ツバサと待機
サウラが移動途中の会食で話してくれた。今回は一国の王が来訪という事でそれなりの対応という事になっただけで人間族への軽蔑具合はガサとは比べものにならないとの事だ。本来なら迎賓館を使わせる事も入国すらも憚られる。そういう国のお膝元に俺たちはやって来たわけだ。それが如実に現れているのが彼女、ツバサの今の姿だろう。チャルと俺と3人だけ部屋に通して貰って即話を聞かせて貰った。
「失礼を承知で聞くけど君は元は戦士じゃないのかい?」
その質問に彼女の顔と身体が一瞬強張る。どうやら当たりらしい。
「合っているみたいだね。立ち姿と前腕部の筋肉の状態、剣だこが一瞬見えたからそうじゃないかと思って。オタイオかミヤーザのどちらかの戦で敗戦し、ここに連れて来られた。違うかい?」
彼女は黙っている。それをここで話せばどうなるか、それが恐ろしいのだろうか?質問の仕方を変えてみよう。
「声を出さなくて良い。頷くか首振りで答えてくれるかい?」
彼女は頷く。やはり誰かに聞かれている可能性があるのだろう。イデアで紙とペンを生み出して筆談で行く。
「君はオタイオ出身かな?」
フルフル
「ミヤーザ?」
コクン
「ミヤーザの兵とオタイオの兵が共同でこの国と戦った時に捕まった?」
フルフル
「もっと前?奴隷制度が残っていた頃とか?」
コクン
「首筋の後ろのそれは折檻の痕かな?」
コクン
「最初は奴隷として連れて来られた?」
コクン
「帰りたい?」
そう聞くとツバサは大粒の涙を流して頷いた。 そりゃそうだよな。
「チャル、事が済んだ後この子も連れて帰るぞ。人間族の国に戻そう。」
「交渉に響かないっすか?」
「俺の提案する物がハマれば人間族軽蔑視の国から連れ出すぐらいは出来るだろうさ。ツバサさんはそれに賭ける覚悟はあるかい?」
コクンと即答した。
「分かった。チャル。背中の傷は治せるかい?」
「古い物が多くて完全には消せないっすね。もしかしてこの人も従者にするっすか?」
「気に入ったから連れて行くと言えば早いかなとは思うけどね。交渉の流れの中に組み込むようにするから引き取り方はその時の相手の出方次第。」
そこで紙とペンを持ってツバサは書き始める。
「帰る算段は嬉しいのですが私は何も返せる物がありません‥。」
あーそこは気になっちゃうのね。
「別に捕虜の救出も自衛隊の仕事の内〜みたいな感覚だったけどね。気になるならその身体でも貸してくれれば良いよ。」
「‥‥男の人っていつもそうですね。」
ツバサは腕を組んで胸を隠しながら急に筆談から地声に変わる。ありゃ?
「ご主人、言葉が足らないっす。」
「あー事業に手を貸してくれって言うべきだったね。ミヤーザ出身ならベルレ・ガルア以外の街への案内やその中継ぎを頼みたい。旅の同行をお願いするにしても戦士ならありがたい。どちらでも好きな方を選んでくれればいいよ。」
「ああそういう事ですか。これだけ女性を引き連れてまだ欲しがるのかと、この国の王の様な事をこの方もなさるのかと思ってしまいました。」
「まあ性的な行為はこちらから仕掛けた事無いけどね。」
「あれだけの美人達を側に置いておいて? それはそれで男としての気概や能力を疑うというか心配になってしまいますが‥。」
どうすりゃ良いんだ?
「ツバサさん。ご主人は余計な厄種を作らない為に自制してるだけっすから。周りは色々仕掛けて来るっすけど、能力が無い訳じゃないっす。」
「ああそうなんですね。ご立派な考えと正義感ですね。あちらも立派だと助かり(?)ます。」
何だろう?これは冷静な顔しておちょくられているのかな?
「皆さんのお世話をしながら『あちら』の世話も、と上から命が下っておりましたので‥‥。」
「以前からそういうのも拒否権が無くやってきたって事?」
「いえ、人間族の来賓があった時にはそうせよというだけです。この国にそんな来訪があるのは今回が初めてですので『いよいよか‥‥』と身構えていただけです。」
その割にはちょっと嬉しそうですが。
「チャルがさっき言った通り、そういう事は厄種になりうるので行なう必要はありません。貴女の解放は手を尽くしますが滞在中の世話だけまずお願いします。」
「(しゅん‥) 承知しました。」
この世界は盛る女性が多い気がする。娯楽がないとそっちに走る傾向の話は理解しているが普通男性側じゃないのか?‥‥ここは異世界か‥。
イセ達と合流し、会食と入浴を済ませ、明日の謁見に備えて早めに休む事にする。会食中も使用人達から終始差別目線や溜め息などで気が滅入る事になったからだ。
「夜は私達が警護を務めます。安心してお休みください。」
ホタ君のその言葉に甘えて部屋の中に入るとツバサさんが待っていた。
「お待ちしておりました。」
いやバスタオル一枚で隠しただけの姿で待たれてもね。
「先程も話したと思うけど一応理由を聞こうか?」
「ずっとこういう時が来ると覚悟を決めて過ごし、いつしかその内容を1人で妄想する様になりました。その思いが強く、今回解放の機会を得たと思い、身を清めて参った次第です。」
「つまり妄想しすぎちゃった!テヘッwもう我慢できなーい!って事で?」
ケ◯ッグのデカいゴリラの声真似で聞き直す。
「はい。」
「却下。」
「キャッ!?」
その身体を腰から掴み部屋の外のホタ君に引き渡す。ホタ君はギョッとしてツバサの身柄を預かると
「えっ?!これはどういう??」
「美人局みたいなもんだね。この盛りのついた娘を朝まで別室で待機させて置いて。」
「はっはい‥!」
部屋の前で待機してたホタ君とチャルとで協力してツバサを他の使用人に見つからぬ様に隠して貰う。
これでようやく就寝出来そうだ。




