第五話 愛を語る吟遊詩人。
♠︎
「街まではまだかかるか……」
そう呟いたのと同時に、フォルのお腹がすごい音を立てて鳴った。
「……こんな時でも腹は減るんだな」
自嘲気味に笑いながら、近くにあった切り株へと腰掛ける。
ルディアから渡された包みを開くと、匂いだけで涎が垂れそうになった。
——やはりスタミナバーガーか。
ルディアは本当によく人を見ている。
彼女の前で、これが好物だと言ったことはない。
しかし魔王討伐に向けて何か進展があると、必ずこれを作ってくれていた。
「……敵わないな、本当に」
大口でかぶりつくと、本来は硬くて食べづらいはずの魔獣肉から旨味が溢れる。
ルディアは工夫を凝らし、旅の中でも食事を楽しめるように常に気を配ってくれていた。
——フォル、お肉ばかりではダメですよ。
きちんと野菜も食べないと、勇者パーティとして示しがつきません。
「……メデリには、好き嫌いするなって叱られたな」
——いいじゃんなー! 肉の方が美味いし!!
ルディア、おかわりあるか!? フォルも早く食わねぇとなくなるぞー!!
「……食べすぎなんだよ、アルデオは」
一緒に過ごしたのは、たったの三ヶ月。
それなのに、これまで過ごしてきたどの時間よりも濃くて——
「楽しかった……」
フォルは深いため息をつくと、再びバーガーにかぶりついた。
*
「さてと、腹も膨れたし」
いつまでもしんみりしているわけにはいかない。
僕は勇者だ。世界を護る義務がある。
残りのバーガーを包みへとしまい、出発しようとした時——。
「やあやあ旅のお方。何か困っていることはないかい?」
木に手をつきながらポーズを決める、気取った男に声をかけられた。
「ありがとう、特にないからしつれ——」
「いやいや!! 何かあるだろう!? 何か!! ね!?」
さっきまでの余裕はどこへ行ったのか、縋り付くような目でこちらを見てくる。
ここにいるということは、彼も旅をしているのだろう。
何故、シャツに羽根が付いた格好で旅をしているのかは不明だが……。
「キミの方が困っているように見えるけれど……」
「まさか! この私が困っているなんてありえない!」
「そうか。それなら——」
「あー!! でもほら、どうしても一緒に行きたいって言うなら、仕方がないから着いていってあげてもいいよ?」
なんだかクセの強い人物と出会ってしまった……。
しかし、無視して通り過ぎるわけにもいかない。
仮にも自分は勇者なのだから、人々に平等であるべきだ。
「……街に向かっているところだが、キミもよければ一緒に来るかい?」
「ま、まぁ? どうしてもって言うなら着いていってあげてもいいよ?」
「……なら僕は先に——」
「あー!! ちょうど同じ方向だったなぁ!! 旅は人数も多い方がいいし!? ちょうどいいなー!!」
「……じゃあ行こうか」
こうして、フォルは仲間を手に入れた。
*
「へぇー、それで勇者パーティは解散したわけか」
「解散、というか向こうは三人でいるだろうから」
「じゃあやっぱり追放!?」
「いや、追放というよりは送り出されたと言うか……」
「どちらにしても、フォルは今一人ってことだね! 私に会えてラッキーだな、勇者様!」
一緒に街へと行くことになったこの男、名はレウィスというらしい。
吟遊詩人で、旅をしながら愛を語っているのだと教えてくれた。
そして僕が勇者だと知ってから、少し態度が変わった気がする……。
「それで、レウィスはなんであんなところに?」
「聞いてくれるのか!? 相棒よ!!」
「いや、相棒になったわけでは……」
「あれはそう、三日前のこと——」
背負っていた竪琴を取り出すと、弾き語りが始まった。
「――つまり、キミは追放されたんだね?」
「いや端折り過ぎね!? こんなに語ったのに拾うのそこなのね!?」
ぐわっと顔を近づけながら、レウィスは僕に訴える。
三十分ほど話を聞いたが、理由が理由なだけに追放されたとしか思えない。
「パーティのお金を使ってしまって、追い出されたんだろう?」
「いや使っちゃったというか、必要経費だからね!?」
「酒場で女の子にお金を渡すことが?」
「……ビックニュースだって言うから」
人差し指と人差し指を合わせ、もじもじしながら彼は答える。
たぶん、悪い人ではないのだろう。……節操がないだけで。
「とりあえず、街までは一緒に行こう。そこからはまた考えればいいし」
「さすがだ相棒! もしこの先も私の力が必要なら、一緒に行ってもいいからね!」
「ありがとう、考えておくよ」
正直、一人で魔王討伐は難しいだろう。
しかし、彼がその使命に燃えているようにはどうしても見えない。
そんな人物を連れていって、また途中で離脱でもされたら——。
「なんか難しいこと考えてる?」
「い、いや……そういうわけではないよ」
「もし相棒が望んでくれるなら、私は魔王討伐でも何でも手伝うからね」
「レウィス……」
僕は何か勘違いをしていたのかもしれない。
人は見た目や言動で判断すべきではないんだ。
彼は軽薄そうに見えるが、こうしてきちんと宣言してくれている——。
「ありがとう、キミが一緒だなんて頼もしいよ」
「てことは……!」
「うん。まずは街で魔王の情報を集めよう。次の行き先はそれから考えようか」
「相棒……!!」
「く、苦しいから離れてくれるかい……?」
ガバッとレウィスに抱きつかれ、その勢いで首が絞まった。
それに、シャツに付いている羽根が顔に当たってこそばゆい……。
彼は僕から離れると、少し真剣な目つきになった。
「なぁ、相棒。聞いてほしいことがあるんだけど……」
「どうしたんだい?」
「私のこと捨てたりしない……?」
「今更そんなことはしないさ」
僕たちは仲間で、新たな勇者パーティだ。
簡単に切り捨てるようなことは絶対にしない。
「実は私、街に借金あるんだよね……」
「は?」
仲間になったことを、一瞬で後悔した。
仲間が増えたようです。




