ツインテール縦ロールと毒出し
「シー‥久しぶりね。」
おや?何やらイセが心無しか元気が無くなった?どんな関係の2人なんだ?
その金髪のツインテール縦ロールの少女を見て明らかに気を落としたイセ。というか実在したのかツインテール縦ロールって。異世界だけど。
「お姉様もさぞご活躍をされた事でしょう!その勇姿を拝見出来ず誠に残念ですわ!」
うわー初対面の時のイセの勢いと張り合うくらいのオーラというか気合いというか。
「あー‥イセ様こちらは?」
「シー・ザ・カイ。ゴシマの魔法学校の主席で私とは人間族3カ国の魔法学会で一年から一緒でしたの‥。今回の戦で来るとは思っていたのですが‥。」
明らかにげんなりしている。何か嫌な思い出でもあるのだろうか?
「シー・ザ・カイです!貴方が御使様ですね!お姉様の護衛で来られたとか!今後ともお姉様をよろしくお願いします!」
「ああはい。加成剛志といいます。それはもちろん。」
そのままずいっと顔を近づけてくるシー。
「くれぐれもお姉様を泣かせることのないように!」
おやおやイセにだいぶご執心な事で。
「はい出来る限り。シーさんはイセ様とはどんな学校生活を?」
ちょいと世間話を混ぜて探ってみる。
「それはもう!魔法学会でお会いする度にイセ様の魔法でボコボコにやられてました!」
「シー!それは!」
「攻撃魔法でも回復魔法でも空間補助魔法でもイセ様との能力の差を思い知らされる毎日でしたわ!」
イセの能力はやはり秀でたものなんだなと分かる反面、実際食らってきた人間の話にイセの顔は焦る一方だ。
「教養棟の一室を吹っ飛ばしたり、私との戦闘訓練で校庭を全て沼に変えて私を沈めたり、闇魔法の暴走で暗黒化、光魔法が収まらず全員目の治療を受けるなどなど講師は怒るどころか怯えてすらいましたの!」
武勇伝に事欠かないなぁ。
「シー!その話はやめなさい!カナリ様にお聞かせする様な話ではありません!」
「えー!あれだけ男子学生のアプローチを悉く粉砕してきたお姉様が随分とご執心ですこと!そんなにこのお方が魅力的ですの!?」
「当たり前です!私はこの方の未来の伴侶となるべく今は暮らしているのです!」
「まぁ!そんなにお姉様の心を射止める様な殿方には見えませんが!」
「失礼ですわよ!シー!」
イセは魔法でシーを捕縛しようと光の輪を投げようとする。それは瞬時に闇の輪をぶつけられた事によりかき消され、消滅する。
「私も腕を上げておりましてよ!お姉様!」
広い廊下で魔法バトルが急遽始まる。
「そこまで。」
それを食い止めたのは先程の式典でゴシマの援軍代表として参列していた男だった。2人は魔法を引っ込め、押し黙る。男は俺に向き直り、一礼する。
「シー様の非礼なお言葉、平にご容赦下さい。私、ゴシマの援軍代表、イブースという都市で第二大隊長を務めております、カシマ・アントラと申します。此度は到着が遅れ、ご活躍に御助力出来ず、重ねてお詫びを申し上げます。」
「ミヤーザのベルレ・ガルアから参りました。ベルレ・トーチ神からこの世界に派遣された加成剛志と申します。こちらこそこれからの復旧に尽力していただける事、感謝致します。戦を止めるよりも復旧の方が遥かに大変ですので。」
「確かに。その見解をお持ちということはかなり経験が豊富な様だ。異世界の話も伺いたいですし、夜の会食でまた少し語らいをしたいと存じますがよろしいですか?」
「ええ構いません。私もゴシマの状況などお聞きしたい事がありますのでありがたい。」
「了承ありがとうございます。夜を楽しみにしております。では、復旧の任務の方へ行かせて頂きます。シー様!行きますよ!」
こうして騒がしいお嬢様と大隊長さんはその場を後にした。イセは俺の服を引いて
「はしたない女だと思われました?」
心配そうに上目遣いで訴えてきた。
「ん?そんな事は思ってません。能力が秀でてたんだなぁとか、あと男子に人気があったんだとか思ったぐらいです。」
「だっ男子に人気があったとしても!私がお慕いしているのはカナリ様ですからね!?」
慌ててイセは念を押してくる。まっすぐ好意を向けられるのは悪い気はしないが同世代の異性との価値観を分かち合う大切さも知って欲しい所ではある。あと後ろにいるハルエさんがめっちゃ微笑んでる。まるで「なんだこの可愛い生き物はwww」とでも思っているかの様だ。思ってるんだろうな。とりあえず控え室に戻り、式典の空気や先程からのやりとりのクールダウンと行こう。
「式典お疲れ様でした。何かお飲み物などお持ちしますか?」
「ではお言葉に甘えてお水を頂けますか?」
「かしこまりました。」
ソファーに腰掛け、ユノ・マチさんに全員分のお水を頂き、一気に飲み干す。ああいう式典の場の緊張は慣れているが精神的消費が激しい。
「ふぅー。ありがとうございました。」
コップを片付けようと手を伸ばしたユノ・マチさんの手が俺の手の甲とぶつかる。
「あっ!すみません!私の指先当たりましたよね!お怪我はありませんか!?」
「ええ大丈夫です。かすった程度ですので。」
「それでも申し訳ありません!」
と言って両手で俺の左手を覆うように握る。その行動にイセがムッと反応する。
「ユノさん?カナリ様は大丈夫と言われたようですが?」
「はっ!失礼しました!」
顔を赤らめながら慌てて手を離す。成人はしてそうだけど案外初心なのか? でもイセはまるで番犬だな。やれやれだぜ。
「えっ!?」
突然ユノ・マチさんが自分の手を見て驚きの声を上げて再び俺の手を握ってきた。
「ちょっと!言ったそばから!」
イセも声を上げたがその手の状態を見て表情が引き攣る。その手は4つの豆が潰れて溜まっていた黒い血が溢れていた。
「あーこれはさっき式典で緊張して握っちゃって潰れちゃったみたい。ユノさんの手を汚しちゃってすみません。」
「それどころではないでしょう!」
小太刀二刀流で斬り合い、包丁やデカい鍋を握り続けた結果だ。自分としては自衛隊の日本武道館で演奏する和太鼓チームで散々血豆作って潰してそれでも整体のケアをして回ったり、徒手格闘や銃剣格闘の錬成で潰したり、農作業など経験があり、動じる事は無いけども、女性陣からしたらそら恐怖か。
「調理中に破れたらと冷や冷やしてたんだよね。今朝の朝食配りを代わって貰えて幸運だった。」
「何ですぐ言わないんすか!カナリ、ハンズ、スカーレ、リカーバ!」
緑色の癒しの光をぷんぷんと怒りながら俺の両掌に当てるチャル。
「本当ですわ!少しは自分を労わって下さいまし!」
イセもそしてユノさんも(?)自分の手をハンカチで拭きながら口を尖らせている。
えー。
「さぁ治ったっすよ!」
しばらくして治してもらった手を確認するようにグーとパーを繰り返す。
「うん。ありがとうチャル。」
「ご主人は自分の身体をもっと考えて欲しいっす!」
「正直そんな事は11歳の時に考えるのをやめたんだけどね。」
「えぇ!?それは何故!?」
今日何度目かのユノさんの驚きの声。
「‥川に身を投げたんだよ。両親が忙しく産まれたばかりの弟の世話を上の兄弟が手伝わないままこなしていたのに学校の担任はお前より産まれたばかりの弟の方が偉いとか抜かしてきたり、親の離婚の時には実の母親からあんな不器用な子要らんわとか。奇跡的に助かったけどそこからかな。その後もいくら鍛えて活動しても、地獄の学生時代を生き抜いた戦友の同級生も救えなかった人間として客観視した今、足りない自分自身の機微は後回しにしがちだね。そんな自分よりも他人を助ける方が行動が前向きで良いしその為に時間を使いたい。」
チャルもイセもハルエさんも目を閉じて歯噛みしている。一方ユノさんはそのまま口に手を当てて泣き始めた。
「あー‥すみません。こんな事話す気ではなかったのに。やはり少し疲れているみたいです。外の空気吸ってきます。チャルごめん。ユノさんをよろしく。」
「‥了解っす。」
そうして部屋を後にし、俺は屋敷の屋上へ出た。そこにいたのは‥
「あら、先程はどうも。」
その先程とは様子の違うツインテール縦ロールのお嬢様だった。




