缶詰とパフォーマー
「なぁああ!?」
頭を抱え上げてメキは驚きの声を上げ、同時にしまったと思った。アタイもそれにすればよかったと。ゲームの方に気を取られ、所々出ていたミスを悔やみ始める。
「ベルレ・ガルアに戻ってからガサへ向かわれるまでの間のどこか1日を私とお過ごし下さいませ!」
あーそういう魂胆だったか。まあガサ国へは10日後と言っているし1日ぐらいは大丈夫か。
「いいですよ。あちらで事業内容の進捗を確認した次の日ではどうでしょうか?」
イセの顔がぱぁあっと明るくなる。
「もちろん!大丈夫ですわ!」
イセはルンルンとソファーに座り直す。
シーさんにも頭下げられてお願いされてるしね。今回のご褒美になるなら1日ぐらいどうという事はない。
充分白熱した所で遊びはこれくらいにしてと会食まで今後メキに頼む伝令の詳細や帰ってからの日程と研究できそうな場所を話し合う。 ほどなくして刻限となった。
会食は立食で先程の謁見の間にて開かれるとの事。メキは待機でユノさんが付き、イセはお着替えタイムとなって部屋を変えた。
「チャル。俺も着替えた方が良いよな?」
「そうっすね。英雄様が旅装束じゃあ締まらない感じがするっす。」
「そうだよな‥じゃあ。」
とイデアで生み出したのはスーツとカッターシャツとネクタイ。議員時代スタイルで臨む。着替えて俺とイセは紹介されてからの入場という事で廊下で待機だ。白の生地と金の装飾のドレスに身を包んでいるイセ。綺麗だけどこれじゃまるで結婚披露宴だな。
「‥それでは今回の功労者であるベルレ神の御使カナリ様と特級魔法使いのイセ様のご入場!」
司会の声と共に大きな扉が開き、音楽隊の音楽が流れる。益々披露宴チック。
入場してすぐにお辞儀をする。その瞬間に拍手と歓声が上がった。ここにいる皆はこの都市に住む貴族の面々なのだろう。屋敷が半壊の人もいるだろうに集まって貰って恐縮だ。会釈と手振りを数度繰り返してこの街のトップの下へ歩いていく。
「今回の戦を終結に導いたお二人に今一度盛大な拍手を!」
再び拍手が鳴り響き歓談と立食パーティーが始まった。
イセと2人で方々のテーブルを巡る事も考えたが、その場にいるだけで皆が来てくれるので無問題。だがお互いに異性とのやり取りが多く、なかなか苦労する。縁談の持ち掛けとかね。そうこうしているうちにタイミングを測ってくれたのか約束の人物が現れた。ゴシマの援軍代表、カシマ・アントラだ。
「カナリ様。お疲れ様です。私とも歓談をよろしいでしょうか?」
「勿論ですカシマ様。約束ですから。」
「私なんぞの為に敬称は不要です。カシマとお呼び捨て下さい。」
「ではカシマさんで。復旧の目処は立ちそうですか?」
「こちらと私共の魔法兵の空間補助魔法のお陰で復旧には3週間程度と見込んでおります。明日からは竜も手伝って下さるとの事ですし早まるとは思います。」
よく普通ならひと月はかかる事を自衛隊は1日から3日でやってしまうというが、これは人間の1番の力、連携力を鍛えているからだと思っている。隊を束ねている者ならばその見積もりも早いというのが良い隊長である指標になる事もあるのだ。カシマさんが優秀なことが分かる。
「流石ですね。安心してお任せ出来そうだ。それでは先刻私に向こうの世界での話を聞きたいとの事でしたがどんな事でしょう?」
「私は軍人ですので軍備、兵に直結する物が何かあればと思います。」
「では戦術、戦略、兵站の内では?」
「兵站ですね。」
「やはり優秀な方だ。兵站が1番重要だと分かっていらっしゃる。今回のような長期移動の際の食糧や物資の移動は現在どのように?」
「サウ車に轢かせておりますが‥アイテムBOX持ちの兵は少なく、保存食は干物が主体で、戦地や演習先での兵の力が今一度発揮されていないと思っております。」
腹が減っては戦は出来ずか。当然だな。それとあのトカゲはサウというのか。ここ数日で初めて知った。
「うーむ長期保存に向く保存法、燻製が出来るのなら今度は缶詰という手がありますが、こちらのテーブルの様な肉の腸詰などを保存して運べる方法です。」
「柔らかいが歯応えはあるこの食感の腸詰が最前線で食せるというのですか!」
イデアで自衛隊の缶飯、「赤飯」「ウインナー」「たくあん」を生み出す。御使の力を間近で見た会場の方々は驚嘆する。
「缶をそのまま湯煎すれば温めて食す事も出来て、食べた後も缶はそのまま器になり、煮沸して水を飲めたり、油を入れて簡易照明や暖房にもなるという、こういった災害時にも役立つ保存法なのです。」
缶詰を缶切りで開け、カシマに手渡し、検分してもらう。目が少年の様に輝いている。こんな輝きを大人の男性で見たのはプロレス好きの議長にプロレス団体の50周年くじのクリアファイルをあげた時以来だな。
「穀物も肉も野菜もこのような‥‥この密閉の方法はどの様に!」
「すみません。私も取り扱わせて貰っていただけで製造法までは把握していないんです。こちらの世界では魔法で出来る部分もありましょうから今回の検分から製造に着手し、有事の備えとして頂けたら幸いです。今回の復旧に当たって頂くせめてもの御礼になれば。」
「多大なる知恵とご配慮!まことに感謝致します!国を代表して御礼を申し上げます!」
カシマさんが優秀で缶詰の汎用性をいち早く察してくれたのだろう。人目憚らず目を輝かせて笑顔で礼を述べる様がそれを示している。軍から民間に当てられる様になる技術というのは枚挙に暇がない。それは技術侵略を引き起こす可能性を秘めているが、この缶詰の技術は広まっても良いだろうと今回は提示させて頂いた。進捗状況などを頂ける約束をし、アデイで缶詰を消す。
カシマさんは少々名残惜しそうだった。
カシマさんが離れ、俺たちも少し食事を頂くことにする。バイキング形式で様々な料理が出ているが、調味料文化の乏しさもあり、味は少し単調だ。内地でもあるから塩も少ないのかも知れない。
街がこの状況であるから贅沢は望めないが今度の研究が上手くいけばここに新たな味を提供出来るはずだ。その目標を果たす原動力として、今この味を文字通り噛み締めておこう。
「お楽しみ頂いておりますかな?」
パープル神官とシキブ様がお目見えになった。慌てて口に含んでいた物を飲み込み、向き直る。
「そんなに慌てなくとも大丈夫ですよw」
シキブ様は口に手を当てて笑い出す。食べ物を口に含んでリスみたいになってた顔を見たのだろう。大量に、一気に飲み干すのは自衛隊の食べ方みたいなもんだけど中々治んないんだよね。
「ええ。ご婦人方とその親御さんの縁談持ちかけなど内容が様々で退屈はしませんでした。縁談よりも演壇で講話する方が幾分マシかと思えるほどでした。」
「はっはっはっwそれは分かる気がしますな。騎士から神官になった時に色々と考えさせられた頃を思い出します。あー剣振ってた方が落ち着くなーと思ったものです。」
それな。分かり身が過ぎる。
「ゴシマのカシマ代表に先程の缶詰の技法をお教えしました。今回の復旧に当たる私からの御礼として渡しましたが、こちらにもベルレ・ガルアでも情報提供はさせて頂きます。」
「お気遣いと公平さに感謝を。私のお友達も先程の缶詰を生み出す様に驚いておりましたし、本当に人の心を掴むのが早いですわ。」
「そう思われるのは、私が演技や芸能関係も行なっており、こういう場では先程控え室で使っていたこちらの札を使った手品や体を使う玩具で芸を披露するなんて事も可能なぐらい鍛えたからでしょう。それらをやる事によって同時に相手の気を引く能力が結果的に培われたという副産物のようなものですよ。」
先程のトランプとヨーヨーを生み出し、そう説明した。
「何でもやりすぎでは?w」
シキブ様は笑いっぱなしだ。
「よく言われます。やりすぎついでに気分も雰囲気も良くなっているので、一つこの場でやらせて頂けますか?」
ニコッと笑い、その笑顔からシキブ様は何かを閃いたのか勘付いたのか口を開く。
「なるほど、それが御使様の気分転換となるのですね。でしたら是非もありません。どうぞ中央で。」
「ありがとうございます。少し広めに離れてご観覧下さい。」
音楽隊の方にアップテンポな演奏をお願いし、イデアで1番使い慣れたヨーヨーを生み出し、十数年ぶりのヨーヨーのフリースタイル演技を行う事となった。会食の参加者達が周りを囲み、ヨーヨーの説明をする。止まっているように見えるが実際は回っているとか引いたり引っ掛けたら手元に戻ってくるとかの基本原理を理解いただいた所で音楽隊に合図を出し演技スタート。
一個のヨーヨーで行う1Aではブランコなど分かりやすい技を披露して心を掴む。糸の上に乗せるトラピーズ系、円を描くループ系を織り交ぜて曲に合わせてトリックを決める。変わって二個のヨーヨーで行う2Aでは当時の大会でしか認定していなかった1番上のランクの技や、左右の手がそれぞれ違うトリックをするという単純明快で難易度の高さも伝わるトリックを織り交ぜる。トリックが決まる度に歓声が上がってくれてパフォーマー冥利に尽きる気分を久々に味わえた。
「ご主人、楽しそうっすねー。」
「本来こういう事をなさるのがカナリ様の本懐なのでしょうね。他人を楽しませる。それが好きなのがよく分かります。」
「守りたいっすね。この笑顔。」
「ええ本当に。」
チャルとイセの2人は二つのヨーヨーが天井に舞い、スーツのポケットにそのまま収まったのを終わりの合図と察し、会場内の他の誰よりも大きな拍手をカナリに送った。




