ノクトと日本昔話
「主のヨーヨーってやつの演技?アタイも見たかったなぁー。」
次の日の朝。ズイの畑の一部を受け取りアイテムBOXに入れる最中に会食での出来事を話してあげると、昨夜別室待機であったメキは悔しそうに言った。
「まあいつでも見せるだけなら出来るからまた今度ね。」
はーいと素直に応じたメキと街の西の畑からもう少し離れ、人目がつかない所まで移動する。そこでメキに例の黒龍を呼び出して貰った。
「ノクト!!」
光の輪から召喚された黒龍ノクトはメキの隣にズズンと降り立つ。
「普段はこの召喚する龍たちはどういう状態なんだ?」
「実際はこの世界と隣接した世界があるみたいでそこで暮らしてるみたいだな。でもこの子曰く狭っ苦しい掟みたいのがあるようでこっちの方が何かと過ごしやすいから呼ばれたらすぐ来て活躍したいみたいだぜ。」
召喚獣世界の掟かー、何か厳しそうな感じがするな。
「アタイは族長筋として先代からこのノクトを召喚する契約を引き継いだんだ。ノクト!私の主になるこの人にこれからは仕えて行くからね!」
「よろしくね ノクト君。」
プイッ
ありゃ?顔を背けられちゃった。まあ一昨日戦った間柄だから無理もないかと思ったがメキは、
「あー主?多分『君』って呼ばれたのがダメなのかもしれない‥。」
「へ?」
あっ!っとその時理解した。この子は女の子なんだ!
「あーごめんね よろしくノクトちゃん。」
「グルゥ!」
頭を撫でながら最初のご挨拶。ニコニコしてどうやら機嫌も悪くないようでこれから安心して一緒に過ごせそうだ。
「契約者のアタイはノクトの言葉が分かる様になってるけど他の人には分からないと思う。ノクトはアタイ達の言葉を理解しているけど発声器官が乏しいから表現出来ないんだ。だからノクトが何か伝えたい時はアタイを通して主に伝えるよ。」
「分かった。じゃあ今日は国境までよろしくね。ノクトちゃん。」
「グルゥ!」
ノクトちゃんも素直で良い子だねぇと、鼻の上辺りをよしよしする。そうしている内に土産を頼んでいた他のメンバーとソーアのトップ3の面々がお見送りに到着した。
「無事ズイは受け取られましたか?」
「はい。これで交渉に行くための研究が出来そうです。ご協力感謝します。」
「式典でも申しましたがそれはこちらの言い分です。どうかよろしくお願いします。」
「はい。こちらの使命を全うしたいと思います。」
自衛官お馴染みの10度の敬礼でパープル神官に頭を下げる。
「カナリ様。お土産はこちらに。」
手に入れて貰ったこの街の特産品『炒りズイ』は節分の時に食べる様な豆の状態で携行食として主に用いられる物らしい。滋養は高く、これと少しの野菜で病知らずになると話を聞いた。
「ありがとうございますハルエさん。ミクニさん達に土産を持って帰る約束もこれで果たせます。」
「どういたしまして。」
ぺこりとお辞儀をして自分の主人の元へ。さあベルレ・ガルアに帰りますか。
「またのお越しをお待ちしております!イセちゃんも頑張るのよ!イセちゃんなら大丈夫!」
シキブ様は自分の姪を心配そうに見送る。
「はい!伯母様もお元気で!近い内にまた来ますわ!」
手を振り合って親族の別れを告げ、黒龍は飛び立つ。
落ちないようにスピードは遅めとはいえこの高さは怖いもんだな。
「?主は高い所苦手か?落ちてもアタイが拾い上げるから大丈夫だぞ?」
「なら安心だ。と言いたいが少し怖いのは確かだな。」
「カナリ様の思わぬ弱点ですわね。」
「あはは‥。でも折角龍に乗ってるんだからアレをやっておくか。」
「アレって何すか?」
俺はイデアで「でんでん太鼓」を生み出す。
「??太鼓ですか?」
「なんか赤ちゃんをあやす時に使う感じのっすね?」
皆の疑問をよそに、俺は懐かしの曲を歌い出す。日本の昔話のアレだ。
〜♪
「何だか心地良い曲ですわね。」
「良い感じに眠くなるっすねー。でも何でいきなりそれ(でんでん太鼓)を生み出して歌い出したのかは分からないっすw」
俺だけが癒やされている子供の頃から夢だったシーンの再現。皆に笑われながらも和やかな雰囲気だ。とても一昨日までガチバトルしていた相手とは思えないほどに。そうこうしている内に一度野営した森を越え、国境の門にあっという間に辿り着いた。
警備の方には驚かれたが事前に通達を送っているので初めて見た驚きといった感じで割とスムーズに入国審査を通して貰えた。
「じゃあ一旦ここで。ソーアでの活動をよろしくね。メキとノクトちゃん。」
「グルァウ!」
ノクトは顎を上に上げて鼻息を漏らす。
「任せといて! だとさ。」
「ああ頑張ってね。」
鼻の上を撫でて応じる。
「ではメッキーごきげんよう。」
「メッキーって呼ぶなっての!」
その瞬間ハルエさんがメンチを切る。さすが迫力あるね。
「‥まあ良いか。じゃあ復旧と一族受け入れ、それとガサへの連絡をやってくるぜ!主!」
「頼んだ。」
メキと黒龍は再び空へ舞い上がり元来た方向へ帰って行く。
見送って門を越えた瞬間。
「お嬢様ーーー!ご無事で何よりですーーー!!」
と、俺たちに半べそ掻きながら突っ込んで来たのは御者のナンジョー君だ。
「あらあら。ナンジョー、鼻が出てますわよ。落ち着きなさいな。」
「よくぞ‥よくぞご無事で‥ヒック!」
半べそ男の子のお世話を帰国早々にする羽目になったか。なんかこっちまでホッとするな。
「連絡は送ってたけど早くないかい?」
「あっはい。もう連絡を受けた時からすぐにサウを走らせていました。ご無事なのが嬉しくて。」
後ろを見ると門の横にある水飲み場でサウ2匹がグビグボと物凄い勢いで水を飲んでいる。すまないが帰りも頼むよ。
時間は有るので行きで泊まった街は通り過ぎて直接ベルレ・ガルアに帰る事になった。
サウのスピードはゆったりめで車内での会話も聞き取りやすい状況になったのをみてイセが聞いてくる。
「そういえばカナリ様?シーと何か話をされたんですの?」
「ん?ああ。昨日屋上に行った時に会ってちょこちょこと話したよ。お姉様をよろしくお願いしますってね。」
「そうですか‥何か余計な事は言いませんでしたか?」
「余計、というものは無かったかな。良い友人を持っているねと思ったくらいかと。」
「そうですか‥。」
イセは昨晩、カナリのパフォーマンス中にシーと面会していた。
「お姉様。」
「あらシー。ごきげんよう‥という元気は無さそうですね?顔も少し赤い?具合でも悪いのですか?」
「いえ。彼の方の笑顔を見ていて『先程』お話しした時とは随分と違う様に思いまして、少々面食らっている所なのです。」
「ああ、あれがおそらくカナリ様がやっていて楽しい事なんでしょう。あの笑顔を守りたいと思いを新たにしていた所ですわ。」
「そうですか‥‥何にせよ、お姉様!どんどん攻めあるのみですわ!」
「ええ!?どうしたのシー!?」
「御使様にお姉様の魅力をどんどん見せつけるんですわ!他の従者達に遅れを取ることの無いようにしなくては!」
「勿論そのつもりですが、あくまでカナリ様の使命が優先です!」
「くー!そんな事では出し抜かれましてよ!」
急にいつものシーの性格に戻られたイセは慌ててしまったが、カナリのパフォーマンス終わりに拍手を送っている最中にシーは姿を消していた。あれは友人なりの応援だったのだろうか?カナリ様と屋上で何かあった?
こうして少しの謎を残しながら数日ぶりにベルレ・ガルアへと無事戻る事になるのだった。




