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第八話:隠蔽工作は、計画的に

 あの地下ドームの衝撃から数日後。


「ライン、今日の分の決裁書類よ。速やかにサインを」


 執務室に現れたアルテは、すっかりいつも通りのクールな補佐官に戻っていた。


 ……うん、


 見た目と声はいつも通りなんだ。

 

 いつも通りなんだけど。


「アルテ。お前の後ろにいる、カチカチうるさい鈍色のデカブツ三体は何だ」


 アルテの背後に、あの国家転覆級の古代魔導兵が、綺麗に一列に並んで直立不動で佇んでいた。騎士団長レオンほどはあろうかという背丈の超古代の金属の塊が……三体も……狭い執務室にいるせいで、圧迫感が限界突破している。


(まて……三体??)


「この子たち? 慣れると結構かわいいよ」


「どこがだよ! 目から光の矢を出す殺戮兵器だぞ!?」


「だいたい、一生寝てろって命令しとけって言ったはずだぞ!? なんで増えてんだよ!!!」


「ほら、お座り。お手。……よしよし、いい子」


 アルテが俺の叫びを無視して、淡々とした声で指示を出すと、ギチギチギチと重厚な駆動音を響かせ、魔導兵が律儀にお座りをして巨大な鋼鉄の拳を差し出した。アルテがその拳をポンポンと叩いている。


「わあ! すごーい! これがちぃねえの魔導兵ってやつ??かっこいいね!! ウチにも貸してよ!」


 部屋にやってきた末っ子のニナが、無邪気に目を輝かせて魔導兵の側でキャッキャと喜び始めた。すると魔導兵の単眼センサーが蒼色に優しく明滅し、今度は三体で組体操を始めた。


「おいアルテ、これは早く元の場所に早く戻してきなさい。うちではこんな危険なペットは飼えません」


「ライン、これはペットではなく、失われた古代のロマンです」


 アルテが珍しく、真紅の瞳をキラキラと輝かせて熱弁を振るい始めた。


「古き伝説が正しければ、古代人はこの魔導兵を使役することで、あらゆる過酷な労役から解放されていたの。つまり、この子たちは人類の至宝、平和の象徴――」


「ふざけんな! 俺はその平和の象徴に焼き殺されそうになったんだぞ!? こっちはこれをどうやって国から隠そうかって頭を痛めてる時に、何連れてきて芸を仕込んでんだこのオタク補佐官!!」


 俺が頭を抱えて怒鳴ると、アルテは「ちぇっ」と不満そうに小さく唇を尖らせた。その様子を見たレイラが、部屋の隅で腕を組みながら苦笑している。


「まあ待てライン殿。私もアルテに付き合って、この数日間、あの遺跡を国から隠すための隠蔽工作をいくつか試してみたのだ」


「おお、さすがレイラ! で、どうだった!?」


「……」


「……? レイラ殿? いかがでした?」


「……」


「あ……姉上……いかがでしたでしょうか……?」


「うむ! よくぞ聞いてくれたっ!」


 現金な義姉上が、屈託のない笑顔で自信満々に指を一本立てた。


「まず【プランA:遺跡への入口を埋め立て、イモ畑を作る】だ! これで見事に地下への入り口は隠せたのだ!」


「よし! さすが俺のアイデア!」


「だが、あの魔導兵どもは起動した後は『魔力の循環』が必要らしく、一日に一回、地下ドームの通気口から、大量の赤黒い熱気(排熱)を地上へ噴き出すことが判明した」


「……噴き出すとどうなるんだ?」


「上にあるイモ畑が、一瞬で『爆速ホクホク焼きイモ』になって全滅する」


「プランA、却下だ!!! 芋が焼けるような不審な畑、査察団が見たら一発で怪しまれるわ!」


「安心しろ、次はアルテの【プランB:通気口の上にレム領の特産品を扱う『巨大焼きイモ工場』を建てて排熱をカモフラージュする】だ!」


「新しい基幹産業の誕生よ。よかったねライン」


「急に商売に走るな!! なんでこの大ピンチに新事業立ち上げてんだよ!」


「フッ……それも、熱気が強すぎて工場ごと消し飛びそうだから諦めたのだ! 最後の【プランC:一千五百体すべてに可愛い服を着せて『ただの巨大なぬいぐるみ展示場です』と言い張る】だが――」


「あ、それウチのアイデアだね♪」


「通るわけねえだろそんな狂った言い訳!! 帝国の査察団の目は節穴か何かか!?」


 全プランが秒で崩壊した。


「まあ、難しい事はわからんが、ライン殿、つまりは私がぶっ壊せば良いのだなっ?」


…………ダメだ、あの一千五百体の爆弾を隠し通す画期的なアイデアが、全く浮かんでこない。


 その時だった。


 バタンッ! と執務室の扉が勢いよく開き、一人の伝令兵が息を切らせて飛び込んできた。


「ほ、報告します! 帝都からの魔道書簡です! 我がレム領への査察の日程が大幅に前倒しされました! 査察団はすでに帝都を出立した模様です!」


「……は?」


 俺の頭の中が真っ白になる。


 予定では、査察団が来るのはまだ数ヶ月先のはずだった。それまでにゆっくり魔導兵の隠し場所を作るつもりだったのに。


「あ、あとどれくらいで、ここに来るんだ……?」


「お、およそ……三十日後です!」


「三十日ぃぃぃぃ!?!?!?」


 俺の絶叫が、執務室に虚しく響き渡った。

 猶予はわずか30日…。


 もし一五○○体の魔導兵が帝国に見つかれば、大量破壊兵器を隠蔽した事実で叛意ありとして領土はお取り潰し、最悪俺は死罪…。


 急げラインよ。

 お前のサボりライフ(というか命)がかかった帝国本国の査察の日まで――あと、三十日しかないのだ!

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