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サボりたいだけの新米領主、全自動で名将に祭り上げられる〜領土を返納して隠居したいのに、家臣の勝手な勘違いで天下がひっくり返りそうです〜  作者: はるりん
第五章 もやしっ子の王国

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第六十五話:現実逃避の朝と、招かれざる客

ハッ……!!


 俺は全身から嫌な汗を噴き出しながら、ベッドの上で跳ね起きるように目を覚ました。

 荒い息を吐き出し、バクバクと激しく打つ胸に手をおく。


「ゆ……夢か……! なーんだ、夢だったのか……!」


 俺は自室のベッドの上で泥のように眠り、そのまま酷い悪夢を見ていたらしい。


 夢の中で俺は、死んだ親父の跡を継いで領主になったあと、成り行きで独立。

 ……なぜか周りから『聖王』なんて祭り上げられていた。


 さらにバルドゥア帝国が本気を出して西部方面軍十万を動員したとか、マルマラ湖を埋め尽くす超巨大艦隊が迫っているとか、レオンがギラギラした目で「決戦の刻です!」とか叫んでいたとか……。


「はは、ははは! 焦ったぁ〜! イヤー悪い夢見たぁ! いくらなんでも都合良すぎなんだよなぁ!」


 俺は冷や汗を拭い、ぽかぽかの日差しが差し込む窓の外を見上げた。


「よかった……俺の平和な生活は終わってなかったんだ。あー怖かった。二度寝しよ、二度寝」


 ホッと胸を撫で下ろし、再びフカフカの毛布に包まれて目を閉じようとした――その時だった。


 ガチャリ。


「……何ニヤニヤしてるの?」


 自室のドアが開き、着替えの服を手にしたアルテが、ゴミを見るような冷ややかな視線で立ち尽くしていた。


「あ、アルテ! 聞いちゃってくれよ! 俺さっき、帝国軍十万が押し寄せてくるっていうめちゃくちゃ後味の悪い悪夢を見ちゃってさぁ〜! いやー、夢で本当によかったよ!」


 俺が満面の笑みで言った、その瞬間。

 すっ、とアルテがベッド脇に歩み寄り――無言で俺の両頬を鷲掴みにした。


「あぐっ!?」


 そのまま、容容赦のない力で


 ギュウゥゥゥッ!!


 と締め上げ、引き絞る!


「いたたたたたたたっ!? 痛い痛い痛い! アルテ、なに!? なんで俺の顔引きちぎろうとしてんの!?」


「夢なわけないでしょ。いい加減現実を見なよ?……それにほら、窓の外を見てみなさいよ」


 アルテが冷ややかな声で、俺の顔を強引に窓の方へ向けさせた。

 庭園の青々とした芝生の上。

 そこには、昨日俺が絶望のあまりポロリと落としたお気に入りの麦わら帽子が、ポツンと泥に汚れて転がっていた。


「……あ」


「ついでに言うと、港にはこれから西側諸国から対帝国戦用の支援物資が続々届くよ。さあ、現実逃避は終わった?」


「い、いだだだだっ! 夢じゃない! 夢じゃないから頬っぺた千切れるぅぅぅっ!!」


 アルテの手が離された瞬間、俺はベッドの上で頬を押さえてゴロゴロと身悶えた。


 じくじくと痛む両頬。


 そして、それ以上に激しく痛み出す俺の胃袋。


(十万……本当に攻めてくるの……? 俺の平和な日向ぼっこ生活、本当に一日で終了したの……??)


 俺が再び白目を剥き、絶望の淵へと沈んでいこうとした――その時。


「それとも……」


 ふわり、と甘い香りが鼻腔をくすぐる。


 アルテがベッドに横たわる俺に覆い被さり、おでこにコツンと自分のおでこをぶつけてきた。


「眠れる若獅子様には、目覚めのキスが必要?」


「なっ……!!?」


 心臓がドクンと跳ね上がる。

 至近距離で見つめ合う真紅の瞳。だが次の瞬間、アルテは耳まで真っ赤になって顔をそらし、弾かれたように距離を取った。


「もう……何言ってんの、ラインのバカ」


「いや俺じゃねえし! てか照れるくらいなら最初からやるなっつーの!!」



 一方その頃――バルドゥア帝国・西部方面軍の軍営。

 大湖に臨む巨大な軍港では、重装軍船や巨大輸送船が何百隻と繋がれ、出撃の準備が進められていた。


「オルティジアのライン……恐ろしい男だ」


 旗艦の甲板で腕を組み、湖面を見つめる巨漢がいた。

 帝国西部方面軍司令――ガルシア将軍である。


「先鋒の一万を一瞬で泥沼に沈め、一滴の血も流さず完封してみせたか。小細工や生半可な兵力では、あの男の深謀遠慮とやらに踊らされるだけ……」


 ガルシアは獰猛な笑みを浮かべ、背後に控える十万の将兵たちを見渡した。


「だが、我が軍集団十万による圧倒的物量の前には、いかなる神算鬼謀も無力! 今度こそあの島国を根こそぎ押し潰し、ラインの首を我が皇帝陛下へ捧げてくれる!」


 帝国の巨大な歯車が、オルティジアを滅ぼすために激しく動き始めていた。



「――というわけでライン様! 帝国軍十万の進軍に対し、我が軍も水陸両面での防衛陣形の再構築を急いでおります!」


 王宮の会議室。


 騎士団長レオンが、熱のこもった声で地図を指し示していた。

 俺は胃薬を水で流し込みながら、死んだような目でそれを眺めていた。


(十万かぁ……十万ねぇ……。もういっそ、白旗上げて降伏するので庭で日向ぼっこさせてくださいって言ったら許してくれないかな……)


 現実逃避の限界に達していた俺の耳に、バタバタと慌ただしい足音が飛び込んできた。


「た、大変です! ライン様、レオン様!」


 内政官のマルコが、額に大量の汗を浮かべて駆け込んできた。


「マルコ殿、落ち着かれよ! 帝国軍十万の報せならすでに受けておる!」


「違います! 帝国軍の接近よりも前に……我が領内で深刻すぎる問題が発生しておりまして! 春に作付けを終えたばかりの領内の田畑が、大量発生した魔物たちによって荒らされております!」


「なに……!? この決戦の時に魔物だと!?」


「え、魔物? なんで急に?」


「わかりません! この数日で山間部から人里へ降りてくる魔物の数が例年の10倍にもなっておりまして……! 作物は食い荒らされ、街道は塞がり、領民たちから悲鳴のような通報が相次いでおります!」


 マルコは手元の報告書を震える手でめくった。


「特に北部山間の集落では被害が深刻でして……『民家にベアモスタ(熊の魔物)が勝手に上がり込み、食卓に座って家族の夕飯を食べていた』という報告まで上がっております!」


「……はい?」


 俺は思わず聞き返した。


「……食卓に座って、夕飯を食べてた?」


「はい! 住民が恐怖で固まっている前で、鍋に入っていたシチューを綺麗に平らげ、満足そうにフカフカのベッドで寝ていたそうです!」


「……それもう害獣っていうか、図々しい居候だろ!! なんでちょっとマナー良く飯食ってんだよ!!」


「ちょっと誰が図々しい居候よ!」


 思わず激しいツッコミを入れてしまったが、居候というワードに過剰反応するセシリア。


 とにかく……状況が笑い事ではないのは確かだった。


「くっ……冒険者ギルドは帝国軍への警戒や物資輸送の手配で手が回っておらん! 領民の危機を放置すれば、敵と戦う前に我が国の物流と兵糧が破破綻するぞ!」


「ですが、主力軍を魔物退治に割くわけには……!」


「……分かったわ。そこは私が引き受けるわ」


 セシリアがすっと立ち上がる。


「セシリア殿!?」


「主力軍を動かす必要はないわ。私に少し兵を貸してちょうだい。現地視察と害獣駆除に向かうわ。ライン、これでいいよね?」


「え? あ、うん。お願いできるなら助かるけど……無理はしないでね?」


「フン……まぁ、いつまでも居候じゃいられないからね!」


(あ、結構気にしてたんだな……)


 こうして、帝国の大軍が迫る未曾有の危機の中で、まずは「領内を荒らす魔物どもの駆除」という緊急ミッションが動き出したのだった。



 数時間後――オルティジア北部、被害の最も深刻な山間の集落。


「……これは、ひどいな」


 現地に到着したセシリアは、荒れ果てた畑を見て眉をひそめた。

 作物は踏み荒らされ、地面には無数の獣の足跡が残されている。


「フフフ……セシリア殿、腕が鳴りますぞ……!」


 レイラがフランジメイスを担ぎながら、屈託なく笑う。

 魔物討伐に多く兵を割けない今、一騎当千のレイラが討伐隊として派遣されたのだ。


「待って、レイラ様。……何かおかしいわ」


 セシリアは足を止め、空中に手をかざした。

 彼女の持つ高い魔導の感応力が、大気の異変を察知する。


「この魔物たちの異常な活性化……源流はこの集落じゃないわ。……もっと遠く、マルマラ湖の対岸。グリュッグ山脈のマナが激しく乱れている!」


「帝国南部の……? 山が何かしたのか……?」


「ええ。毎年春先はマナが乱れるんだけど、今年は乱れが異常に大きかったみたいね。その影響がここまで届いて、魔物たちが暴走しちゃったんだわ」


 セシリアの目が険しく光る。


「魔物の発生元を断たなければ、害獣の流入は止まらない……! 帝国軍が到着する前に、営巣地を叩いて魔物の流れを止める作戦に出るわよ!」


「うむ! 難しい事はよく分からんが、つまり私が全てぶっ倒せばいいんだなっ!」


 レイラがメイスを構え直した――その時だった。

 キョエエエエエエエエッ――!!

 天を切り裂くような、高音の刺すような咆哮が響き渡った。


「!? 上空……!?」


 セシリアとレイラが弾かれたように見上げると、上空を覆う分厚い暗雲を突き破り、無数の影が降り立ち始めていた。


 一匹ではない。十、二十――いや、数十匹。

 巨大な皮膜の翼を広げ、鋭い鉤爪を光らせた飛竜の群れ。


「ワイバーン……!? 」


 上空を旋回するワイバーンの群れは、セシリアたちの頭上を目掛けて、紅蓮のブレスを吐き出しながら一斉に急降下を開始した――!


「くっ……! 密集体形! 盾を頭上に構え!!」


 空を埋め尽くす竜の群れが、牙を剥いて襲いかかる――!

読んでいただき、本当にありがとうございます!

悪夢だと思ったら現実だったライン。

アルテのおでこコツン&衝撃のデレに萌えていただけましたでしょうか笑

一方で、帝国軍が迫る中、まさかの「マナー良くシチューを食べる熊」などの害獣パニックが発生!

現地へ向かったセシリアとレイラの頭上に、凶悪なワイバーンの群れが襲いかかり――!?

現在【毎日 朝7時 / 夜7時】の1日2回更新中!

次回は明日 朝7時に公開予定です!

空からの脅威・ワイバーン群に対し、一騎当千のレイラとセシリアはどう立ち向かうのか……!? ぜひお楽しみに!

【読者の皆さまへお願い】

「アルテのデレと頬引っ張りのギャップが最高!」「シチュー食べる熊で吹いた」「セシリアたちのピンチの続きが気になる!」と思っていただけたら、

ぜひページ下部の★★★★★での評価やブックマーク**で応援していただけると、執筆の大きなパワーになります!

引き続き、ヘタレ領主ラインと仲間たちをよろしくお願いいたします!

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