第十三話 努力は必ず報われる?
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「レシ! ほらもっと頑張れ!」
「わ、わかってるよ……!」
「お! まだ喋る元気あるなら10回追加な!」
「アルデオ、あまりレシをいじめないでください」
「いじめてねーよ! 修行だ修行!」
……全く、弟子ができたからって張り切り過ぎなのですよ。
昼ごはんを食べ終わり、一休みした午後。
アルデオはレシの、私はファファの指導に入る。
「うーん、うまくできないなぁ……」
「ファファ、もう少し魔力を薄くしてみてください」
「薄く……」
真剣な顔で、少女は水の入った桶を見つめている。
今ファファに教えているのは、魔力を使って水を包む基本魔法だ。
これができると、水がない地域でも格段に旅がしやすくなる。
応用すれば火を包むことで攻撃もできるし、土や砂を包むことで目眩しができるようにもなる。
基本でありながら重宝する、万能魔法の一つだ。
「メデリ先生、できない……」
「まだ始めてから五日ですよ? そんな簡単にできるものではありません」
「でも、基本の魔法なんでしょう?」
「はい。でも、基本だから簡単というわけではないのです」
「そうなの?」
くりくりとした目を見開きながら、私を見上げるファファ。
希望に満ち溢れながらも、不安そうな顔をしている。
「はい。基本が何よりも大切なのです。アルデオたちを見てください」
「ずっと腹筋してる……」
「そうでしょう? アルデオは戦士ですから、普段は剣や斧を使います。でも、それらを上手く扱うには、扱える身体を作る必要があるのです」
「魔法も同じ?」
「同じです。強い魔法を使うためには、強い魔法を使えるだけの魔力コントロールができなければいけません」
……だからこそ、私は魔法使いにはなれなかった。
でもだからといって、僧侶という職業が嫌いなわけでもない。
憧れていた職業ではないのだけれど。
「どうしたら、魔力コントロールは上手になるの?」
「たくさんの努力……と言いたいところですが、それだけではないのが現実です」
「努力してもダメなの?」
首を傾げるファファの頭に手を置くと、私は一つ深呼吸をしてから伝えた。
「魔法使いに憧れた、とある女の子の話をしましょうか」
*
「先生、私いつか先生みたいな立派な魔法使いになるの!」
「それは嬉しいねぇ。でもね、メデリ。あたしはあんたが元気に育ってくれたらそれでいいのよ」
「いや! 先生が私を助けてくれたみたいに、今度は私が先生を助けるの!」
「全く……。それじゃあ楽しみにしてるからね」
「うん! だからずっと一緒にいてね!」
「はいはい、あんたは本当に甘えん坊だねぇ」
孤児院を経営していた、大好きなテラ先生。
親を知らない私にとって、彼女は親であり師匠でもあった。
「メデリ、もっと魔力を薄くするんだよ」
「こ、こう……?」
「もっとだよ。これはね、基本中の基本魔法なんだ。だけど上手く扱えない人の方が多い。だから今のうちにしっかり学ぶんだよ」
「基本なのに、できない人が多いの?」
「基本だから、極めない人が多いんだ。使えるのと、扱えるのは違うんだよ」
先生はよく、そう言っていた。
でもその頃の私は、その意味がよくわかっていなかったのだけれど。
大好きな先生が魔女だと疑われ、連れていかれそうになったのはそのすぐ後だ。
私は先生を助けたい一心で、覚えたての魔法を使った。
魔力を薄くして、包み込んで助けるつもりだった。
大好きなテラ先生に教えてもらった、基本の魔法で。
——だけど、私にはそんな力はなかった。
「子供に魔法を教えるなんて、やっぱり魔女だ!」
「上手くコントロールもできない子供に教えて、兵器にするつもりなんだ!」
「あの院は兵器を生み出している! 燃やせ燃やせ!!」
そうして何人の子が、家族が犠牲になったのだろう。
先生は私だけを魔法で包むと、自ら燃え盛る建物へと姿を消した。
……その後私は、他の孤児院へと引き取られた。
けれど、もう知っている子は誰もいない。家族はいない。
先生がいなくなってから、苦手だった魔力コントロールがさらにできなくなった。
——先生、私いつか立派な魔法使いになるの!
「なれない……私にはできない……。できないよ、先生……!!」
——あたしはあんたが元気に育ってくれたらそれでいいのよ。
「私が元気に……。そうだ、魔力がコントロールできなくても、これなら……。これなら私にも極められるかもしれない……」
*
「それで? その女の子はどうしたの?」
ファファが私を見上げる。
「その子は、たくさん努力しました。誰よりも基本魔法を極め、水以外も包めるようになりました。でも、魔法使いにはなれませんでした」
「どうして……? 頑張ったんでしょう?」
「その子としては、とても頑張ったと思います。でも、その子が百回努力してできることが、一回でできてしまう人もいるのです」
「そんなの……ひどいよ……」
今にも泣き出しそうな顔で、少女は俯く。
そんな優しい子の頭を撫でながら、私は言葉を続けた。
「でも、おかげでその子は別の道——僧侶という道を歩き始めました」
「僧侶?」
「はい。誰かを元気にすることが、その子の新たな目標になったのです」
「……その子は、魔法使いになりたかったんでしょう? 僧侶でもよかったの?」
「そうですね、確かに魔法使いになりたかった。でも僧侶になったから、見える景色もあるのですよ」
——ねぇ、メデリ。
あなたは僧侶になったことを後悔していますか?
もし魔法使いになっていたら、今の私はいませんでしたよ。
不思議そうに首を傾げるファファの頭を、私は再び優しく撫でた。
夢が叶えられないのは努力不足が原因だ。
そう言う人もいるでしょう。
でもおやまは、努力だけでは埋められないと思っています。




