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現実世界でチートだった男が異世界に行ってもほぼチートだった件  作者: 松本隼龍


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牢屋と腕利き

軍隊詰め所の隣にはこの国の牢屋がある。刑務所とは別のようなので日本で言う留置所だ。そこに今回の襲撃事件の犯人とクオカーフ兵が入っているという事で話を伺いに来た。少しでも明日向かうクオカーフの事が知りたかった。


「御使様。こちらが今回御使様に矢を放った本人となります。」

まず案内してもらったのは下手人の弓使いの所。犯人はなんと女性だった。

「こんにちは。」

女は無言で目を逸らす。

「おい!」

牢番は声を上げるが俺はそれを制する。

「いやぁ良い腕だったよ。直前の直前まで殺気を抑えて正確に射抜く。狙撃手の鑑みたいな腕前だった。神経毒も即効性があって凄かった。危うく死にかけたよ。その腕はどこで磨いたんだい?」

女は答えない。イセが苛立ちに軽く眉を吊り上げる。

「いやね?俺も昔狙撃手もやった事があるんだ。単純な興味。今でも自分の武器でなら400メータ先の心臓を外さない自信がある。でも弓はそこそこでね。この世界でやっていく為にもちょこっと教えてくれないかな?可愛くて綺麗なのに何でこんな能力を身につける事になったのか聞かせてくれないかな?」

「バッ!?私が可愛いわ

「やっと声を聞かせてくれたね。話す気になってくれたようだから名前を聞かせて貰えるかな?」

声を発した瞬間に被せて捩じ込む。相手が変化球に手を出した瞬間にすぐに直球を投げれば誰でも打てない。ああくそ!っと女はその場で地団駄を踏む。重ねて名前を問う。


「名前はポーゼ‥‥クオカーフで狩りを生業にしてた一族だ。」

「してた?って事は今は‥。」

「狩りでは食って行けなくなって、弓の腕を買われて皆散って行った。護衛や傭兵、私みたいな暗殺みたいな事もやってる。」

「で、今回パラサさんに雇われてこちらに来たと?」

「いや、私の雇用主は大臣の方だ。今回の任務でガサ国が手に入ればその内の狩り場を一族に提供するって契約だった。 でもこの様じゃもう‥。」

「だね。 まあその目的に嘘は無さそうだ。冷静に自分の状況を見られるのは狙撃手の必須事項だしね。一族の為になるのならと言ったね?狩場であれば何処でも構わないかい?」

ポーゼはキョトンとしてこちらにつぶらな瞳を向けてくる。

「えっ‥そりゃあ、獲物があるなら‥。」

その言葉に俺はニヤリと笑って返す。

「今後、2つの場所をどうしても魔獣達から守らなきゃいけない所があるんだ。1つはミヤーザのベルレ・ガルア周辺。ポガポガやランフォーが出没して作物のサーツやペッポの実が危険に晒されている。ギルドと協力して魔獣の買取と食肉加工に打ち出した所なんだ。補助金も付けてるから食いっぱぐれは無いと思う。」

つぶらな瞳は少し輝きと驚きを見せる。

「2つ目はクマポンのソーアからここガサまでの道だ。あちらからブルガンジーを買い取って大移動させなきゃならない。道中その周りに出るであろう魔獣を狩って欲しいんだ。何千頭単位を期間を分けて移動になるから結構な収入になると思うよ。どうかな?」

「カナリ様!?この者とその一族を雇用しようと言うのですか!?」

「そうだよ。」


そう、直接ヘッドハンティングに来たのだ。先に述べた内容には必須事項であるし、腕も身をもって体験している。優秀な人材はあって困る事じゃ無い。でもイセは納得行かない様子。


「この者は‥‥!他ならぬカナリ様を殺そうとしたのですよ!?そんな者を信用出来るとは思えません!」

「大臣の命令だったんだろう?」

「この者の方便かも知れませんわ!」

「この状況でこれだけ囲まれて嘘言ってもしょうがないでしょうに。ね?」

ポーゼは全力で頷く。

「それに俺を殺そうとした負い目は俺の言葉を『お願い』じゃなくて『命令』として聞いて貰えるのには充分だろう。任を違えたらどうなるか‥分かるね?」

再び全力で頷くポーゼ。必死過ぎる。

「彼女だけでなく一族もってなると管理が大変じゃないか?」

「ベルレ・ガルアはガルツ神官とトウさん。ソーアの事はパープル神官に協力を仰ぐよ。そして今の事を一族に伝えて貰う為に今回のクオカーフに向かう護衛に彼女を起用する。それで腕を確かめさせて貰うし、その手腕を周知して貰おう。ポーゼさんはどうかな?」

「それで構いません!よろしくお願いします!」

「良し。では今後は俺の指揮下に入って貰うぞポーゼ。チャル、メキの両名は監視とポーゼとの打ち合わせを頼む。」

「了解っす。」

「了解だぜ主。」


イセは納得していない様子で食い下がる。

「刺客に早変わりするかも知れない者を同行させるのには反対ですわ!」

「まあ今早変わりさせたって事で。クオカーフが何か仕掛けてくるならあっちにとっての刺客になったのさ。今この時からね。」

そう言ってポーゼを牢から出して自由の身にする。そのままポーゼは跪き、俺に忠誠を誓う。

「たった今より私ポーゼ・カダはカナリ様に忠誠を誓います!私のみならず一族の食い扶持の保証まで配慮頂き感謝の念に絶えません!どうかこの身を自由にお使い下さい!」

「うん。先に言っておくが君の動きに一族の首が掛かっている事を忘れない様に。粗相あれば全員射殺する。」


今まで人に向けて殺意ある言葉を吐いて来なかった男が、ここに来て明確に相手にその言葉を放った。その事に一同の心に緊張が走る。

「命令とはいえ俺を殺そうとしたんだ。腕は買いたいがそれぐらいの覚悟を持ってもらわないとこちらの身内も納得しない。イセ様の様子を見ても分かって貰えると思う。」

「承知致しました。その時には容赦無くこの首、落とし下さい。」

「イセ様もこれで良いですかね?」

「‥‥納得はいっていませんわ。ですがカナリ様のご意向ですし、その腕を見極める事にします。お父様への協力要請はそれをもって判断致します。」

「感謝致します。ポーゼも一族の今後の為にもその腕を存分に発揮してくれ。」

「はい!」



ぐうぅぅぅぅ〜〜


大きな声で返事をした瞬間。ポーゼのお腹が鳴る音が響く。


みるみる赤面して行くポーゼを見て、イセも思わず吹き出した。それに釣られて皆クスクス笑い出す。場所が牢屋という事で控えめに努めて。


「ハハッw とりあえず仮釈放的な形になるけど、ご飯の心配はしなくて良いよ。どれほど食べるのかにもよるけど。」

「おっ‥お世話になります。」


こうしてメキの時の様に用心棒と猟友会的な面々を一族ごと貰い受ける事に成功した。怪我の功名は動いてこそ功名になるという例だ。  食い扶持増えたなぁ。

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