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サボりたいだけの新米領主、全自動で名将に祭り上げられる〜領土を返納して隠居したいのに、家臣の勝手な勘違いで天下がひっくり返りそうです〜  作者: はるりん
第五章 もやしっ子の王国

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第七十話:アルバトロスは、高く舞う

 深夜、オルティジア島東端の都市メッセ。


 先ほどまで静まり返っていた城の裏門から、数影が夜闇に紛れて滑り出した。


 その先頭を走るのは、誰あろう、新調した国王用の甲冑に身を包んだ俺だ。


 供回りは数名。手には最低限の荷物。


 ――チャンスは今しかない。帝国の艦隊は今、油断している!


 帝国軍の上陸まであと半日。ガルシア将軍は要塞島で泥酔している。そして我が軍の将軍どもは、俺が何か神算鬼謀の罠を仕掛けると信じ込んでいる。

 昼間の軍議でレオンたちが導き出した結論を、俺は脳内で一蹴していた。そんな生ぬるい時間稼ぎ、十万の魔導艦隊を前にすれば何の意味も持たない。


 すり潰されて終わりだ。


 勝機があるとするならば、敵が勝利を確信して泥酔している「今」しかない。そして、空を覆い尽くさんとするこの「嵐」の夜をおいて他にない。

 十万の軍勢をひっくり返すための、これが唯一にして絶対の奇襲戦路ルートだ。もやしっ子と侮られたままで終わってやるものか。


 俺はただ走る。

 目的地もわからず、供回りの騎士も続く。


 城門を過ぎる頃…


「皆、ライン陛下に続けー!」

 闇の中、騎士団長レオンが、騎士団に号令を出す。ガシャガシャと小気味よい金属音を響かせ、目をギラギラと輝かせた親衛隊の面々が続く。

――籠城して時間を稼ぎ、首都レムへ敵を誘導する?

 

「皆陛下に遅れるなー!我ら親衛隊、地獄の果てまでお供いたしますぞー!」


 レオンが抜き身の剣を振り下ろし、親衛隊に檄を飛ばす。路地の奥から、さらには大通りから、松明を持った兵士たちが「聖王に続け!」と地響きを立てて集まってきた。


 俺の覚悟に呼応するかのように、兵士たちの瞳には決死の炎が宿っている。

 引き返す選択肢など、最初から捨てている。俺は必死で荒くなる呼吸を整え、ポーカーフェイスのまま「全軍、俺に続け」と静かに告げ、歩を進めた。


 そうして夜闇を進み、辿り着いたのはメッセの小高い丘の上に建つ、古びた神殿だった。


 マルマラ湖の女神を祀るその場所は、古来よりオルティジア領の戦の際、王族が必ず戦勝祈願のために訪れる神聖な神殿である。


 神殿の境内に足を踏み入れ、俺が振り返った時、その数に胸が熱くなった。


 レオンの呼びかけに応じ、「陛下の決死の奇襲に命を懸ける」と集まった手勢の数は、いつの間にか一千五百名ほどの大所帯に膨れ上がっていたのだ。


 一千五百対、十万。


 どっからどう見ても無謀な戦力差だ。だからこそ、この一千五百人を「死兵」に変える最後のピースが必要だった。俺は厳かに神殿の祭壇へと向かった。



 外では激しい風が吹き荒れ、黒い雷雲からポツポツと激しい雨が降り始めていた。

 神殿の祭壇の前に立ち、俺は深く息を吐き出す。

 俺は厳かに両手を広げ、天を見上げて祈祷を始めた。


「――大いなるマルマラの女神よ。我が声を聞き届けたまえ。今こそ、我が軍に勝利の道を」


 その瞬間、ぴかっと激しい稲妻が夜空を裂き、轟然たる雷鳴が世界を震わせた。


 ギィィ……と、神殿の奥の天井窓が風で開いたかと思うと、そこから一羽の巨大な白い鳥が、激しい羽ばたきと共に嵐の空へと飛び立っていった。


 白い翼を広げ、雷雲の中を高々と舞い上がるその姿は――航海の安全と、絶対的な勝利の象徴とされるアルバトロスであった。


「な……ッ!?」


「アルバトロスだ! この嵐の夜に、神殿から女神の鳥が……!」


 兵士たちの間に、地鳴りような大どよめきが沸き起こる。

 俺はすかさず振り返り、冷徹で力強い声を張り上げた。


「見よ! アルバトロスは女神の化身! この嵐の湖へ漕ぎ出し、敵を討てという啓示だ。――諸君、この戦、我らの勝ちだ!!」


「おおおおおおおーーーッ!!!」


「神託だ! 女神は我らに微笑んだ!」


「聖王陛下万歳! ライン陛下万歳!!」


 一千五百人の兵士たちが、武器を打ち鳴らし、狂喜乱舞した。士気はもはや最高潮、計り知れない爆発的な熱量が神殿を包み込む。勝利を微塵も疑わない、最強の軍勢がここに誕生した。


――いやいやいや、神殿から鳥とかマジでビビったんだけど!これ、マジで奇跡起きちゃった!?

俺は人知れず冷や汗を流していた。



 一方その頃。



 神殿の裏手の暗がりでは、空になった特大の鳥籠を抱えたギルバートが、暗闇の中でフッと不敵な笑みを浮かべていた。

「ククク……上手く行ったわい。ライン陛下、これはこの爺めのプレゼントにございます。ご武運を。」

 すべてはギルバートの仕込みだったのだ。

 十万の軍勢をひっくり返すには、理屈ではなく「神が味方している」という絶対的な狂信が必要だった。それを察した老臣の機転であったことを俺が知ったのは、これから少し後の事。


とにかく、これで賽は投げられた。



「全軍、港へむかえィィィッ!」


 レオンの咆哮と共に、無敵のメンタルを手に入れた一千五百人の決死隊は、メッセの港へと駆け下りた。


 港に配備されていたのは、オルティジアが誇る最新鋭の軍用高速船の数々。機動力だけに特化した、奇襲のための船だ。

 ザザァンッ! と激しい波飛沫を上げ、一千五百の兵を乗せた高速船の艦隊が、荒れ狂うマルマラ湖へと出撃する。

 湖の季節風に乗り、帆を限界まで張った高速船は、文字通り水面を滑るような凄まじい速度で波を蹴立てて進んでいく。


「素晴らしい速度だ! まるでマルマラの波そのものが、陛下を導いているかのようだ!」


「敵は油断している! 桶狭間の如く、敵の本陣を突き崩せ!」


 宵闇に紛れながら、兵士たちは未だに熱狂の渦の中にいた。

 そんな船の先頭の甲板で、手すりを掴んでいる俺はというと――。


(うぷっ……お、おろして……揺れすぎだろこの船……!)


 緊張による胃の激痛に加え、アトラクション並みの激しい揺れによる船酔いのダブルパンチを喰らい、完全に白目を剥いていた。

 格好良く立っているように見えるのは、手すりを離すとそのまま湖へ転げ落ちるからだ。だが、目は死んでいない。吐き気と戦いながらも、俺の視線は前方を鋭く見据えていた。


 すると、ぴかっと、激しい稲妻が湖上を照らし出す。


「嵐がくるぞ!」


 その青白い光の中に、輪郭が浮かび上がった。


 要塞島の周囲を完全に埋め尽くすように停泊している、帝国軍の巨大な黒い魔導鉄甲船の影。それが、十隻、百隻、千隻と、暗闇の向こうから無数に姿を現したのだ。

 いくら祝宴で油断しているとはいえ、こちらの一千五百人に対して、敵は二千隻の艦隊と十万の軍勢。


 近づくにつれて分かるその圧倒的な「鉄の山」のスケール感に、俺の心臓は激しく高鳴る。


(うぷっ……ていうかマジでデカすぎだろ……だが、ここまできたらもう止まらねぇ……敵の本陣、必ずブチ抜いてやる……!!)


 激しい吐き気と、目の前に迫る絶望の巨影を前に、ラインは覚悟の牙を剥き、心の中で静かに闘志の炎を燃やすのだった。

読んでいただき、本当にありがとうございます!

新調した甲冑を着て単騎出陣したラインに続く、レオン以下1,500人の決死隊。

さらに、ギルバートの「神託ヤラセ演出」によって兵士たちの士気は限界突破!

アトラクション並みの船酔いで白目を剥きながら手すりを掴むラインを乗せ、1,500の決死隊は嵐のマルマラ湖へと躍り出ます!

現在【毎日 朝7時 / 夜7時】の1日2回更新中!

次回は明日 夜7時時に公開予定です!

泥酔した帝国軍2000隻の大艦隊に対し、船酔い全開の聖王ラインが仕掛ける「前代未聞の奇襲作戦」の行方は――!? ぜひお楽しみに!

【読者の皆さまへお願い】

「夜逃げが奇襲になって1500人に増えるので爆笑した!」「ギルバート爺さんのファインプレー最高!」「船酔いラインの勘違い無双が楽しみすぎる!」と思ってくださった方は、

ぜひページ下部の**【★★★★★】での評価やブックマーク**で応援していただけると、執筆の大きなパワーになります!

引き続き、ラインと熱すぎる仲間たちをよろしくお願いいたします!

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