくて」


「じゃあ、どの問題?」


 問い返される。


 言葉に詰まる。


     ◇


「……返事は?」


 ひよりが、静かに聞く。


 逃げ場はない。


 全員が見ている。


 だが。


「……すぐには無理」


 悠真はそう答えた。


 正直な答えだった。


「考える時間が欲しい」


「……そっか」


 ひよりは小さく頷く。


 表情は崩れない。


 だが、ほんの少しだけ、目が揺れた。


「じゃあ、待つ」


 それだけ言う。


     ◇


「……なるほど」


 麗華が口を開く。


「そういう流れですのね」


 視線が悠真に向く。


「では」


 少しだけ笑う。


「こちらも遠慮する必要はありませんわね」


「……何を?」


 嫌な予感しかしない。


「決まってますわ」


 麗華は一歩前に出る。


「距離を詰めるだけです」


     ◇


「……面白くなってきた」


 篠宮が小さく呟く。


 完全に観察者の目だ。


     ◇


「やっぱり、こうなるのね」


 セレスティアは満足そうに頷く。


「未完成だったものが、動き出す」


 その言葉は、確信に満ちていた。


     ◇


 昼休みの終わり。


 空気は、完全に変わっていた。


 ただの関係ではない。


 明確な“線”が引かれた。


 そして。


 最初に踏み込んだのは――


 栗原ひよりだった。

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