チャルの怒りと出陣
「ホタ!ホタ!来てくれ!!」
女王の命令で男湯の外に控えていたホタは緊急と悟り男湯の中に入って来る。
「陛下!どうしましっ!!?」
カナリが左肩を矢で射抜かれ倒れこんだ姿を見てホタは驚愕と激昂を同時に芽生えさせつつも冷静に状況を把握する。
「犯人探しは後です!カナリ殿の手当を私がします!陛下はお召し物をまず!そして従者のチャル様を連れて来てください!」
「分かった!ここは任せるぞ!」
ホタは矢を引き抜き、手ぬぐいで止血を施す。すぐに身動きが取れなくなったということは神経毒、体や心臓に回らぬように縛り上げ、意識の確認。
「カナリ殿!カナリ殿!」
「はぁ‥はぁ‥ ホタ君‥か?」
「気づかれましたか!そうです!ホタです!」
矢を引き抜かれた痛みで俺はかろうじて意識を取り戻した。
「サウラ‥は?」
「ご無事です!今チャル様を呼びに行って頂きました!」
「よかった‥ 無事で‥。当たったらまずいと思って‥。」
「詳細は後に!今は意識を保つことに集中なさってください。」
「話を‥しながら保って‥いるんだ。 神経毒は‥久しぶりだな‥。」
蛇の毒を昔食らってやばかった経験がある。
「ホタ君‥、殺気を感じて‥矢を当てられるまで‥1.6秒ぐらい 方角は北西‥ 北西には何かある‥?」
「北西‥‥ ! 陛下の伯母さまの城!」
「下手人を‥‥すぐに匿うなら‥多分‥。」
やっべ‥意識が‥
「カナリ殿!カナリ殿!」
「まだ‥目覚めませんか‥‥。」
事件から1時間、チャルによって解毒と回復の魔法を施されていたが神経毒だったからかカナリは目覚めない。
「体力、解毒的には大丈夫っすけど脳の方にダメージが有ったからまだ目覚めないのかもしれないっす‥。呼吸的には寝てる状態なんで脳に刺激が入った事で緊張が解けて心労が一気に来たんだと思うっす。」
「強制的に休ませられている状態という事ですか‥このまま目覚めないのかと思いましたわ。」
イセは胸を撫で下ろす。
「でもさすがご主人っす。風呂場での出来事は置いておいて、一瞬で殺気を感じて自分が避ければ女王に当たる、下手人はどちらかに当たれば良いと狙ってたんでしょうがご主人は咄嗟に自分を盾にして急所を外して受けてるっす。毒も考慮して右手で腕にある解毒のツボ『化膿活点』を押しながら気絶。ご主人なら矢を落とす事も出来た筈っすけど、二の矢三の矢と来たら丸腰の女王を守りながらでは捌き切れる保証はない。当たれば相手は成功したと思い退散すると踏んだんすね。ホタさんにその後の犯人探しに必要な方角や距離を割り出す時間も伝えるとは‥射撃手は射撃手を知るって所っすかね。」
「先輩はなんでそんなに冷静に話せるんだよ。自分の主人がやられちまって頭来ねぇのか?」
眉間にシワを寄せながらメキは腕組みして先輩に問う。
「ご主人はどんな目に遭っても分析して自分の怒りを鎮める手段を取る人っす。従者としてそれに倣っているだけで‥」
その一瞬で虎にでも睨まれたかの様な殺気が部屋に充満する。
「こう見えてボク‥‥怒ってるっすよ?」
「うおっいい殺気。そうでなくちゃな。」
大きめのチャルの目はさらに広がり、瞳孔は狭まり今にも襲いかかりそうな表情をしている。
それを見てニヤリと口元は笑っているが目が全然笑っていないメキ。
2人の従者の殺気で部屋にいるイセは足が竦みそうになる。
「普段柔和な方が怒ると怖いといいますが‥これは格別ですわね。」
そう言うイセも魔力を抑えるのに必死なぐらい怒りに燃えている。その部屋の状態に迎賓館の使用人たちは誰も入って来られない。ハルエが必要な物を受け取りチャルに渡す作業が続いていた。
その使用人の1人が報告する。
「下手人の使ったと思われる毒矢が見つかりました!その場所から逃げ込んだ先はやはり陛下の伯母さまの城かと!」
「じゃっ行きますか。」
「行くっすよ。」
「怒りでやり過ぎてしまいそうですわ。」
「いいんじゃね?サウラ様がなんとかするっしょ。」
「それもそうですわね。ではハルエ。カナリ様をよろしくね。」
「かしこまりました。どうか私の分も上乗せをお願い致します。」
「勿論だ。」
カナリの護衛にハルエを残し、怒りに燃える3人は現場へと向かう。
「報告は聞いたのじゃな?」
サウラ女王が迎賓館の入り口でサウ車を構えて待っていた。
「はいっす。そのまま現地に向かうっす。女王がご主人としてた事の話は後で聞くって事で皆合意してるっす。」
「国情や妾のせいである事は明白じゃ。それはあとでいくらでも断罪せい。だが今からは遠慮は要らぬ。首謀者は生け捕って政治的なものに掛けるが、その他には敬愛する者に手を出した事、謀に与した事を存分に後悔させてやってくれ。妾も全力で行く。」
「国王公認の喧嘩。元軍隊長の血が疼くぜ。」
「このサウ車が着く頃には近隣住民の避難は終わっておる筈じゃ。では参ろう。」
一同はサウ車に乗り込み、伯母の城に向かう。
「チャル先輩。」
「何っすか?」
「ソーアの戦で先輩はアタイの一撃を片手で難なく止めてたよな? つまりあの時は癒やし手としては全力だったかもだけど戦士としては全力じゃなかったんじゃないか?」
その姿をその一撃から守ってもらった立場として後ろから間近に見ていたイセは、確かにあの場面だけを見ればその疑問が湧くと思った。
「今回は先輩の全力が見られるのかな?」
チャルは目を一度閉じて言う。
「容赦はしないっす。」




