イセの条件と高笑い
カナリ様はホイホイと人を受け入れ過ぎですわ!」
お嬢様はプンプン怒っている。
「まぁ今回は能力重視と怪我負わされた恨み晴らすのなら手元に置いておきたいっていうのが本音なんですよ。今回のブルガンジーの輸送にはどうしても道のり近辺の魔獣が悩み種ですし、ベルレ・ガルアの周りも冒険者が寄っていない時期などのギルドだけでは回らない時期もあります。全て俺が処理をやる暇もありませんので即応出来る人員確保は実は急務なんです。それを俺が怪我を負わされ死にかけた事で確保出来る様になるとなればやるべきでしょう。」
「もっとご自身の身の安全を考えて下さいと言っているのです!2日前に死にかけたんですよ!もっと警戒心を持って接して下さい!」
「負の出来事を受けたのならそこから正の出来事に繋ぐのが一流ってもんですよ。出来るだけ迅速にね。」
これは大阪の社長連中の下で教え込まれた事の1つ。『マイナスをプラスに変える事が出来る奴が一流』という教えに基づいた行動だ。プラスを見つけるのは難しい。マイナスは沢山ある。じゃあマイナスをプラスに持って行ければプラスばっかりになるだろって話。プラスにする前に悩んで止まるなんて暇人だな。キショっ!とまで言われたもんだった。
「その過程で死んでしまったらどうするんですの!元も子もありませんわ!」
「ご心配をおかけいたします。国を相手取るというのはこういう事という所でご理解下さい。今回人手を増やしたのも従者の2人に夜の護衛の負担を減らしたい思いもあります。1日ごとに徹夜では何処かで体調を崩してしまう。」
従者2人の負担は大きい。特にチャルには生活面や面子の取りまとめと色々と世話になりっぱなしだ。せめて3交代制ぐらいにはもって行きたいとは思っていた。イセもこれ以上の問答は無意味と思ったのか呼吸を落ち着け始める。
「ぐう これほど心配してもカナリ様の考えの方に及びませんか。何度も言いますがお命の心配をなさって下さい!さもないと‥!」
ズイっとイセは歩み寄る。
「約定を解き、期間を待たずしてカナリ様との既成事実を作らせていただきますわ!」
えーー!?っと皆がその宣言に驚く。事情を知らぬポーゼだけはポカン?としている。
「カナリ様の子はどうしても欲しいですもの!今後もし命を落とす様な行動に向かわれたり、降りかかる可能性が高い現場に行くようなら先にそうさせて貰います!」
「えーとそれはつまり‥?」
「お父様とおじ様へ要望を通す ジョ・ウ・ケ・ン! ですわ♪」
うわー強行手段に出たよこの子。
「そんなに俺の子を欲しいと言って貰えて嬉しい限りですが‥‥これからも色々と危険は伴います。まずはクオカーフでの交渉に目を向けて、2つの街にはその後話をさせて頂きます。その時にその条件の話もさせていただきますね。」
「それで今は良しと致しますわ。」
言いたい事が言えてご満悦のお嬢様。チャルがそっと耳打ちしてくる。
「良いんすか?あんな条件呑んで。」
「話をすると言っただけで呑むとは言ってないよ。事実急務だからイセの交換条件関係なく受け入れて貰えるだろうし。あの身内2人が私情で公務を行うとは思えないしね。」
「あーまあそうっすけど。この条件で行くと危険になったら即行為なんで気をつけて下さい?っす。」
「いよいよ女性ばっかり増えてきたから気が気でないんだろうね。焦りが見える。」
「分かってるなら何かして欲しいっすけど‥正直2人で護衛を回すのはしんどいっていうのはあったっすからありがたいっす。ポーゼは私達で指導するっすからご主人は明日以降の段取りをしてくださいっす。」
「ありがとうチャル。」
そう言って頭を撫でる。にゃーと鳴きながら気持ち良さそうにすりすり。メキが羨ましそうにこちらを見ている。
「‥・(皆さんあの方が大好きなんですね。)」
ポーゼは確認し、皆の後を歩く。
「さてここか。」
次の牢屋。何組かに分かれて今回の事件に関与した208名のクオカーフ兵が入っている。その中で一際大きく、1人で牢の1つを独占している男に声を掛けた。
「君がこの隊の長かな?」
「‥‥そうだが‥アンタが『双翼の竜姫』の主か?」
双翼の竜姫? メキの事か?
「メキの事を言っているならその通り。主の加成剛志という者だ。」
「さっきから既成事実だ何だとやけに色気な話をしていたし、その女性の囲み様、少しはあやかりたい所だ。俺の名前はシャーネ・ルメールス・ビートという。カナリ。」
「「何呼び捨てにしてんだコラ?」」
牢の格子にめっちゃ顔近づけてチャルとメキがシャーネにメンチを切る。フンっとこちらから目を逸らすシャーネ。
「良いよ。ではシャーネ君。世間話や話して貰えそうなクオカーフの情報は何かないかな?予想としては色々と思いつくんだが確証にしておきたいんだ。情報によっては処分の軽減に働きかけよう。」
処分の軽減という言葉にピクリと反応してこちらに向き直る。
「そんな事がアンタに出来んのか?」
「一応この世界の神に遣わされた御使なんでね。行く途中亡命させるくらいは可能。だが今回は連れて行くと言ってしまっている為、働きかけという形になるね。今の状況的には敵国という間柄だがあちらからは大臣の処分を言ってきているから友好的に話し合い、俺を見定める気概なんだろう。引き渡しして「ハイさよなら」となる事にはしないつもりだ。こうしてポーゼも俺の側に付けてるし、信用して貰えないかな?」
「‥‥‥」
シャーネは黙って考え込む。
「このまま行けば処刑だと思うけど部下を死なせたいかい?それとも軍人として敵に情報を与えずに死ぬ道を選ぶかい?俺も元はそれ系の出身だから理解はある。どれでも好きなのを選んでくれ。」
「あんた‥‥強ぇのか?」
目を合わせてようやく口から出たのはそれだった。
「君が負けたメキに勝つぐらいには。」
「フフッそうか。分かりました。話しましょう。」
何か納得してくれた様で口調も丁寧なものに変わった。情報を引き出せそうだ。
命が救われるかもと安心したからなのか、強さを確認できたからなのか、シャーネの顔は終始穏やかで話をしてくれた。
国王はとにかく強さに固執している事、それ故によく人を試したがる事、海洋国家に近く山が少ない為に肉を食べるより魚、農地や居住の為の土地欲しさに隣接するオタイオやガサに侵攻していた事、ズイは育たず流通していない事、オタイオから奪った土地で生産されていた作物が美味かった事、武器も面白かった事、女性の方が多くオタイオから連れて来た強者は兵として起用している例もある事、城の周りとその地形と天候状況の事。
「いやあ色々ありがとう。めちゃくちゃ対策や提案が出来そうだ。明日には故郷へ出立するからそのつもりで。」
「明日?今の情報を元に国で会議してからとかではないのか?」
「どうせ交渉するのはあっちの世界の知識を持ち、現状と結びつけられる俺だからね。俺が情報を持ってまとめてこの国の頂点とあちらの頂点で会議が出来れば何かと早く事が済む。それを有利に進める為に元から考えていた提案に上乗せ出来る交渉材料が欲しかったのさ。こういう武器は幾らあっても良いからね。」
「はぁ‥あんたがこれでド・メキにも勝ったのなら戦闘力、知力、交渉力どれをとっても強すぎる。確かに子供を欲しがる女性が出てもおかしくないか。」
シャーネはイセや他の女性メンバーを見渡し、何か踏ん切りがついたように呟く。
「この面子の誰との子を作るのかは知らないが、生きてその子の顔を見てみたくなった。どうかこの命、託させてくれ。」
「任されよう。最大限の努力をする。」
最後にシャーネはメキに目をやる。
「良い主を持ったな、ド・メキ。」
「ああ。最高さ。」
益々あやかりたいぜwとシャーネの高笑いが牢屋に響き渡った。




