シスコンと太もも
「イセちゃんが気に入るわけね。これだけの事をしてこんな笑顔見せられたらイチコロだわ。」
口調が素になってる所見ると本心からなのだなとわかる。ギャップが激しいけど。
「そんなに自分の顔は気に入ってませんけどね。」
「ご謙遜を。旦那といなかったら私が貰っちゃうぐらいの勢いよ?」
「恐れ多いですわそれ。」
「あら残念。振られた所で私はお邪魔になりそうだから退散するわ。」
そういうと向こうからイセ・ハルエのコンビがやって来た。
「伯母様、お疲れ様でございます。」
「あらー私はただ蔵を開く許可を出しただけよ。また明日正式な式典を開くからそこへ来てね。宿は中央区の所よ。あとイセちゃん。」
「はい?」
シキブはイセの肩に手を置き、耳打ちする。
「(ボソっ)彼から目を離しちゃダメよ?いろんな意味でね。」
「そうですね。気をつけますわ伯母様。」
よろしい。と言ってシキブは現場を後にし、屋敷に戻って行った。
「お二人ともお疲れ様でした。特にハルエさんは揚げ物がっつりやらせちゃって申し訳ない。」
「いえ。お嬢様を守って下さったのですから、これぐらい当然です。作業自体は私としてはあの醜態を重ねた自分の心を落ち着かせるのにも役立ったと思っているので気になさらないで下さい。」
「あの黒龍に吹っ飛ばされたと聞きました。俺がもう少し早ければ‥ 傷の方はどうですか?」
「チャルさんの回復魔法のおかげで2人とも大丈夫です。」
「メキさんの方はどうでしたか?」
2人は少しムッとした態度で答える。
「チャルさんの監視と護衛により、他の人に見つからず宿の個室の方に。相当感情の起伏があったのかあの後倒れ、まだ目が覚めませんわ。何故敵である彼女を従者にされたんですの?」
「ああそれについては利用価値が高いと思った事が1つですね。」
「利用価値、ですか?」
「はい。単純な戦闘力、軍団長の外交での立ち回りと縁故の数、黒龍を召喚出来る能力、ガサへ交渉に行く際の道案内と色々とね。」
本来、人を利用という形で言葉にするのは嫌なのだが、今回は敢えてそれを口にした。そうする事で彼女と遺恨の残るお二人とは俺から彼女に対しての接し方も立場も違う事をアピール出来ると思った。
「あと、復讐が終わった彼女の力の向け先を与えてあげたかった。一族がいるとはいえ、復讐という共通目標が成されてバラバラの状態を彼女1人でまとめ上げるのは厳しいと思ったからですね。その力がこちらで発揮して貰えるように取り計らった次第です。お互いに兄弟を思って生きてきた者同士の情けっていうのもあるけど。」
「そうですか。理解しました。てっきりカナリ様の好みの女性だからかと思って不安でしたの。」
あらま、嫉妬でしたか。
「流石にあれだけ斬り合った関係からそういうのに心は揺れないかなぁ。お二人ともやり合ってお互いに思う所出来ちゃってるでしょう?その状態で従者とする事には申し訳ないと思ってますが恋慕ではないのでその点はご安心を。何かあれば言って下さい。」
「そうですね。お嬢様に手を上げた不届者で私も不覚を取りましたので何処かのタイミングできっちりと清算させて頂きたく思います。その溜飲を自らの手で下げる機会を残して下さり感謝致します。」
うん、感情を表に出さないハルエさんだけど眉間にめっちゃ皺よってるね。そうなるよね。
「そこは何時なりとも機会があればということで。とりあえずそろそろ1人お客が来ると思うので待ちましょうか。」
「お客ですか?こんな時に?」
「おっ噂をすれば。」
暗闇から羽ばたく音が聞こえ、1人の青年が俺たちの前に降り立つ。
「ド・メキ軍隊長の個人特攻の後に軍を指揮されていた方ですね。お待ちしてました。」
「伺う事は見抜かれておりましたか、随分察しの良いお方だ。いかにも、今回のガサ軍歩兵隊長のホタと申します。軍隊長とは同族の従姉弟にあたります。」
「カナリと申します。早速ですが様子から軍隊長の奪還という目的ではないと思ってよろしいですか?」
「はい。私は一族の者としてここに来ました。一緒に軍に入り、ずっとメキ姉さんの苦労を見てきまして‥‥その楔から解放して下さった事、感謝しています。」
男は頭を下げる。
「こちらの都合で従者としてしまったのは申し訳ありません。ですが戦の成否を決める一騎打ちの後、お命を守るにはああ言うしかなく‥。」
「理解しております。それに我ら竜人族にとっても、ベルレ神は信仰の対象です。その御使様の下へ降るのなら安心できる。一族の安寧も枷はあれど便宜を図ってくれましたし、あとは健やかにメキ姉さんが生きる事こそ、先に逝ったサン・ノウ姉さんの喜ぶ事でしょう。私からはそのお願いをしに来ました。」
ホタ歩兵長はもう一度頭を下げて俺の手を取り、願った。
「どうかメキ姉さんの事をよろしくお願いします!素になるとガサツや横柄な態度が出てしまうのが玉に瑕なだけで根は誰かの為に動きたい、力を使いたいと思う優しい心根があるのです!どうか御使様の導きでメキ姉さんに道を示して頂けませんか!」
いやーなんか欠点もよく分かってらっしゃる。この人も苦労したんだろうなぁ。
「私はそのつもりです。異世界に来て間もない私にはまだまだやる事も手伝ってもらわねばならぬ事もあります。そして私の元の世界での信条は「笑顔の継続」です。その道程を共にする中でメキさんに笑顔になって貰えるよう努める所存ですよ。」
ホタ歩兵長は目に涙を溜めてありがとうございますと礼を言った。
「その言葉が聞けて良かった。そちらの御二方にも姉との戦内での接触により、遺恨があると思います。姉に代わって謝罪します。どうか戦で敵同士であった故の事として御容赦願えませんか?」
「私はカナリ様から説明を受けておりますし、カナリ様の為に動いて下さるのなら良いですわ。あれが戦。というのも学べましたし、戦が終われば次は復興へ目を向けるのが早いほど良いというのも分かっています。そこに力を貸してくれる存在を無碍にする気はありません‥ただ‥」
およそ15歳の少女が出す者でない黒いオーラを出しながらイセは続ける。
「カナリ様の温情を無碍にする、また、再び私たちに仇名すことあれば私が制裁を加えますのでそのつもりで。」
ホタ歩兵長はどうかお手柔らかにと言わんばかりの苦笑いで「はい‥。」と答える。姉ならやっちゃいそうと思ってますねこれ。
「と言うわけでメキさんにはこちらで働いてもらう事にします。ガサへ戻られる際にあちらの今回の首謀者の方へ私が出向く事をお伝えくださいますか?今回の侵略目的である問題の解決に努めるため話をしたいと。そうすれば貴方に責任が及ぶ事もないでしょう。」
「何から何まで‥ありがとうございます。そのようにお伝えいたします。こちらからも伝言を宜しいですか?」
「伺います。」
「私がガサ周辺の一族はこちらに向かわせる事、それと、これからは一族よりも自分のために力を使って欲しいと。」
「メキお姉ちゃんへって事で。了解しました。」
「んな!?」
真剣な頼みにいきなりボケられて変な声が出てしまったホタ歩兵長。可愛い。
「いえ、随分と2人のお姉さんを慕われているようなのでちょいとね。」
「お戯を‥本気で驚きましたよ‥。」
「メキさんにもあの夜言いましたが、お互いに兄弟を思う者としてこれぐらい砕けた関係で接し合いましょうって事で。」
「承知いたしました。」
あははと2人で笑い合ってホタ歩兵長を見送った。
「兄弟がいる者同士通じ合うところがあるということでしょうか。私には兄弟はいませんのでなんだか羨ましい限りです。」
イセはちょっと寂しそうに言った。
「いい事ばかりではありませんが、まあいる方が充実はあるかも知れません。ですが一人っ子も親の愛情を一点に受けられる利点もありますからどちらが良いと言う事でもない気はしています。」
「そんなものでしょうか‥。」
「隣の芝は青く見えるというこちらの世界での言葉もあります。優劣をわざわざつける必要はないのかも知れません。」
ふう、と一息ついたら、一気に足の力が抜けた。
「うおっとぉい!」
股を開いて踏ん張り、なんとか倒れる事は防ぐ。
「カナリ様!」
「いやースネーターの唐揚げで少し回復してた分ももう消費しちゃったみたいですね。少し座ります。」
当然だ。ここまで魔法で強化した徒歩、射撃に斬り合い、政治的やりとりをし、これだけの人の食事を作り上げたのだ。倒れない方がおかしい。そう思ったイセは背中に手をやり、平らで座りやすそうな瓦礫の上に2人で腰掛ける。
「やはり昔ほど体力は無くなってるなぁ。」
「これだけ動けていて無くなったと言えるのがおかしいですわ!どれだけ動き続けてたんですの!」
「演習とか災害派遣で4夜5日かなぁ。3日目とか妖精が見えるんだよね。」
「もう見なくて良いのです!」
「ははっ‥。異世界だし実物いそうだしね。」
「そういうことではなく!」
…………………
途端にカナリの反応が無くなる。
「カナリ様?」
コテン。
「ッ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」
意識を失ったカナリ様の頭が私の太ももに!!!!?
「かっ‥。」
感無量ですわーーーーーーーーーーーーー♪♪♪
イセは天を仰ぎ、涙を流して至福の時間を味わい、それを見ていたハルエは御二方にはこれぐらいのご褒美があって然るべきと思った。
「ごゆっくり。(ニコッ)」




