ミクニとアワラ温泉
「カナリ様!入るぞ!!」
ミクニが地下室まで降りて来て俺を呼びに来た。
「ああミクニさんか‥、情けねぇ状態を見せちゃったな‥。」
「聞こえてきた内容を考えれば情けねぇよりもよく戦ったなって印象の方が強えな。ほれ、まずは風呂に行こうぜ。顔も筋肉もガチガチじゃねぇか。」
よく戦った。 初めてそんな事言われたかもしれないな。
地下室から出て涙とガチガチに眉間に皺の寄った跡のある顔でチャルに向き合うとチャルも泣き筋があった。それでもチャルは
「お風呂行く準備出来てるっすよ。」
優しい笑顔で俺を迎えてくれる。申し訳なさとありがたさを感じながら着替えとタオルを受け取り、袋の中へ。3人でアワラへと向かう。
「ふぅーーーーーーーー。」
温泉に浸かり、長い息を漏らす。硬くなった筋肉が柔らかくほぐされていくのが分かる。
「やはり良い体してるな!元軍人とはいえここまで維持出来るもんか?」
体育会系男子特有 筋肉の見せ合い&談義の始まりの合図だった。
「そっちこそ良い体じゃないか。ただ筋肉の付き方は農家って感じだな。あと軍じゃないぞ。自衛隊だ。」
「そうだったな。そんな筋肉の付き方なんてのも分かるのか?」
「格闘技や整体をやっているとその筋肉の付き方でその人の職業や利き腕と骨格の歪みとかは分かるんだよ。農家は下半身と前腕部に筋肉が付きやすく歪みが発生しやすい。だけど筋肉3種類の内の持久力と瞬発力両方兼ね備えた粘り強い中間筋で成長する。これを農業従事者の筋肉、略して『農筋』っていうんだ(?)」
「おお。じゃあ何か歪みとかの対策はあんのか?」
「硬くなった筋肉をほぐすのも兼ねて姿勢良く走ることだね。背中の筋肉がほぐされてその後疲れにくい体になっていく。」
「へー!じゃあ畑の周りでも走ってみるか!」
「それがいいよ。水分補給も忘れずに。筋肉には水分を蓄えるって役割もあるんだ。体の老廃物を小便で流す時に水は必要不可欠だ。蓄えられれば病気になりにくくなるよ。」
良いこと聞いたぜ!とガッツポーズをとるミクニ。
「いつもの優しい顔つきに戻ってきたな。やっぱりここの湯は体にも心にも効くぜ。宿泊客以外は有料だけどな!」
ハハハと笑いながら、ミクニは本題を切り出す。
「カナリ様よ。たった二週間足らずだがお前さんはずっと戦ってきたのが俺にはよく分かるぜ。綺麗な様に見えて豆やタコが治り切ってない手、頭の回転力、自分の能力を他人に惜しみなく使う全力っぷり、それを何事もなかったかのように笑顔で皆を収めちまう優しさ。短い期間ではあるがそれらが身につき実践するためにはどれほどの事があったのかと思う。」
自分ではまだまだ足りないと思っているが、他の人から見たら十分なのかね。ミクニの話に黙って聞き入る。
「さっきの事でそれがとてつもない怒りと悲しみの果てにあることは理解したつもりだ。神の御使だって言って俺たちがその力に乗っかっちまってることも併せてな。理解した上で俺はお前さんに協力する。お前さんは神ではなく悩み迷う人間なんだ。どこかで必ず支えが必要になる。7カ国を巡るっていうなら尚更だ。俺がミヤーザ第一号の支えになるぜ。もし間違った方向へ進みそうになったらぶん殴ってでも止めてやる。」
「支え‥か‥。」
とっくにこのミクニという男には支えられ続けている。右も左も分からない異世界でチャルを除いたら1番最初に出会った人物で今もこうして俺を案じてくれている。
「支えじゃなくていい。」
「俺じゃ力不足なのは分かるけど俺は」
手を出してミクニの言葉を遮る。
「支えじゃなくて、 『友達』で良い。」
「(!!) ああ!友達だ!」
ミクニの思いと温泉の効能が俺の心を健康な状態に回復してくれた。明日からの使命に快く臨めそうだ。
「‥‥ (良かったっすね。ご主人。)」
塀越しに聞いていたチャルは安心してフニャ〜〜っと湯船に体を預けた。
「ところでよ?」
「何?」
「余計なお世話かもだがその立派なモノは使わないと勿体無いと思うぜ?」
ミクニは水面上から俺の股間を指差す。
「ダチになった途端セクハラかよ‥。」
「セクハラ?」
「あっちの言葉で性的嫌がらせって意味。」
「そんなつもりはねえよ!それ見たら求める異性が多そうだってのと同じ男として溜まると色々やらかしちまうのが分かるから心配してんだよ!もうチャルちゃんにでも頼んだらどうだ?」
「(何言ってるニャ!!!??)」 バシャー!!
フニャ〜っとしてたのに急に自分の名前が上がりびっくりして起き上がった瞬間足を滑らせ湯船に沈む。
「従者にそんな処理頼めるか!!」
湯船の中で立ち上がりミクニを湯船に沈ませようとする。手を前に出し落ち着けとミクニは制する。
「分かったって!俺はちょいと失敗談があるから心配になっただけって話だカナリ様!」
それを聞いて俺は動きを止めた。
「‥‥おい。ダチに「様」は無いだろ? 『ミクニ』?」
「あっ! そうだな‥『カナリ』!」
2人でハハハと笑いながら風呂を出る。着替えた後、顔が赤いのは温泉のせいだろうが何か目線を合わせてくれないチャルと合流し、晩御飯は楽しく食べられた。明日のイセとの約束に問題を残さずに済みそうだ。
就寝前、ベッドから天井を見上げながらあの世の奴らに呟く。
「みんな‥ 異世界で友達が出来たよ‥。」




