第六話:埋め戻せ、さもなくば破滅
ガギィィィィィン!!!
松明の炎をかき消さんばかりの衝撃音と共に、レイラのメイスと、目覚めた一体の古代魔導兵の鋼鉄の拳が激突していた。
「ハハハ! いい歯応えだ!」
露出度全振りの真紅のビキニアーマーを纏った義姉・レイラが豪快に笑うけれど、形勢は決して良くない。
なぜなら、魔導兵の紅い瞳は、レイラではなくその後方にいる次女のアルテを完全にロックオンしていたからだ。
魔導兵は驚異的な駆動速度でレイラを躱すと、一直線にアルテへと突進する。
レイラはアルテを庇いながら折れたメイスを振るうけれど、一瞬の隙を突かれ、ついに防衛線が突破された。
不気味な錆に塗れた巨大な鋼鉄の拳が、アルテの眼前に迫る。
「しまっ……アルテ,逃げろ!!」
レイラの悲鳴が響く。絶体絶命の瞬間。
――ピタリ、と。
アルテの鼻先数センチのところで、魔導兵の拳が停止した。
「……え?」
アルテが息を呑む。
銀髪を揺らし、その真紅の瞳で魔導兵を見つめ返すと、魔導兵の紅くギラついていた単眼が、彼女をスキャンするように激しく明滅し――。
やがて、静かな蒼色へと変化した。
ギチギチギチ、と太古の金属が擦れ合う駆動音を響かせ、人の背丈を少し超えるくらいの鈍い銀色の兵器が、アルテの前へと深く、深く跪く。
唖然とするアルテの脳内に、無機質な、されど絶対的な忠誠の乗った機械音声(念話)が直接響き渡った。
『アルテ=オルティジアヲ、アラタナマスタートシテ登録……成功シマシタ。システム、オンライン。……命令ヲ』
「私が……マスター?」
魔導兵は立ち上がると、新たな主を先導するように、カチ、カチ、と音を立てて歩き出した。
「ついて……こいと言うのか?」
「姉さん……この人形、我が主って言った?」
「何!? 私には何も聞こえないぞ? アルテが……主だと……!?」
俺とレイラも、アルテの後を恐る恐るついていく。
太古の兵器は、遺跡のさらに奥にある、見たこともない結晶でできた重厚な大扉をゆっくりと押し開いた。
その先に足を踏み入れた瞬間、俺たちは言葉を失った。
◇
そこは、街が一つ丸ごと収まりそうなほど広大な、巨人の胃袋のような地下ドームだった。
先導していた魔導兵が、ふと足を止める。
その単眼が怪しく赤熱したかと思うと、前方に立ちふさがっていた崩落した岩塊に向けて、突如として一筋の光の矢を放った。
ブォンッ、という空気の震える音と共に、岩塊が爆発的な音を立てて塵へと還元される。
無音の破壊。溶断の余熱が、俺たちの肌をビリビリと焼いた。
「なっ……目から、光の矢を……!?」
「ありえない……! あんな強力な魔術を! 帝都の宮廷魔術師並みだぞ!?」
レイラが戦慄し、アルテが信じられないものを見る目で魔導兵を見つめる。
たった一体でこの火力だ。……もしこれが敵に回っていたらと考えると、背筋に冷たいものが走る。
俺は震える足で、その光景の先――ドームの深淵を凝視した。
闇の中で、無数の『単眼』が、まるで星空のように冷たく光を湛えている。
「おい、あれを見ろ……」
俺が指差した先には、幾何学的な列を成して整然と並ぶ、魔導兵の姿があった。
一列に百体……いや、奥行きが十……二十……。
「……数え切れない。百、二百、五百……」
アルテの瞳が絶望に揺れる。
奥へ進むにつれ、その数は俺の認識を容易く破壊していった。
千を超え、一千五百。
見渡す限りの地下ドームを埋め尽くす、沈黙の軍勢。
(……噓だろおい。俺たちの足元に、こんな国家転覆級の大量破壊兵器が眠ってたってのかよ!?)
もしもこの軍勢が暴走して地上へ這い出していたら――。
このレムに暮らす領民なんて、文字通り『塵』にされて消し飛んでいたはずだ。
(こんな危険物、今すぐ帝国に報告しなきゃ領主の俺まで『隠蔽罪』か『叛逆罪』で一発死罪じゃねえか!)
◇
ラインの脳裏に、最悪の未来がよぎる。
いや、仮に今すぐ素直に国へ報告したとしても同じだ。帝都から大がかりな調査団や軍が押し寄せてきて、このオルティジア辺境伯領は完全に帝国の監視下に置かれる。
そして……この兵器の『鍵』であるアルテは実験体にされ、俺たちは領地ごと目をつけられて生涯幽閉か、用済みとして消されるのがオチだ。
報告しても死、隠蔽しても死。どっちに転んでもサボりライフは永久に終了する。
(ああ、帝都の川の流れが恋しい……士官学校のみんなは元気かな……)
いや、まだだ。まだ諦める時間じゃない。
ラインは秒で白目を剥くのをやめると、ガシッと二人の肩を掴んだ。
「レイラ! 今すぐこの扉周辺の岩盤をブチ壊せ! それからアルテ、そのデカブツに『機能停止して寝てろ』って命令するんだ!」
「は、はあ!? ライン、何を言っているんだ! これは歴史的な大発見で――」
「うるせえええ!! いいか二人とも、俺たちは何も見なかった! ここには何もなかった! 今すぐここを埋め戻して、上から畑でも耕すぞおおお!!!」
必死の形相でクソ情けない隠蔽工作を提案するラインの声が、広大な地下ドームに虚しく響き渡っていた。




