帰還と理科
ゴシマ北の港町 カラハマ
「隊長!魔法兵隊の一部が壊滅致しました!そこから避難民の所へ敵が押し寄せて来ています!」
「第三歩兵隊を向かわせろ!一般市民の退避完了まで持ち堪えさせ、こちらの防衛戦も下げつつ応戦するんだ!」
「獣人軍の速さと追跡が凄く、振り切れない模様!」
「臭いを追って来るか‥。それでも食い止めるんだ!急げ!」
「東から報告!敵の一部が撤退と壊滅!避難民は無事逃げ切れた模様!おそらく帰って来られました!」
「クマポンからこんなに早く‥ シー様‥かたじけない‥‥。」
カラハマ東区
「何だコイツは!?一気に仲間が切り裂かれちまった‥!?」
風魔法で切り刻まれた仲間の屍を見て獣人兵は後ずさる。
「私が相手をしてあげますからそうなりたい者から前へ出なさい。」
ゴシマ特級魔法使い シー・ザ・カイ 帰還
「シー様!」
「シー姉様!」
「皆さん早く退避して下さいませ!ここは私が引き受けますわ!」
街の人は皆手分けして手伝い合いながらその場を離脱する。
「人間族風情が良い気になってんじゃねえ!」
獣人兵は斧を振り翳し同時に炎が巻き起こる。
「魔道具ですか‥一兵卒にまで持たせられるとは余程普及されているんですね。」
光と風の障壁で炎全てを相手に跳ね返す。
「ぐああぁぁぁぁ!!」
燃え上がる獣人兵を見て他の獣人兵は恐怖し、その場を退いた。野生の本能というやつだろうか、命の危機には敏感な様だ。
「ここは何とか出来た‥。ウチの主力の本拠地は‥。」
「シーさん!ご帰還なされたんですね!」
声の主はこの街の副護衛隊長 セレッソ。私と同じイブース出身の4つ上のお兄さん。幼馴染というやつだ。
「セレッソさん!何とか全速力で来たんですがこの様で申し訳ありません。」
「何をおっしゃいます!ご帰還頂けただけで千人力の安心感ですよ!」
「再会を嬉しがってもいられません。一度陣営まで案内を頼めますか?」
「はい!」
「シー様!こんなに早くのご帰還とご協力感謝致します!」
「隊長グランパスさんでしたわね。それでも2日掛かってしまいました。その間の悔いは闘いで相手に返すつもりです。戦況をお教え願えますか?」
「はっ!」
周囲の地図を広げ、状況を確認する。攻めて来た艦隊は11隻、ウチ一つはカラハマの北の山脈近くにある湾に接岸して敵兵が南下して住民を襲う部隊になっている。縦長で入江が数ヶ所あるこの街を北から蹂躙し、支配下に置いた入江に他の船を着けて行く作戦のようだ。周囲の山が邪魔をして避難民を逃し切れず、兵の護衛で南下させるのが精一杯の状況である。
「この街には魔法兵団の腕利きのエスパ・ルースさんが居たはずですが?」
「それが‥ランフォーもいないのに敵兵に近づくと魔法が使えなくなる状態にされるのです。何とか離れながら遠距離魔法で応戦しているのですが獣人兵の素早さにやられてしまっています。エスパ・ルース様は何とか隊の指揮を取られていましたが先程部隊は壊滅の報告を受けました。エスパ・ルース様の生死は不明です‥‥。」
「そうですか‥。」
危なかった。私が出会した部隊はたまたま魔法封じの何かしらの物を所持していなかった、または効果範囲を超えた位置だっただけのようだ。私が来た所で状況を覆すまで行けるか心に暗雲が立ち込める。だが母国を守る為にこの侵略に抵抗しなければ。
「侵略の目的は?領土取得ではないでしょう?」
「おそらく貴女様の姉君の身柄。戦で種としての優越感を兵に味わせながら『歌姫』の能力を欲したのかと。ソーアの戦に戦力を割く頃合いに合わせて仕掛けて来たと思われます。」
「テンボス王‥!」
唇を噛み、怒りを闘志に変える。 姉であるライフ・パーク・カイはここの山脈を越えた先の首都イブースにいる。テンボス王が王となった時、挨拶訪問の宴で姉が歌を披露した。私はその時に連れて行かれようとしたのを全力で止めた過去がある。人間族を見下し、遺跡を開くだなんだ御伽話の内容を並べて連れ去ろうとする男に大切な姉を渡せるわけがない。キサガナルの前王とゴシマの王がその場を収め、帰って行ったが今度は実力行使に出たという事か。前王も止め切れなかったという事だ。だがそれを今考えても被害は止められない。すぐこの怒りだけ抱えて前線に向かおう。
「私の魔法で艦隊の足を止めて敵の上陸を阻止しますのでその間に避難民をよろしくお願い致します!」
「シー様!どうかご無事で!魔法がダメなようならすぐにお下がりください!」
「心得ましたが何とかギリギリまでは粘って見せます!そちらも急いで!」
「はっ!」
私の到着で幾分士気は戻ったようだが何とか避難民を逃すまでは粘らないと‥。私は再び空を飛び、艦隊の方に向かう。
「帆船が8、車輪船が3‥。なら!」
空から艦隊の位置を把握し、帆船である事に狙いを定める。
「シー・レフ・ウィンダ‥‥シー・ライ・フリーゾ‥‥ガッチャ!!」
左手から風、右手から氷の魔法を生み出し2つを合成させる。
「はぁぁぁ!!」 ブンッッ!!
それをそのまま艦隊の真上にある雲に叩き込む。
「何だ‥?急に雲が暗く‥。」
ビュオォォォォ!!!!!!
「うわぁ!?急に嵐か!!?」
急遽竜巻が起こり帆船は舵を取られる!波が舞い上がり獣人達の体を濡らす。そこへ、
ズガァン!!ズガァン!!ズガァン!!ズガァン!!ズガァン!!ズガァン!!
「「ギャァァァッァァァ!!!!!」」
雷の追撃が容赦なく襲いかかり艦隊の兵を倒していく。
雷が発生するのは雲の中の氷の粒子がぶつかり合って起こるのが原因だ。シーは元々風魔法が得意で氷の魔法を掛け合わせ雲に送る事で、氷の摩擦と風魔法での竜巻を起こし、同時に空気の絶縁状態を無くし雷を発生させて敵に落ちるように仕向けたのだ。濡れているから威力は倍増。魔法が効かぬかも知れないならと頭を使って自然を利用した良い戦法だ。
「天気も勉強しておいて良かった。」
胸を撫で下ろして残る帆船は4隻。その4隻は魔法の障壁で今の雷は防いだ。つまりそこ以外に魔封じのアイテムがあるという事。
「さあここからが肉弾戦ですよ。」




