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現実世界でチートだった男が異世界に行ってもほぼチートだった件  作者: 松本隼龍


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農地と調査

次の日の朝、早速農地と例のジャー油の製作場の視察に出掛ける。


「案の定‥、土が弱いな。」


弱いという表現は適切ではないかも知れないが、サウ車を降りて踏み締めた足の感触、香り、土の色、虫の数、雑草の種類の少なさ、気温と風、水の少なさ等の『不作』になる項目が幾つも見受けられる。


一緒にサウ車を降りて、そのままズイの畑に入ろうとするメキ。肩を掴みそれを止める。


「待て。」

「うえぃ!?なんでだ主!」

「シストセンチュウは足の裏とかに付いてそのまま他の畑に移っちまう事が大体の感染経路なんだ。だから足裏の消毒を出入りの時にしなきゃならないんだよ。」


イデアで消石灰を生み出す。舞い上がらないように農道に撒き、参加者全員の足の裏を消毒させてから畑に入る。早速問題点を色々と書き出し、調査を進めていった。


「どうっすかご主人?」

「ざっと見た所恐らく連作で窒素が足りないまま作付けしていた畑っぽいなぁと思うよ。」

「窒素?っすか?」

「農業をやる上で土の状態を測る三要素が窒素、リン酸、カリウムって物質なんだけど、大豆‥いやズイの場合は『菌』っていう肉眼では見えない非常に小さい生き物が窒素生み出したりして窒素は少なめで良いとはいえ‥足りないとどうしても小粒化や不作になっちゃう。そこで確認したいんですけど天気の記録って見せていただけますか?ここ数年の雨の降った量を見たいのですが。」


農業担当の大臣さんが一緒に持ってきてくれた別のサウ車一杯の資料の中から天気の記録を出してきてくれた。


「拝見します。」

ここ数年の記録と一日ごとの記録にまとめられた資料からこの世界の一年周期は356日、12ヶ月x29日に8ヶ月分30日の月がある事が分かった。雨の降った統計では6〜8、11〜12に集中して多く降り、あとは待ち待ちと行った所だ。しかしここ数年、サウラが即位した前後の年の降りが多い事を突き止めた。 照らし合わせるとそこから不作も続いている。


「ふむふむ。これは大臣とその部下さん達が記録した物ですか?」

「はっはい。勿論私共で記録した物ですが‥‥。」

「ありがとうございます。この記録が国を救いますよ。」

「えっ!?どういう事です?御使様!」

雨は作物に必要な物とはいえ何が作用するのかはピンと来ていないようだ。


「先程言った『菌』や窒素、リン酸、カリウムは雨によってもたらされたり、そして雨によって流されたりする事を繰り返す事になります。多すぎても少なすぎてもいけないんです。そこでこの雨の記録が役に立ちます。見た所集中的に降る月がありますね?その時に流れすぎた栄養素の部分を補給してやる必要があったのですがそれが出来ていない。降る時期を見越して多く投入し、栄養素の状態の平均化をする事が必要だったんです。栄養素が減った畑に同じ様に作付けしていては実が多くなる事はありません。栄養が足らない作物は弱り、そこにシストセンチュウが付いたらひとたまりも無い。それが今この畑達の状態なんです。この記録と照らし合わせ、シストセンチュウの撲滅と栄養補給をしてあげましょう。病に倒れた子供を看病してまた元気に動ける様にしてあげるように。」

「おお‥流石御使様!どうかその知識を持って我らをお導き下さい!全身全霊で取り組ませて頂きます!」


大臣達は跪き、俺を崇め始める。


「こちらも可能な限り尽くさせて頂きます。あくまでも私も使命の為なので気兼ねなく接して頂けるとありがたい。そういう崇める様な事は今後は省略でお願い致します。」


あくまでも俺はただの人間であると思っている。崇めて貰う事などないのだ。


それにしても人間族を下に見ていると言われている魔人族だが御使というだけでこうも態度が変わる物なのか?と疑問が湧く。恐らくこの中にもそういう魔人族がいて大臣は御使を強調し、それら風潮を抑えに掛かっている部分もあるのだろう。ここで起きなくともクオカーフやキサガナルでは起こりうるかも知れない。出来るだけ魔人族の皆の様子を覚えておこう。


「ではちょいとどれだけ堆肥が必要か計算してみますね。ざっくりで申し訳ないですが何分成分の含有量まで調べる道具を使う事はあっても製造する事は私は携わっていないので出来ないのです。」

ソーアで作り出した缶詰は触った事があるしイメージし易かったから出来た物で、今回は得手では無い上に使っているのを見たが触れた事がなかったのでイデアで生み出す事が叶わなかった。残りの持っているうろ覚えの知識でだが、農道に木の枝で計算式を書いて大まかな数字を割り出す。


「確かあの資料だと単位は10a単位で窒素の分は出してたよな‥ 雨がこの季節に集中する範囲で降るとして作付け時期は1ヶ月後。それまでにソーアから持ってくるブルガンジーの頭数を糞の量が一頭一日30kgとして1日100頭で3tの堆肥をこさえて30kgの窒素が入る。この都市周辺での耕地面積が大体こちらの単位で187haだからph5.6目指すなら‥ 。」


イデアで生み出した電卓を叩き、カキカキカキカキと農道がどんどん計算式で埋まっていく。あー測定器欲しい。紙貰って書けば良かった。


「ごっご主人が何の計算してるか分かんないっす〜?? haとかphって何すか???」

「haは広さの単位、phは土の状態を矯正する目標の単位。これだけの広さの耕地を短期間に一気にやろうと思うとどうしても1万頭以上引っ張って来なきゃならない計算になってくるなぁと思ってる。空輸が出来ないから現実的では無いんだよなぁと。食う草も足りない。ここに来るまでに聞いた財政状況ではそれを即支払うのは無理。5年は最低掛かる。今回の事件のクオカーフに色付けて賠償を貰ってもそれくらい掛かるだろうね。」

「空輸出来ない?アタイ達召喚士はこの国に7人いるけど‥。」

「あちらの世界と同じなら空を飛んだだけで暴れ出すだろうね。そんだけ敏感な生き物なんだ。ここに来るまでで何頭も死ぬだろう。だけど龍の空輸は餌のクローバーの種や土壌、苦土石灰用のドロマイト、臭いがアレだから無理強いは出来ないけど堆肥を運ぶ時にノクトちゃん達にお願いしたい。頼めるかな?」

「任しといて主!他の皆んなにも頼んでおくぜ!」

「ありがとう心強いよ。チャルは書状を書くから今回の交渉の成立と取引材料を用意出来るかソーアに知らせを送って欲しい。城にいるサウラ女王のサインを貰ってね。」

「はいっすご主人!」

「カナリ様、私は何をお手伝いしましょう?」

「イセ様とは少し実験をしてみたいと思います。畑の耕運をしたいのですが風と地魔法を併用して出来そうですか?」

「ええやってみますわ。土を少し揺らして、小さめの竜巻を横に倒して縦回転させれば‥。」

ガガガガガガ!! ヒューーーン!!!


「あっぶな!!? 土飛んで来た!!」

メキは反射的に躱し、削れて飛んで来た土の直撃から逃れる。

「あらごめんなさいメッキー。竜巻の上に何か障壁を置かないとそこら中に飛び出しそうですわね。」

「メキ大丈夫? イセ様、上に障壁を置いて砕いた土は下に落とす感じで、土もこれぐらいの柔らかさで行けますか?」

「やってみせますわ。」

ゴゴゴゴゴゴ‥‥ と今度はゆっくりと耕運している。土の柔らかさも申し分ない。

「やってみせるって言ってたので気合い十分なんだと思いましたが‥流石ですね。」

「お褒めに与り光栄ですわ!」

「ではこの魔法の動きを魔人族の方々にも伝授して頂けますか?」

「かしこまりましたわ。」

「ではガサの農業担当の方々、今の魔法をイセ様から習い、こちらの既に挫滅している畑の範囲から耕運をして頂けますか?」


人間族から教わる事なぞ無い!とか来るかと思ったが、思いの外すんなりと皆耳を傾けている。しかし何人か背中が震えているのを確認したので念の為こっそりと大臣に聞いてみる。

「(サウラ女王に何か言われましたか?)」

一瞬ビクッと大臣はなったが恐る恐る話してくれた。

「(実は‥カナリ様とそのご一行様の機嫌、危害など何かを損ねた場合、然るべき罰を受ける事になっております。国賓に対する無礼は許さぬと。)」

へー。見下しの心は厳罰で制するか。まあ躾にはなるかもだけど裏で反感買うのは頂けないなぁ。という事で。


「習いたくないひとは遠慮なく外れて下さいねー。」


と、試しに言ってみる。まあ意地悪ではあるが度合いを見てみたい。

「厳罰とか考えなくて良いですよ。どれぐらい嫌な人がいるのか見たいだけだから。ああ‥挙手制にしようかな。私以外の人皆目を閉じてー‥はい。嫌な人は手を挙げて。」

小学生の犯人探しみたいになってしまったが4名ほど手が挙がった。

「はい、目を開けてください。分かりました。女王と相談してこの状況の打破を考えさせて頂きます。ご協力に感謝を。そして皆様を国司と見込み、今回の事業においての憤りは救国の為とどうか割り切り、私達がいなくなっても自分達で行える様に学んで頂き今後に役立てて貰いたいと思っています。どうかよろしくお願い致します。」

頭を下げた俺に皆困惑しているが大臣が慌てて頭上げてください!と言ってその場は収まり、皆こちらの声を聞いてくれるようになった。 


元々官僚クラスの人間が国の為になる事よりも自分達の嫌悪感を優先するなど言語道断であるが、人種、宗教の違いの受け入れは芯に根強い為に、理性を持って抑える事が辛くてあの背中に震えとなって出ていたのは理解している。見下している=勝算があるから戦を仕掛けるのに躊躇がないのだ。負けたといってもまだまだそういう分子が国にはいるという事。


「美味い飯でも作って交流すれば少しはマシになるかなぁ。」

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