貯蔵庫と食糧庫
「カナリ様!ようこそおいで下さりました!」
ドーレルさんとこの蔵の管理者の方だろうか、サウ車を降りてすぐに満面の笑みで出迎えてくれる。癒されるね。
「どうもドーレルさん。農業関係が長引いてしまいお待たせ致しました。申し訳ありません。」
「何も謝られる事などありません!この国の為にやって頂いているんですから!こちらこそお疲れの所恐縮です!隣の者はこちらの管理者のトールと申します。」
「トールです。以後お見知り置きを御使様。」
「どうも。カナリですよろしくお願いします。」
「では早速ですが蔵の方へ。ささっ!こちらです。」
案内された蔵は思ったよりは小さめだった。大きい桶の数は四つ。その中に熟成しているジャー油が蓄えられている。
「これが出来た過程を聞きたいのですがよろしいですか?」
その説明はこの蔵の管理者であるトールさんがしてくれるようだ。
「ズイを貯めていた所に雨の降る日が続き、多くが雨に濡れてしまいました。それで煎るよりは蒸してズイを使おうとしたのですが、隣のかまどで炒って作っていたバクス粉を誤ってその中に投じてしまい、塩釜で使った用済みの塩と一緒にそれを廃棄しました。」
「‥‥誰が運んだのですか?」
「廃棄場所に運んで貰うのには制度が廃止される前でしたので他国の奴隷にそれを任せました。よっていつもと廃棄する場所が違い、4ヶ月ほど暗所に放置されたままになっていたのです。そこでこのジャー油が発見されたという訳です。」
「偶然とはいえ私の知る過程が盛り込まれ過ぎていて怖いぐらいですね。正に失敗は成功の母だ。」
ここまで醤油の製造過程が盛り込まれるとは‥だから出来たんだというのは当然そうなのだが凄いと思わざるを得ない。醤油を作るには大豆を蒸す、小麦は炒る、麹菌と合わせて熟成させる、塩と合わせもろみを出すという行程がある。日本の国菌でもある麹菌はどこから来たのか?乾燥気味のこの国で多く発生するとは思えない所があったので他の国の人が運んだと言う事で謎が解けた。そしてその者の出身が分かればそこに『待望の物』もある筈と当たりがつく。
「そこからはその行程に倣って何とかここまで増やしたのですが‥元の材料がなければ製造が出来ません。そこに御使様のご登場というわけです。」
「分かりました。元手の方は算段をつけたのでいずれ回復するでしょう。それでも流通に乗せるまで最速で1年半、それ以上かかると思って頂きたい。現在ここにある物でまずクオカーフに交渉を図り、その成果で設備投資をしその期間の短縮を図りたいと考えています。こちらのジャー油の使用を許可願えますか?」
ハハハとトールさんは笑う。
「何を今更仰いますやらw 元からそれを前提に話していたつもりでしたよ。この技術は戦を引き起こす程重要な物。今回の戦の罪の禊ぎとなるよう我々も協力を惜しみません。クオカーフの親父王にだろうがソーアの街の人にだろうが御使様の御随意にお使い下さいませ!」
「ありがとうございます!必ずや誰しもの心打つ様な使い道を示してみせます!」
トールさんと握手を交わし、樽の木材にその菌は宿る為、菌を殺さないようにする等の製造行程での注意を促し、1つ調べて欲しい事をお願いして、いよいよお楽しみタイム。ジャー油のお料理研究会のお時間となった。樽からジャー油を2リットル程頂き、迎賓館に戻り研究を始める。
「皆。これから色々と食べて貰う事になる。これが晩餐代わりになるからそのつもりでよろしくね。」
「了解っすご主人。」
「分かりましたわカナリ様。」
「ポガポガサンドは美味しいけど足りなかったから今なら幾らでも食べてみせるぜ主!」
さっきの気概を察しているのか明るく接しようと気を遣わせてしまったようだ。その気遣いに報える様に調理に励みましょうかね。
「じゃあここの食糧庫を覗いて来るね。ドーレルさん案内をよろしくお願い致します。」
「はい!ではこちらへ!」
終始ウキウキだなーこの人は。
他国のお客様をお相手するだけあって食糧庫の広さはそれなりに大きかった。冷暗庫もあり、想定よりも多くのレシピを試せそうだ。
「ではまず乾物、香草薬味、野菜、穀類、肉や魚の順で案内を頼みます。それで今回の料理をどうするか考えてみようかと。」
「お任せ下さい!」
まずは乾物コーナー、といっても魚の干物、ポガポガの燻製肉などが殆どで出汁に使える様な物は少なかった。煮干しの小魚は大量にあったのでそれを使わせて貰う事にする。例のヒラドという街で貝殻が手に入るなら海藻類を少し調べて貰おう。
続いて香草薬味コーナー、ローリエに似た葉、にんにくに似たソムなどソーアでも使った物が多かった中で、今回は使えないが1つ発見があった。
「これは‥クミンか!」
カレーの香りの代名詞の香草がここにあった。
「それはピクミですね。とても香りが強いのでたまに肉の臭みを取りつつ味付けに使っております。」
なんか引っこ抜かれて貴方だけに付いて行きそうな名前だが自衛隊員の心には火がつく香り。いずれ使わせて貰おう。
続いては野菜コーナー、まずは大好物のとうもろこしに似たシャキットをゲット。玉ねぎに似たギネマ、じゃがいもに似たジャガン、人参に似たキャル、新たに見つけたサニーレタスに似たセレタ、他も色々と見つけたがジャー油と合うか判断がつかない物もある為一旦これぐらいに。
続いては穀類。小麦粉ことバクス粉。そして
「こちらの粉は?」
「ジャガンを粉にした物です。モミージの唐揚げにする時に混ぜると衣がパリっと仕上がるんですよ。」
じゃがいもの粉‥でんぷん‥つまりは片栗粉か!あとは調味料にアレがあれば‥自衛隊二大野外炊事メニューが2つとも出来るかもしれない!
「つかぬ事をお聞きしますが、程よい酸味を持つ調味料はありませんか?」
「酸味ですか?ビーネという物なら‥ 。」
そう言って反対の棚に陳列している瓶達から一本手に取り、小さい器に移して試飲させてくれた。
「こっこれは!!!」
酢だ。 花の香りが少しするが間違いなく酢の味だ。
「こちらはビネの花から採れる蜜の様な液体でビネから採れる為ビーネと呼ばれています。野菜に掛けるタレに仕込ませたりするんですがこんな味わいでよろしいですか?」
「これです!これで好きな料理が作れます!!」
「キャッ!?カナリ様!??」
思わずドーレルさんの両手を握って喜びと感謝を伝える。ドーレルさんの顔がみるみる真っ赤になった。
「ああ失礼!あまりに嬉しくてつい‥ナハハ。」
「いえ‥大丈夫です。エヘヘ。」
そんなこんなで次は肉と魚のある冷暗庫へ。
「やっぱ色々デカいっすね。」
そこは肉と魚の2室に分かれ、どちらもデカブツが吊るされて奥に並んでいる。こちらでの魚の名前は分からないが見た所カツオ、スズキ、タイ、カジキマグロとジャー油の刺身に合いそうな魚が並んでいる。
「これらの魚はヒラドで獲れた物ですか?」
「そうですね。元々が寒いエリアなのでそこで氷結魔法にかけて運ばれて来ます。」
「移動までの時間は?」
「ヒラドからここまで早くても3日以上かかりますね。その間魔法使いが定期的に氷結させています。」
「成程。」
魔人族ならではの運搬方法ということか。装置でいちいち魔力を費やす必要も無くしたい所だがそれは追々作成しよう。
「ではこちらとこちらを部位に分けてまず頂きます。こちらは1匹ずつ。」
カツオとカジキマグロは部位でタイとスズキは1匹づつ。お次は肉だ。
「あとはポガポガの肉をバラの部分を塊で。卵も少々頂きます。先程言っていたモミージの唐揚げはドーレルさんにお願いしたいです。調味の時に色々と試させて頂ければと。その他の品は補助をお願い致します。多分ハルエさんも手伝ってくれると思うのでそちらとも連携を。」
「かしこまりました!結構な品数になりそうですね!楽しみです!」
2人で手分けして運び、調理場へ戻る。
「にゃ?にゃーーーー!!!!!!」
「やっぱりそうなるか。メキ!止めて!」
「おうさ! 止まれ先輩!」
ガシィッ!!
猫の宿命か。予想の通り魚に反応して本能で動いて来た。
「後でちゃんと食べられるんだから今はおあずけ。この煮干しでも齧ってなさい。」
にゃああ‥‥と大人しく煮干しを齧るチャル。いつも冷静なだけにタガが外れちゃったかね。お肉ばっかりだったし。
「では、始めて行きますか!」
いざ調理開始だ。




