2人の王とおあずけ
「行きおったか。今日一日会っただけですぐに別れとは何とも寂しいものだな。」
月に照らされたドラゴンの影を見送りながらグラスの酒を回すナーカス王。
「ほう。ナーカスにその様な感情があったとは思わんかったのじゃ。」
テーブルを挟んでサウラもグラスに水を入れる。
「我も人間だ。興味深いものが遠ざかれば寂しくもなる。それ程今日は楽しめた。戦並みにな。」
「カナリの力量と気概、それに至るまでの経緯を知れば誰でもそうなる。妾が認めた男だぞ?」
「そうであったな!我を受け入れるか迷っておった頃のサウラがこれ程の人間を従えて我の前にやって来る日が来ようとは思わなんだ! では‥‥奴らの武運を祈って‥。」
「フッ‥。」
乾杯。
何度か戦を行った国の王2人が盃を交わす事などこんな事でも無ければ訪れなかったかも知れない。そのまま互いのグラスを空け、ナーカス王は話を切り出す。
「さて、サウラよ。」
「何じゃ?」
「お主はカナリを夫としようとしておるのか?」
「ああそうじゃ。」
「おお即答しおる。会ってまだ数日でそこまでとは。」
「恋はいつでも嵐の様なもの。その風がこの年になってようやく吹いたというだけの事じゃよ。」
「それは喜ばしい事だ。」
「おや?妾を妻にしようとしていた男が他の男に取られて喜ばしく思うのか?」
「これ程の美人を取られて悔しいと思わぬ男はそうはいまいが、納得の行く男であったのなら潔く引けるのも男の器よ。それにお主を娶ろうとしたのはあの頃のお主が危うかったからだ。」
ナーカス王は従者に代わりを注がせ、振り返る。
「王になりたての頃のサウラはそこまででかなり疲弊している様に見えた。王になってからが本番だというのにあれではすぐに国を危ぶむ事になると直感したのだ。国を考える者としては娶れば消耗せずに国土を広げる事が叶う。個人としては同時にサウラを守る事も出来ると考えていた。」
「国王と個人両方の目的を同時に全うしようとしたわけじゃな。」
「そうだ。しかしお主の母国を愛する心が勝ち、我との婚姻は破談にされた。個人としてはその道を進むかと納得していたが、周りの大臣や将軍は面子を潰されたと怒り心頭でな。その溜飲を下げさせる為、戦でその領土を攻め立てるに至った。クオカーフとガサの戦は大小6回あったが我は一度も参加していない。」
「王自ら打って出るのがナーカスの信条じゃとは思っておったが‥国王と個人の目的の両立はあの時は成就せなんだ。という事か。」
「ああ。断られたとはいえ娶ろうとした女に刃を向けるなど子供の八つ当たりと変わらん。男の恥よ。」
「その様な気概があの頃に見えておればのう。一考の余地はあったかも知れぬな。」
それは惜しい事をしたなと再びお代わりを注がせる。
「まあその戦はこちらの全敗。新参の召喚士にしてやられたとあった。カナリの従者の1人がその頃の報告にあった『双翼の竜姫』なのだろう?彼奴の部隊には散々苦しめられたと毎回泣き付かれ兵站補充を強いられたわ。」
「メキか。ここにいるホタともう1人モニーというのがウチの国におる。村を襲われ生き別れた自分の姉を探す為にガサに入隊したらしいの。初陣の戦果は上々ですぐに軍隊長に上げた。今回カナリが労働力に引き取った208名の中にもやり合った者がおるようじゃ。」
「シャーネ辺りか。6回中後半4回の敗戦で彼奴を降格させた。再戦の機会を狙い、今回の大臣の企てに加わったのだろう。純粋に強い者を求め勝負を好む心根の男だからな。仕方のない奴だ。」
「其奴らはこちらで大いに働いて貰う事とするのじゃ。人手は幾らあっても良い状況だからの。」
「好きに使え。ただ今の話で気がかりなのは双翼の竜姫の村が襲われたという所だ。その強さを知るに、俄かには信じがたい。」
サウラは後ろを振り返り、当事者の1人に問う。
「すまないがホタ。話せるか?」
「はい。襲われたのは事実です。竜人族の長の血筋の3人は召喚士を先代から引き継ぐ為に修行に入る所でした。双翼の竜姫ことド・メキ。その姉サン・ノウはド・メキの力を見定め、族長の後継者をド・メキに譲る事を決め、召喚獣の引き継ぎの儀式を村で行なってから、霊峰の修行場で我等2人と合流する手筈でした。そこにヒュウガという奴隷商人の一団がやってきて村を襲い、人々は散り散りに、我等2人が修行場から駆けつけた時にはド・メキと数人の一族が助け出された所でした。ド・メキ曰く召喚獣は出せなくなり、皆力が奪われたかの様にされ、捕まったとの事。強力な魔法具か何かで力を抑えられたと考えていますが原因は分かっていません。それを人間族が持ち合わせていた理由も含めて。その後サン・ノウはガサに売られた事を突き止めました。メキ、モニー、私ホタの3人でガサ国に入り、その後の情報収集の為に入隊。先程の戦に参戦しながら一族の行方を追っていました。残念ながらヒラドの郊外でサン・ノウの遺体が発見され、メキは半狂乱。クオカーフとの3戦目に当たる北のエマツでの戦において1人で500人隊を壊滅させ勝利に導くとそのままの足で反対のキサガナル国境沿いのバルの戦に向かい、二個中隊を撃破しそちらも勝利に導きました。あの時のメキ姉さんの姿は筆舌に尽くし難く、何とかモニーと2人でメキを宥め、他の一族を探しながら今度は仇を討つ為の情報収集に動きました。今回初の侵略戦の中で、囚人となっていたヒュウガの身柄を確保する事を承認して頂き、収監されているソーアに攻める隊をメキと私の軍が務める事となったのです。カナリ様との邂逅でその仇討ちも成り、そのままソーアでの顛末に繋がります。」
張本人の1人の長い語りが終わる。
「気持ちの籠った語りだったな。」
「長々と失礼致しました。」
「良い。それ程吐き出したくなる内容だ。気にしてはおらん。おらんがその魔法が使えなくなるばかりか召喚獣も呼び出せぬ状態になったというのは気がかりだ。それを人間族の高々奴隷商人風情が所有していたとなれば裏で糸を引いた者がおろうな。」
「そう考えるのが自然じゃろうの。」
「そこでだが、ウチの件の大臣の余罪を調べる内に、それに関係があるかも知れない内容があったぞ。」
「!?その内容とは?」
思わず食い入るホタ。サウラが制する。
「ランフォーの鳴き声の研究だ。それを再現し、魔道具化しようと試みていた。 研究資料では声の正体が魔法器官に作用する波長なのか、魔法封じの魔法の類なのか結論は出ていなかった。ただ鳴き声を魔道具化する事には成功していたのだ。6年前に計画は途絶えていたが誰かが持ち出し、どこかで完成させ、実験に使われたのではないかと今の話を聞いて思った。推測の域を出ぬがな。」
「それを完成させた者が我々の仇である可能性があるのですね。情報感謝致します。」
「憶測に過ぎぬ故、礼には及ばん。我が国の研究が関わっている可能性がある以上、当事者には話すべきと判断したまでだ。先程の対戦でカナリの手甲の魔道具の作り手に興味が芽生えた時であったのでもしやと思ってな。何も手掛かりが無いよりはマシだろう?」
「その情報を今後の活動に反映させて頂きます。重ねて感謝致します。」
ホタは深々と首を垂れる。
「たまにはお主も役に立つのうナーカス。」
「水しか飲んでおらぬのに酔っ払ったかサウラ?見直したのなら今からでも閨での闘いに移っても良いぞ?」
「お主は本当に酔うておるな。御免被るに決まっておるわ。」
「ハハハハハ。それ程カナリが好きか。結納はいつだ?祝いの品を用意するぞ?w」
「‥‥カナリがこのワルセーンの国全てと友好を結べてから解禁だそうじゃ。」
「おあずけを食らっておる訳か!ハハハハハw奴も罪な男だな!」
酔いが回ったのか今日はとことん楽しかったからなのかナーカス王は大きな声で笑う。
「ホントじゃよ‥‥。」
サウラはナーカスの酒を奪い、グラスを一気に飲み干した。




