第十二話 使命って、やりたいこと?
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「あーあ、あのふかふかなベッドが恋しいなぁ……」
「そうだな、ご飯も美味しかったし」
「でしょう!? あのお店は本当に料理が美味しいんだよ!」
結局あの街では、魔王に関する情報は何一つ得られなかった。
得られたものといえば——
「レウィスは女にだらしないんだよなぁ」
「彼女にも逃げられたしな」
「でも意外だったよ。本当に勇者パーティに選ばれてたなんて」
「な、嘘だと思ってたわ」
という、なんとも情けない情報だけである。
「相棒も気に入ってくれてよかったー!」
「豆のスープが絶品だったな」
「だよね! 丁寧に漉しているからなめらかなんだよー! また絶対行こうね!」
「うん、また絶対に行こう」
そんな約束をしてから気づいた。
前のメンバーと、絶対なんて約束をしたことがなかったことに――。
僕が無意識のうちに、みんなに覚悟を決めさせてしまっていた?
魔王を討伐できるなら、僕は自分の命なんて惜しくはない。
でも、みんなには夢があるようだった。
この旅で、散ってもいいと思っていたのは僕だけだった……?
「どうしたの、相棒」
「いや、なんでも——」
そう、言いかけて口を噤む。
また同じことを繰り返すのか? と、頭の中で声が響いた。
*
「……僕が、みんなに背負わせていたんだろうかと思ってね」
「急にそんなこと言うなんて、何かあった?」
「約束なんて、したことがなかったんだ」
「それはどうして?」
どうして……。どうしてだろうか。
「……できないことはすべきじゃないと思っていたのかもしれない」
「できない、って言うと?」
「僕は勇者だ。その使命を全うするためなら、命なんて惜しくない。だから、次があるかなんて考えたことがなかった」
こんなことを言ったのはレウィスが初めてだ。
前の三人とも、そこそこいい関係は気づけていたはずなのに。
でもこんなこと、絶対に言えなかった。
「ねぇ、相棒……。『命なんて惜しくない』なんて、もう二度と言わないで」
「でも僕は勇者だから。みんなを護る使命が——」
「勇者だから、使命だから……。だからって、相棒が死んでいいわけじゃないんだよ!? もっと命を大事にしてよ!」
「大事にって、それだと僕は何のために……」
——魔王を討伐し、世界の平和を護る。
それ以外に、僕には何の目標もない。
命を大事にと言われても、僕はどうしたらいい?
たとえ共倒れになったとしても、魔王を倒せたら僕の使命は果たされる。
むしろ命を優先していたら、好機を逃すのではないか?
——それって、フォル自身がやりたいことなの?
なんでこんな時に、ルディアの言葉を思い出すのだろう。
そんな風に考えたことがないから、わからないんだ……。
——それは、自らの夢を諦める理由になりますか?
メデリ、キミは本当は何をしたかったんだ?
三ヶ月も一緒に旅をしてきたのに、僕はそれを知ろうともしなかった。
——魔王討伐に行きたいのが、お前だけだってことに。
アルデオ、僕はみんなも同じ気持ちでいると思ってた。
いや、きっとそう信じたかったんだ。
でも、三人にもあったんだろうな。
僕が魔王討伐を使命に感じているように、それぞれ成し遂げたいと思うことが……。
「相棒、急に怒鳴ったりしてごめんね……」
「いや、いいんだよ。でも……」
「でも?」
「わからないんだ、魔王討伐以外に何をすればいいのか……。旅を続け、情報を集めて魔王城へ向かう。それ以外に、僕は何をすればいい?」
こんなこと、きっと他人に教えてもらうことじゃない。
みんな自分自身で見つけていることなんだ。
でも、僕はわからない……。
この命は、勇者は、魔王を討伐するためにあるものだから——。
「それならさ、私と一緒に探そうよ」
「探す……」
「うん! また美味しいご飯食べて、ふかふかのベッドで眠る。そしたらやりたいこと、見つかるかもよ?」
「そう、だろうか……」
「きっとそうだよ! だって、また絶対に豆のスープを飲みに行くって約束したでしょう?」
……そうだ。
僕はさっき初めて、またこれがしたい。
そう思ったんだ。
「これが……やりたいこと……」
「みんなからしたらすごく小さなやりたいことだけどね! 最初はそれでいいんじゃないかな?」
「これが……やりたいことか」
「実感湧いてきた? また美味しいスープを飲むために、魔王倒して世界を平和に導かないとね!」
レウィスがグッと親指を立て、ウインクをする。
——フォルってさ、夢ある?
あの時は、その言葉の意味がわからなかった。
世界の平和とみんなを護ること以外、やることなんてないと思っていた。
「……そうか。また、美味しい豆のスープを飲むために戦うのか」
「勇者様なのに、相棒のやりたいことは慎ましいね!」
「し、仕方ないだろう? わからないんだからさ……」
「これから見つけていけばいいんだよ! そうでしょう?」
「そうだな、レウィスありがとう」
「相棒のためなら喜んで! だよ!」
きっと彼は、正式な勇者パーティとして選ばれることはなかったと思う。
それでも、今の僕に必要なのは間違いなくレウィスだったと、そう思うんだ。
勇者が少しだけ未来を考えられるようになった豆のスープ。
そんなに美味しかったのでしょうか。豆のスープ……。




