荒療治と最後の隊長命令
「隊長の‥‥気持ち‥‥?」
そうこれが2つ目の分かっていない事。
「メキはあの時、俺の参戦によってランフォーを使った作戦が無に帰して、敗色濃厚になった所で個人で攻め入り、勝率を上げつつ自分の隊の損害を減らす選択を常にしていたんだ。ランフォーがやられた経緯が分からない。それが次は部下に向けられる可能性が高い。ならば自分にそれが向くように敵の新たな戦力の魔法使いの所を押さえられれば、その犯人はそっちに駆けつける筈。そう踏んだんだ。」
ソーア戦でのメキの行動を振り返ると、元自衛隊として感嘆する所が多かった。
「実際俺は君たちを一人一人撃てたからな。こんな風に。」
イデアで89式小銃を生み出し、銃口を彼の目の前に向ける。ヒッ!?と向けられた銃独特の恐怖に怯えた声を上げる。
「俺はあの時、屋根の陰からこの武器で君達を狙おうとしていた。だがイセ様の魔法が途切れた事で、自陣に異変があったと察して向かって行った。丁度ハルエさんが吹っ飛ばされていたタイミングで到着してメキがイセに向き直るタイミングでそれを止めたんだ。」
俺はメキの思惑にまんまとハマっていた訳だ。
「メキはあの時最初からランフォーを撃ち落とした勢力を炙り出す気で動いてた。最初からノクトちゃんを使えばハルエさんと戦う必要が無かったからね。ハルエさんと戦っていた事自体が俺にそれを悟らせたんだよ。」
男は大人しく黙って聞いている。
「そして最後には一騎打ちの宣言をして他の戦いを止めて俺に挑んだ。勝機も残し、部隊の損耗を止める。『隊員を守り、戦の責任を全て1人で負う』覚悟を俺に示したんだ。」
「後は私に任せろ。」
あの高々と上げた切先はそう言っている様に俺には見えた。
「これ程隊員を愛している部隊長は俺が見た限り、以前所属していた自衛隊でも2人だけだ。その覚悟をしっかりと受け止める為、そしてこの素晴らしい部隊長を何とか生かしたい為に一騎打ちに応じた。この武器を使わず、敢えて同じ土俵の二刀流で戦う事でそれを示せればと思ったんだ。」
89式小銃をしまい、男を立たせる。そして肩を掴んでこう諭す。
「確かにメキが負けた事により、君達は落ち目になっているのは事実。それを分かっているから今メキは君の特攻を怒りごと受け止める気で微動だにしなかった。今でも自責の念に駆られているが君達隊員への愛情は変わっていない証拠だ。そうだろメキ?」
「‥‥ああ。隊長の任に就いた時から今までその気持ちに影がさした事はないよ。」
「隊長‥‥。」
男は獲物を落とし、膝から崩れ落ちる。俺は掴んでいた手で支えながら男を座らせ、話を続ける。
「君は生きている。メキに生かされたんだ。どうかその命を有意義に使ってくれ。それでもまだ踏ん切りがつかずに暴れたいのなら、メキの主としていつでも全力で相手になる。他にも君と同じ様な隊員もいるだろう。全員でかかってこい。」
「カッコ良すぎんだろ‥‥隊長もあんたも‥‥。」
涙を流しながら男は俯く。メキが出てきて俺の肩に手を置く。
「主。あとはアタイが‥。」
分かった。と交代する。 メキは男の前に跪き目を合わせる。負傷している左目に手を添え、優しい声で言う。
「すまないワッツ。私が負けたばっかりに辛い思いをさせたな‥。」
その口調は軍隊長の時の物に変わる。
「隊長ぉぉぉぉぉ‥‥。」
「この傷の痛みの中、それを与えた張本人の様な私がかつての敵側で平然としていたら、そりゃ良い気はしないな‥。ワッツの怒りはもっともだ。詫びのしようもない。でも‥‥。」
メキは半泣きだったが満面の笑顔で
「お前達の命だけは守れて良かった。生きててくれてありがとうワッツ。」
「うああああああああああああああ!!!すいません!!隊長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
大号泣。 年的にはまだ10代くらいで声もまだ高め。体格はあれど精神はまだ成長途中だったのかも知れない。沢山泣いて心を洗い流して次に進めるよう祈ろう。
しばらくしてワッツ君が泣き収まり、肩を貸し立ち上がらせるメキ。
「チャル先輩。ワッツの目を診てやってくれないか?」
「分かったっすよ。」
癒し手であるチャルは状態を確認する。
「応急処置はしてあるみたいっすけど時間が経ちすぎてるのと、痛みは恐らく眼球の根本自体が中でズレてるからっすね。視力は戻らないかもっすけど眼球のズレを治せば痛みは無くせそうっす。」
チャルさんすげぇ。すげぇけどエグい単語だらけ。
「痛みだけでも取れるなら‥。」
ワッツ君が治療を求めた。
「ちょっと荒療治になるので皆さんは目を閉じといた方が良いっすよ。」
ワッツ君に丸めた布を噛ませ、チャルの治療が始まる。
‥‥‥‥‥‥‥‥〜〜!!! ‥‥‥〜〜!! ‥‥‥。〜〜〜〜!!!!!!
悲痛な声が何度か聞こえたようだが耳も塞いだ方がよかったかな‥‥
「終わったっすよ。」
それで全員目を開ける。聞くの怖いけど何を施したのか聞く。
「ちょいと引っ張り出して、回復魔法掛けながら定位置に戻しただけっす。」
えっぐ。
「とりあえずこんな所っすけどどうすっか?」
「はい。頭が痛くは無くなりました。視力は左目だけだと近くは何とか見えます。」
網膜剥離の手術を受けた後の後遺症で遠くにピントが合わないとかそういう状態か。
「引っ張られた時は死ぬかと思いましたけどこれなら大丈夫そうです。すごい癒し手の方なんですね。」
「完全とは行かなくて申し訳ないっすけどこれで勘弁っす。」
「いえ!もう戻らないと思ってた視力をここまでにしてもらえたので充分です。ありがとうございます!」
「本当に良かったなワッツ! チャル先輩は戦いも強いんだぜ?私の一撃を片手で余裕で止めるんだ。」
「そうなんですか!更にすごい‥。そんな一団に隊長はいるんですね。」
「ああ。隊の皆には悪いけど毎日充実してるよ。生まれ変わった気持ちで過ごしてる。だからワッツも皆も新たな人生に歩み出して欲しい。私からの最後の隊長命令だ。」
「‥‥はい!了解しました!」
一息ついてワッツ君は踏ん切りをつけて気をつけの姿勢を取り左手を右胸に当てる。これがここでの敬礼動作なのだろう。メキもそれに応える。
「じゃあ時間も迫ってるし次の目的を果たしに行こうか。」
俺は皆に促し、ワッツ君は俺に一言。
「隊長を頼みます。」
「言われずとも。」
ニッと笑ってそれに応え、その場を後にする。
次の目的地は‥‥‥ 牢屋だ。




