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サボりたいだけの新米領主、全自動で名将に祭り上げられる〜領土を返納して隠居したいのに、家臣の勝手な勘違いで天下がひっくり返りそうです〜  作者: はるりん
第五章 もやしっ子の王国

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第六十一話:真の盟主は、湯煙に霞む

 対帝国同盟


 事もあろうに、成り行きで新興国の王になった俺が、同盟の盟主に祭り上げられそうになってしまった。

 いや、流石の俺でもそこは流されないよ?

 めんどくさいとかそういう話じゃないだろ。みんな冷静になろうよ…。

 俺が盟主の座を固辞したことで、諸国の代表たちは「誰を盟主に据えるか」という問題で頭を悩ませていた。

 誰もが「偉大なる聖王ライン陛下こそがふさわしい」と口を揃えたが、俺が放った「誰が上に立つかなど、心底どうでもいい」という一言が、思わぬ形で結実することとなった。


 会議の結果、同盟の「表面上の盟主」には、西側諸国の中で最大の領地と兵力を誇るルニア王国の国王、グスタフ6世が就任したのである。

 ルニア王国は開国千年を誇る歴史ある国。開祖は魔王を打ち倒した勇者ルニアであると言う。盟主としては申し分ない実力と格式だな。


 この決定に、一番胸を撫で下ろしたのは俺だった。


(良かった……! 本当に良かった……! 盟主なんて面倒くさいポジション、ルニア王が引き受けてくれて助かったよ。これで俺は目立たない一加盟国として、後ろの方でぬくぬく過ごせる……!)


 自室のベッドに寝転がりながら、俺は安堵の息を漏らしていた。


 だが、俺は知らなかった。


 俺を囲む側近や、西側諸国の首脳陣の脳内では、俺に対してまったく別の評価が下されていたということを。



「……ライン様。改めて、その深謀遠慮には恐れ入るばかりにございます」


 謁見の間で、ギルバートが心底感服した様子で深く頭を下げていた。隣に立つアルテも、熱っぽい眼差しでラインを見つめている。


「へ? 何が?」


 ポカンとする俺に、ギルバートは滔々と語り始めた。


「あえてルニア王に盟主の座を譲られたことでございます。自ら表舞台の矢面に立つことを避け、大国に顔を立てつつ、裏で同盟全体をコントロールする……。古代、東方世界において、六国を束ねて巨大帝国に対抗し、自らは相邦として裏から歴史を動かした伝説の軍略家――カジミールの再来と、各国代表も震え上がっております」


「そうよ。ルニア王も『自分はただの看板に過ぎない。同盟の真の頭脳はラインだ』って」


アルテが嬉しそうに付け加える。


結果として、俺には同盟最高顧問という、盟主すら一目置く影の支配者という恐ろしい役職が勝手に用意されていた。


(なんでだよ!! 盟主に押し付けたはずなのに、なんで俺が裏ボスみたいなポジションになってるんだよ!!)



 聖導国との不可侵条約締結に始まり、西側十二カ国による対帝国大同盟の結成。

 相次ぐ大偉業の裏で、俺の精神的キャパシティは、とっくに限界を超えていた。


「もう……無理……。限界って言ったの何回目だと思う?ちゃんと数えて…誰も俺を呼ばないで……仕事の話もしないで……」


ある朝、自室のベッドで白い灰のようになって倒れている俺を発見した側近たちは、大パニックに陥った。


「ライン様がお倒れになったわ!?」

「バカな! 我々のために不眠不休で膨大な神算鬼謀を巡らせておられたからだ……!」

「すぐさま王国最高の医師と、癒やしの魔導具を集めろ!」


 重臣たちが胃を痛め、心配のあまり涙を浮かべる。そして疲れ果てた俺を休養させようという事になった。

 かつて魔導兵の排熱利用で作った露天風呂に、ミスリル鉱石を浮かべることで、排熱との化学反応で疲労回復と滋養強壮の効果を極限まで高めるというその温泉て、しばらく休養を取ることになったのだ。



「……はぁぁぁぁ……生き返る……」


 湯気立ち込める広大な岩風呂で、肩までお湯に浸かり、深々と溜め息をついた。

 周囲は豊かな緑と美しい庭園に囲まれた、完全なるプライベート空間。お湯からはほんのりと甘いハーブのような香りが漂い、じんわりと身体の芯まで温もりが染み渡っていく。


「これだよ、これ……。俺が求めていたのは、こういう平和な時間なんだよ……」


ここ数日、勝手に西側同盟の裏ボスに祭り上げられた恐怖と徒労感が、少しずつ湯に溶け出していくようだった。


(もう二度と部屋から出たくないな。このまま温泉の妖精になって暮らしたい……)


 俺は虚無の目で天井を仰ぎ、完全なる現実逃避に浸っていた、その時だった。


 ガラガラガラ……


 と、脱衣所の木戸が遠慮がちに開く音が響いた。


「……ん? 誰か来た?」


 首を傾げると、湯煙の向こうから、白い薄布を身体に巻きつけた小柄な人影が滑り込んできた。


「お兄ちゃん、入るね♪」


「ぶふっ!?」


 お湯を吹き出しそうになった俺の目に映ったのは、艶やかな髪をアップにまとめ、褐色の肌を眩しいほどに露出させたニナだった。濡れたバスタオルが柔らかい身体のラインにぴったりと貼り付き、毒毒しいほどの毒気のない色香を放っている。


「ニ、ニナ!? なんでここに……!?」


「えへへ、お兄ちゃんが凄く疲れてるって聞いたから、ニナがお世話してあげようと思って! ほら、背中流してあげる♪」


「こら!それはちょっと前にやったでしょうが!!!ネタ切れだと思われたらどうするんだ!」


「んー??聞こえなーい笑」


 ニナはまったく無邪気な様子で俺の背後に回り込むと、柔らかい手でゴシゴシと俺の背中を擦り始めた。当然、その拍子に豊かに実った胸元が、背中に何度も当たる。


(あ、アカン! 心臓が破裂する! 癒やされるどころか血圧が爆上がりするんだけど!!)


「ちょっとニナ!! あんた何やってるのよ!!」


 バサァッ! と勢いよく湯返しを立てて乱入してきたのは、アルテだった。

 彼女はぴったりとした湯浴み着姿だ。赤面しながら、目尻に涙を浮かべて怒鳴り散らしている。


「ラ、ラインにそんなベタベタくっつかないでよ! だから子供は困るんだよ!」


「えー、ちぃねえこそ何しに来たの? お兄ちゃんはニナに甘えたいんだよ?」


「私はラインの主席補佐官だから、ラインの健康管理は私の仕事なの!」


 アルテは顔を真っ赤にしながら、お湯をバシャバシャとニナにかけ始める。


(いや、お湯熱い! そして目のやり場がなさすぎる! 二人とも布が薄すぎるんだよ!!)


俺が頭を抱えていると、さらに重厚な足音が近づいてきた。


「ちょっとライン?いるの?」

「セシリア!?」


現れたのは、セシリアだった。

彼女もまた、バスタオル一枚…


「なんでだよっ!なんでお前まで入ってくるんだ!」

「え?これがオルティジアの文化だってニナちゃんに聞いたわよ?異文化交流じゃない」

「んな都合のいい文化あるか!ニナも他所の国の人をからかうな!」


 異文化交流とは言ったものの、自身の露出した肌を意識した瞬間、セシリアの顔は茹でダコのように真っ赤になった。足元がガクガクと震え、今にも自爆しそうな勢いである。


(恥ずかしがるタイミングが遅えわ!)


 場が混沌を極める中、最後にのんびりとした声が響いた。


「むむっ!またみんなで風呂か!?」


 レイラが、湯煙の奥から歩いてきた。

 例によって、一糸纏わぬ生まれたままの姿での堂々たる登場である。


「だから!レイラはちょっとは隠せってば――」


俺が手を伸ばした、その瞬間だった。


「あ、足元がヌルッと――ぬぉあっ!?」


 温泉の濡れた床でレイラが見事に足を滑らせた。……お約束である。


「え」


 吸い込まれるように、レイラが俺に向かってダイブしてくる。


ドパーン!!


と激しい水飛沫が上がり、俺の顔面はレイラの豊満すぎる胸元へと見事に埋もれることとなった。


「んむぐぅ!?」


「ハハハ!すまないライン殿!ムムッ!?貴殿どこ触って……」


 突然、レイラがフッ…と優しく微笑んで、俺の頭を撫でる。


「ここが恋しいのか?フッ…やはりライン殿はまだまだ子供…いや、赤子ではないか!」


「んなわけないでしょレイラ姉様ーーーッ!! 何ラインを押し倒してるのよこの天然タラシ!!」


「ずるい! レイラねえだけお兄ちゃんにハグするなんてずるいー!」


「は、破廉恥な!これが異文化なのねっ!」


「あーもうお前らはごちゃごちゃうるせーーーっ!!」


ラインの悲鳴が虚しく響き渡った。



『警告シマス。魔導炉オーバーヒート。強制排熱ヲ開始シマス。』


混乱の最中、レイラが転んだ拍子に湯船の底にあった炉の温度調整装置のボタンを足で踏み抜いていたようだ。


ブシューーーーッ!!


「「「きゃあああ!?」」」


 温泉全体から爆発的な量の湯気が噴き出し、視界が完全にゼロになった。

 それと同時にお湯が泡立ち始め、俺たちは泡と湯煙の嵐の中で揉みくちゃにされる羽目となったのだった。



数時間後。


 俺は執務室のソファで、全ての力を使い果たし、魂の抜けた顔で横たわっていた。


「……もう……お風呂も……嫌だ……」


 癒やされるために温泉に入ったはずなのに、湯あたりと激しい興奮、そしてパニックの連続で、疲労は入浴前の三倍に膨れ上がっていた。

 そこへ、すっかり服を着直し、赤い頬で、どこかスッキリした顔をしたアルテが報告にやってきた。


「ライン、聞いて!」


「……もう何も聞きたくないんだけど……」


俺が蚊の鳴くような声で返すと、アルテは目を輝かせて言った。


「さっきの魔導温泉の噂を聞きつけた西側同盟の使節団から、『ライン閣下が開発されたあの「奇跡の魔導美容湯」の技術を、ぜひ我が国にも輸出してほしい』って」


「……は?」


「それに、私たちと混浴したって話が美化されて、諸国の間でオルティジアの魔導温泉文化として広がりそうだよ。」


ギルバートは深く深く頭を下げた。


「ご自身の静養すらも、オルティジアの新たな産業の開拓に繋げ、同盟国との経済的絆を深める道具とされるとは……。やはりライン様は、片時も国家の未来から目を逸らさぬ、真の指導者にございます!」


「……」


俺は何も言わず、静かに枕に顔を埋めた。


(俺は……ただ静かに……一人でお風呂に入りたかっただけなのに……)


 ホロリと一筋の涙が頬を伝い落ちる。

 こうして、俺の「静かな日常」を取り戻す戦いは、またしても敗北に終わったのであった。

ご覧いただきありがとうございます!

影の最高権力者に祭り上げられ、疲れ果てて逃げ込んだ温泉でも全員に乱入されて泡まみれになるライン。どこへ行っても休まらないのが彼の運命のようです。

さて、束の間の休息(?)も終わり、次回はいよいよ動き出すバルドゥア帝国との本格全面戦争編へ……!

果たしてラインの隠居ライフは何処へ!?

面白かった、ラインの胃腸を応援したいと思ってくださった方は、ぜひブクマや評価(★★★★★)をいただけますと執筆の励みになります!

次回もよろしくお願いします!


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